第37話 キャンディの眷属
死霊の館、入り口広場。
さっきまでキャンディを狙った悪徳商人とゆかいな仲間たちと戦ってたんだけど、一瞬にして勝利を収めてしまった。
「キャンディ、なに今の魔法……?」
巨大な剣が雷のように落ちてきて、相手は全滅した。いや滅してはないんだけど。なんだあれ……強すぎだろ。
「どうじゃ。拙者の秘奥義、ライトニングブレードじゃ。こんなに威力はなかったはずなんじゃが……」
シュータの使い魔になったから増し増しパワーアップじゃ、とキャンディは言うと、へたり込んで放心しているエッグたちを睨みつける。
「二度と拙者たちの前に姿を見せるな」
「あ、ああ……今のはまさに神の鉄槌……」
「ライトニング・ヴァンパイア……様……」
エッグと魔物使いはキャンディの言ったことを素直に聞いたのか聞いてないのかわからないような感じで、トボトボと帰っていった。
「あ、今の時間はお墓にアンデッドが……」
商人たちは魂が抜けたような顔でゾンビみたいに歩いていたせいか、墓地の魔物たちからスルーされていた。すごい戦法(?)だ。
「なんかちょいと様子がおかしかった気がするの。これでもうちょっかいかけに来なくなると良いんじゃが」
「多分大丈夫だと思うよ」
なんか神とかヴァンパイア様とか言ってたし。
「……その、シュータは、人間相手にあんな魔法を使う拙者が恐ろしくなったりしたか?」
「いや、普通にすげー魔法でカッケー! って思ったけど」
「ふふ、そうかそうか。お主は面白いの。使い魔になって正解じゃ」
そう言うとキャンディは小さく笑った。
「キャンディこそ、ヴァンパイアを倒しちゃって良かったの? 仲間だったんじゃ」
「グール・ヴァンパイアは同族を喰らい、理性を失ったヴァンパイアじゃ。1度アレになってしまったら、戻ることは出来んからの」
「そっか」
倒れているグール・ヴァンパイア達はどうするんだろう、と思ったら、キャンディが魔法でコウモリに変えてしまった。
「懲りずにまた襲ってくるようなら、次は蚊に変えてやるからの」
「キ、キー……」
2匹のコウモリは慌ててパタパタと逃げていった。
「ヴァンパイアには戻れんが、別の生き物に変える事ならできるのじゃ。そう、拙者の魔法ならね」
え、怖。
__ __
戦いの後、夜になっていたこともあり、墓地から魔物がわらわら湧いてきていたので、
俺たちはキャンディの部屋に避難した。まあ、キャンディのあの必殺技を使えば余裕で倒せそうだけど……
ついでに今夜は泊まっていくことになった。ダンジョンに泊まるのって、台風の日みたいでなんだかワクワクするな。
「そうだ、お主に渡した拙者の涙じゃがの」
「あ、うん」
俺はカバンにしまっていたヴァンパイアの涙が入った小瓶を取り出した。
そういや元々、これを手に入れるために来たんだった。
最初はヴァンパイアを倒してでも手に入れてやるぞ! って感じだったのに、気づいたら使い魔契約までして、一緒に戦っていた。
「日除けの香水を作るレシピを渡そうと思ったんじゃが、せっかくだし、拙者が作ってやろう」
「え、いいの?」
「レシピを見れば他の者でも作れんことは無いんじゃが、若干性能が劣化するでの」
「そうなんだ。じゃあお願いするよ」
せっかくだし、シルクの為にもちゃんとしたのを作ってもらおう。
「それじゃ、出来るまでしばらく待っておるのじゃ。おーい!」
ドタドタ……ガチャッ!
「キャンディ様よんだー?」
「なんだキャンディ……って、あ! 昼間の庶民じゃねェか!」
「なんでここにいんだよ! 危ないから帰れって言ったのに!」
「え? ……あ! 君たち!」
いきなり部屋に数人の子供たちが現れた。というか、ここに来た時に墓地で肝試しをしていた世紀末キッズ達だった。
「こんなとこで何してんの? てか君たち、王都の貴族の子供とかじゃ……」
「私たちは、キャンディ様の眷属のヴァンパイアよ。元々は人間で、王都の孤児だったんだけど」
「キャンディ様が俺たちをヴァンパイアにしてくれたんだ!」
そういえばキャンディの話を聞いたとき言っていた気がする。まさかこの子たちだったとは。
ライトニング・ヴァンパイアの眷属である彼らもまた、日光に耐性がある。
その為、昼間に墓地で人間のフリをして遊びつつ、俺みたいな子供が立ち入った際は、魔物に襲われないよう帰るように忠告しているらしい。
だいぶ口調がとげとげしいというか、ひねくれてるっていうか、クソガキって感じだったけど。
「というわけでシュータよ、香水が完成するまでこやつらと遊んでおれ」
「庶民! かくれんぼしようぜ! 庶民が鬼な! 鬼だけど庶民だけ館にいる魔物が襲ってくるけどな!」
「それもうハンデとかそういうレベルじゃないじゃん」
「アナタの血はとても美味しいとキャンディ様から聞いたわ。負けたら私に血を飲ませなさい」
「そんなカ〇ジとかアカ〇みたいな罰ゲームやだよ……」
初めてのダンジョンお泊りは、賑やかな子供たちの笑い声と共に、ゆっくりと過ぎ去っていった。
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