第36話 決戦! グール・ヴァンパイア



「シュータ、あちらさんが来おったぞ」



「うん。きゅーたろう、隠れててね」



「キュウ……」



 きゅーたろうを部屋に残し、キャンディと一緒に館から出る。



「おやァ、てっきり籠城するものかと思いましたが……」



「エッグ……いい加減しつこいんじゃ。拙者はもう貴様らの為に香水は作らん」



 外に出ると、そこには中年太りの悪そうな顔のおっさんと、魔物を連れたヤンキーみたいな兄ちゃんがいた。



「前回の結果を踏まえて、今日は2匹連れてきました。高かったんですから、しっかり働いてもらいますよォ……」



「任せときなってダンナ。おらっお前ら出番だ! 戦え!」



「ヴゥ……!」



「グルル……!」



「こいつらがグール・ヴァンパイア?」



「そうじゃ。前回は1匹だったがの」



 グール・ヴァンパイア。見た目はデカいゾンビって感じ。

申し訳程度に背中にコウモリの翼のようなものが生えている。あれじゃ飛べなそうだけど。

グール・ヴァンパイアは同族さえも襲うほどの獰猛な性格で、パワーとガードが高い。らしい。

すーくんに教えてもらった。



「おや、そちらは……また性懲りもなく子育てですか。さっさと吸い尽くして捨ててしまえばよいものを……」



「うわあ、性格終わってるね」



「子供を商品を買うための対価としてしか考えておらんのじゃ。拙者よりも魔物じゃなアイツは」



「隣の魔物使いは、グール・ヴァンパイアを2匹も従えてるってことはかなり強いんじゃない?」



「あの魔物使いは”アッパーポーション”で一時的に使役できておるだけじゃ。普段ならあのランクの魔物を従える力はない」



 アッパーポーションという、一時的にステータスを強化するアイテムを使って無理やり使役しているらしい。

ポーションは効果が強い分とても高価だが、今日の為に雇い主のエッグが与えたのだろう。



「キャンディさん、あなたを倒して使役させていただきます。日除けの香水を作ってもらうためにねェ……」



「すまんのう。拙者はもうシュータの使い魔になったんじゃ。お前らなんぞに使役はされんわい」



「なんですとォ……? そんなのは許されませんぞォ……! 魔物使い、その子供もろともやってしまいなさいィ!」



「承知ィ! おらいけっ! クソ魔物どもっ!!」



「ヴァァァ……!!」



「グアアアアアア!!」



「シュータ、1匹頼めるか?」



「おまかせあれ!」



 グール・ヴァンパイアが1匹、俺の方に突っ込んでくる。



「グガゥ!!」



「うわっと!」



 ガキンッ!



「グァッ!?」



 グール・ヴァンパイアの攻撃をガードしようとしたけど、その前に謎のバリアによって攻撃が弾かれる。



「そっか、夜になったから」



 俺のスキル、夜間物理攻撃無効が発動したらしい。グールが物理系でラッキーだったぜ。


 

「俺のターン! サンダーボール!」



 バリバリバリ!



「グァ!!」



 電気球をくらった相手がしびれて動きが遅くなる。

物理型でパワーとガードが高い分、魔法耐性は低そうだ。俺と一緒じゃん。



「チッこのガキ魔法使えんのかよ! なにやってんだクズグール! さっさと動け!」



「グァアアア!」



 魔物使いが何か呪文のようなものを唱えると、魔物の周りに黒いオーラのようなものがただよいはじめる。



「あれは”強制解除”じゃ! 使役している魔物の力を限界まで引き出すかわりに、魔物は寿命を削られる……あのクズ魔物使いめが……」



「グァ……アアアア!」



 サンダーボールのダメージを引きずりながらも、俺を倒そうと近づいてくるグール・ヴァンパイア。



「さっき覚えたあれ、試してみるか……」



 サンダーボールの練習中に新しく習得した技があった。ぶっつけ本番だけど、まあやってみるか!

俺は右手に魔力が集中するようなイメージで、力を溜める。



「ガァァアアアアアア!!」



「サンダースラッグ!!」



 相手と距離が離れている状態で、俺は空中にパンチを繰り出す。



 バリバリバリバリ!!



「うわぁ!!」



 俺の右手に巨大な雷の拳が出現し、俺がパンチをする動作に合わせて巨大な雷の拳がグール・ヴァンパイアをぶん殴った。



「ぐぁああああああああああ!!!!」



 ……。



 …………。



 魔法の発動が終わると、そこには扇状に焦げた地面と、意識を失ったグール・ヴァンパイアが倒れていた。



「そ、そんな……俺の魔物が……」



「な、なんなんですかこの子供はァ……」



「よっしゃー勝った!」



 サンダースラッグかっけー! 強えー!



「キャンディー! こっちは倒したぞ! そっちはだいじょ……」



「ん? おうよくやったぞシュータ。ちょっと下がっておれ」



「な、なな……」



「ヴゥ……」



 ビリ……ビリ……



「なんだあれ……」



 キャンディと戦っているグール・ヴァンパイアの頭上に、雷を帯びた、巨大な剣のようなものが現れた。

俺のサンダースラッグなんかよりもずっとデカい。デカすぎて魔物使いとエッグの頭上まで覆ってる。



「ひィッ……に、逃げッ」



「お、おい、クソグール! 受け止め」



「ライトニング・ブレード」



 ガコンッ……バリバリバリバリバババババババ!!!!



「ヴァ……」



「えっ」



「ぬ」



 ババババババババババ!!!!!!



 ……。



 …………。



 魔法の発動が終わると、そこにはめっちゃ焦げた地面と、倒れたグール・ヴァンパイアと、放心状態の男たちが座り込んでいた。



「……グール・ヴァンパイアなんぞになりおって。バカタレが」

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