第34話 キャンディの過去
「使い魔になったからには、お主には話さないといかんの」
そう言うとキャンディは、ゆっくりと自分の事について話し始めた。
「シュータは日除けの香水を知っておるな?」
「うん。てかその為にここまで来たんだし」
「アレを作っているのは拙者じゃ」
「ふーんって、え!? キャンディが作ったの!?」
「そうじゃ。すごいじゃろ」
普通にすごいじゃん……
「原料のヴァンパイアの涙というのは、正確には拙者の涙のことじゃ。他のヴァンパイアの涙では効果がないのじゃ」
「え、そうなの?」
「拙者はライトニング・ヴァンパイアという、ヴァンパイアの上位種の1人での。本来ならヴァンパイアが苦手とする日光とも相性が良いのじゃ」
そういえばすーくんがライトニング・ヴァンパイアって言ってたっけ。吸血鬼なのに光が大丈夫とか、そんなん最強じゃん。かっけえー……
「元々は、他のヴァンパイア仲間たちの為に香水を作ったんじゃ。今はもうほとんどの仲間が地下街に移り住んでおるから、必要なくなったがの」
使う仲間がいなくなって、香水作りもやめようと考えていた時、キャンディの元へ1人の商人が訪れた。
「そいつの名前はエッグ・ベネディクト。王都の貴族向け商品を取り扱う、ベネディクト商会の代表と言っておった」
「ベネディクト商会……」
全然わからない……シャネルとかグッチみたいなもんかな。グッチ裕三。
「で、そのグッチさんがどうかしたしたの」
「エッグじゃエッグ。誰じゃグッチって。そやつが拙者の香水を仕入れたい、代わりにこれをやるからと言ってきた」
「これっていうのは?」
「人間の子供じゃ。やつは身寄りのない孤児を数人連れてきて、こう言った。1人当たり香水50本でどうだ、とな」
「マジか」
香水は1本140万エル。お代替わりの子供達は多分、何もわからず連れてこられたのだろう。仕入れ値0円だ。
「契約は成立し、拙者は香水を定期的に納品する代わりに子供たちを貰った。……拙者だって所詮は魔物じゃ」
しかしキャンディは、子供たちを殺すことはしなかった。
「香水を作りすぎたせいであまり泣けなくなった拙者は、ダメもとでガキどもに泣ける話をしてもらった」
そこで孤児としてスラムで暮らしていた子供たちの話を聞いて、あまりの過酷な生活に同情して泣いてしまったという。
話の礼にと食べ物を与えたら、こんなごちそう見たことない、と子供たちが泣いて喜び、それを見てまたもらい泣きしたらしい。
「全然すぐ泣くじゃん」
「う、うるさいの。それからは死なない程度に、毎日少しだけ血を貰った。代わりに食べ物を与えて、この屋敷で一緒に暮らしておった」
それからしばらくして、契約分の香水の納品が全て終わったころ。
再度エッグが訪ねてきて、追加の契約を打診してきたのだが、キャンディはそれを断った。
「ガキの面倒はこれ以上増えたらもう見切れんからの」
エッグは「それは残念です」というと、その日はおとなしく帰っていったという。
しかし、それから数日後……
「エッグは1人の魔物使いを連れて再びやってきた。その魔物使いが使役していたのがグール・ヴァンパイアじゃ」
そしてエッグはこう言った。「今面倒をみてる子供たちがいなくなれば追加の契約は可能ですね?」と。
「そして魔物使いは使役しているグール・ヴァンパイアに、拙者と暮らしている子供たちを襲うよう命令した」
グール・ヴァンパイアは通常のヴァンパイアよりも知性が劣る代わりに、同族でさえも捕食する獰猛な性格と力を有している。
「拙者はガキどもを守りながら必死に戦い、なんとか奴らを追い払うことに成功した」
「おおーやるじゃん」
それからキャンディは、残った力で子供たちを守るため、あることをしたという。
「さて、そのあることとは何じゃと思う? 、ハイ! シュータくん!」
「え、えーと、えーと……あ、ハイ! 空手を教えた!」
「ブッブーじゃ。てかなんじゃカラテって」
護身術的なやつではなかったらしい。残念。
「じゃあ正解は?」
「正解はじゃな……ドゥルルルル……」
「そういうのいいから」
「ガキどもをヴァンパイアにした、でした~」
「ええ……」
分かるかいそんなん。
「ちゃんと本人たちにも了承取ったぞ。これで長生きできる―って喜んどったわい」
まあそれは俺もちょっと喜んじゃうかもしれない。
しかし、子供たちをヴァンパイアにするのにかなりの力を使ったキャンディは、かなり弱体化してしまったという。
「まあそんな感じだったから、拙者は館の地下でひっそりと療養しとったわけじゃ」
しかし最近、遂に王都で日除けの香水が品切れになり、再びエッグたちがやって来るという情報が入ってきた。
「強制的に拙者に香水を作らせるため、あのグール・ヴァンパイアに館を襲わせる気であろう」
相手はキャンディがまだ弱体化していると思っている。キャンディを倒せば、魔物使いによって従魔契約を結ばされ、強制的に香水を作らされるだろう。
「というわけでシュータよ。拙者はあのクソ商人とクソ魔物使いをぶっ飛ばしたいのじゃ。一緒に奴らと戦ってくれんかの?」
「良いよ!」
「正直お主には戦うメリットなぞ無いと思うが、代わりに香水のレシピを……って即答するんかいの!」
ただでさえ生活が大変なスラムの子供たちをひどい目に遭わせるなんて許せない。
「それで、そいつらはいつ来るの?」
「いや、それが、じゃな……」
「うん」
「今夜じゃ」
今夜かよ!
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