第31話 ヴァンパイアと泣けるお話
「ヴァ、ヴァンパイア……? 君が?」
「そうじゃ」
キャンディと名乗ったヴァンパイアは、腰まで伸びた金髪に、シルクのような赤い目をした女の子だ。
身長は俺より頭一つ分くらい小さくて、なんだかお人形さんみたいだ。
「ここで1人で暮らしてるの? お父さんやお母さんは?」
「そんなもんおらんが」
「そっかあ。まだ小さいのに偉いねえ」
思わず頭をなでなでしてしまった。俺は一人っ子だけど、妹が居たらこんな感じなのかな。
「こら頭を撫でるな! 拙者はお主よりも年上じゃぞ!」
「うっそだー。ちなみに何才?」
「214才じゃ」
「げぇっロリババアじゃん! またかよ!」
「ロリババアって言うな! 拙者はセクシィなピチピチのヴァンパイアガール、キャンディちゃんじゃぞ!」
妹じゃなくておばあちゃんだった。てか拙者ってなんだよ。江戸時代じゃん。
「キャンディ、もしかして俺を食うためにここに誘い込んだの?」
ヴァンパイアは人を襲って奴隷にするって聞いたし、墓地で肝試ししてた世紀末キッズたちも生贄がどうとか言っていた。
「もしそうならもちろん俺は抵抗するぜ。拳で」
11才。
「あー拙者はそういうの興味ないから。まあ討伐にきた奴等は返り討ちにするがの」
「そうなんだ」
その辺はヴァンパイアによって違うらしい。
俺はキャンディに、「ヴァンパイアの涙」を手に入れる為、この館へ来たことを説明した。
「拙者の涙……日除けの香水を作りたいのじゃな?」
「うん」
「……お主もあの悪徳商人どもの仲間か?」
突如、キャンディの周りにものすごい量の魔力オーラが漂い始める。え、なんか地雷踏んだ?
「商人とかは知らないけど。友達が自由に外に出られるようになる為に、香水が必要なんだ」
「友達?」
「うん。ソイツ、影暮らしっていって、太陽の光に当たると肌がヤケドしちゃうんだ」
「影暮らし……そうか……」
キャンディは少し考えるようなそぶりをして、こちらへ向き直った。
「ヴァンパイアの涙、お主がどうしてもというならくれてやっても良いぞ」
「マジ!?」
なんだよヴァンパイアめっちゃ優しいじゃん!
「じゃあほれ、お主なんか、感動する話とか悲しい話とかせい」
「なんで?」
「拙者の涙が欲しいんじゃろ?」
「欲しいけど……え、そんな感じなの?」
「そんな感じじゃ。ちなみに拙者はそこらのよくある苦労話やお涙頂戴エピソードじゃ泣かんからの」
そう言うとキャンディは涙を保存する瓶を持って、ソファに寝っ転がった。
ちなみにきゅーたろうはベッドに潜って寝ている。
「うーん、じゃあ、まあ……」
とりあえず俺は、前世で金曜日の夜にやってた映画の話をした。
__ __
「うっ……うう……節子ぉ……」
「ボロ泣きじゃん」
可愛い顔がグッシャグシャだよ。
「あーもうほら鼻かんで鼻」
「ズビーッ」
「ヴァンパイアの鼻水はなんか素材になんの?」
「なるわけないじゃろ。グスン……」
という感じで、なんか思ったよりも簡単にヴァンパイアの涙が手に入ってしまった。
「200年生きてきて初めて聞いた物語じゃ。あまりにも辛い……やはり戦は何も生まないのじゃ」
まあこの世界のお話じゃないしね。
「ヴァンパイアの涙も手に入ったし、それそろ俺は帰ろうかな」
はやくシルクのために香水を作ってあげないと。
「待つのじゃ」
「ん?」
「お主、まさかタダでそれを持って帰るつもりかの?」
「あ、やっぱダメだった?」
流石にタダじゃくれないか。
「カバン買っちゃったからそんなにお金持ってないんだけど……」
「金なぞいらん」
プライスレスなんだ。
「拙者が欲しいのは……お主の血じゃ」
「なるほどね」
やっぱダメかもしれん。
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