第29話 きゅーたろうの友達?



「おっかしいなー、建物は見えてるのになー」



 ヴァンパイアの生息するダンジョン、死霊の館が建っている廃墓地に来たんだけど、

歩いても歩いても館までたどり着かない。



「実は今見えてるのは幻とか? うーむ……」



 後で知ったんだけど、死霊の館には、簡単に侵入できないような魔法結界が張られているらしい。

結界を張っているのがまさに館の主であるヴァンパイアで、館に入るには高ランクの魔法使いや、

結界無効の効果がある魔道具を持って来ないといけないそうだ。



 グー……



「お腹すいた~ちょっと休憩~」



 近くにあったなんかクネクネした木に腰かけて、カバンから食べ物を取り出す。

このカバンには”次元収納”のスキルが付いていて、見た目の10倍くらいの荷物を入れることができ、カバン本体の重さしかないという便利アイテムだ。

リフレックスを売ってそこそこお金があったので、スラム街の闇市を色々物色して安いやつを手に入れた。

中古だからちょっとボロいけど、なかなか気に入っている。



「上位スキルの”無次元収納”が付いてれば無限に入れられるんだけど、今はこれで十分かな」



 無次元収納スキルが付いたカバンはめちゃめちゃ高いんだよなあ。さすがに闇市にも売ってなかった。



「じゃじゃーん! というわけで、今日のごはんはこちら!」



 タマゴサンド! あとバナナハチドリと干したフルーツ。



 市場で売ってた、謎のでっかい卵で作った巨大タマゴサンド。

美味しくておなか一杯になるので最近のお気に入りだ。



 バナナハチドリっていうのは、スラムで一緒に住んでるねこのすけが、

何故か定期的に獲ってくるハチみたいな模様の鳥。バナナみたいな味がする。



 毒があるらしくて市場とかには売ってない。

ずっと名前が分からなかったんだけど、鑑定魔道具のすーくんに聞いたら教えてくれた。



「クリームチーズと一緒にパンに挟むと美味いんだよな」



 まあ毒があるから、俺みたいな毒耐性系のスキルがない人は食べられないけど。



「あっそうだ、これも鑑定してもらおう」



 ポケットに入っていたクランボの実を取り出す。

きゅーたろうがたまにくれる謎の木の実。激辛だけど、食べると疲れが吹っ飛んで力が湧いてくる美味しさだ。



「すーくん、これ鑑定できる?」



 (オマカセクダサイ……結果、デマシタ)



 【試作品001】

魔素が凝縮されている木の実。激辛。HP全回復。パワー上昇SSS。デビルズフードの1番。



「……ん~?」



 試作品001ってのが名前? デビルズフード? えっ……どういうこと?



「HP全回復、パワー上昇……たしかにそんな感じの効果はある気がする」



 俺のパワーランクがやけに高いのは、定期的にこの木の実を食べてたからかもしれない。

あとでリッツさんにでも聞いてみようかな?



「まあいっか。そんなことよりメシだメシ! たっまっごさ~んどっいっただっきま~……ん?」



 キーン……という、甲高い音が聞こえる……ような、聞こえないような。



「なんだろ、耳鳴りかな」



「キィ……」



「えっ」



 背もたれにしていた木の枝に、いつの間にかコウモリがぶら下がっている。

さっきの超音波のような音はこの子の鳴き声だろうか。

白い毛色に、赤い目。なんだかとても神秘的な気分になった。



「君の声か。白いコウモリなんて初めて見た。カッコイイね」



「キュッキュウ」



「あ、きゅーたろう」



 いなくなってたきゅーたろうがどこからともなく戻ってきて、コウモリのぶら下がっている枝の上に座っている。



「キュウキュ」



「キィ……」



 なに話してるのか分からないけど、なんだか仲が良さそうだ。



「きゅーたろうの友達?」



「キュウ」



 友達らしい。



「果物食う?」



「キィ……」



 きゅーたろうとコウモリに干しフルーツをあげる。



「モグ……モグ……」



「やっぱコウモリってさかさまのままごはん食べるんだ……」



「キュッ……モグ……キュェ」



「いや君は普通に食べなよ」



 きゅーたろうが真似して木にぶら下がりながら果物を食べてちょっと喉に詰まらせている。



 __ __



「ごちそうさまでした」



「キューキュウ」



「キィ……」



 さてと、おなかもいっぱいになったし、死霊の館に向かって……



「行けないんだった……」



 実は建物が巨大で、めっちゃ遠くにあるとか?



「うーん、どうしよっかなー。あんまり遠いと引き返せなくなるしなー」



 昼は子供の遊び場になるようなこの廃墓地も、夜になると魔物が出現する。

それまでに帰らないと……。



「キュウ?」



「ん? ああ、どうやって館まで行けばいいかわからなくて」



「キュウ……キュッキュ」



「キィ……」



「ん? 一緒に行ってくれるの?」



 コウモリが俺のカバンにぶら下がり、きゅーたろうはいつも通り頭の上に乗ってきた。



「よーし、行けるとこまで行ってみるか!」



 俺は気持ちを入れ替えて、館の方角へ足を1歩踏み出した。



「……え?」



 目の前に、大きな屋敷が現れた。

現れたというか、さっきまで遠くに見えていた建物に、1歩進んだだけで到着してしまった。



「ど、どういうこと……?」

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