第26話 引き籠りシスターの悩み
「えーと、つまりシルクは今、欲しいものがあってお金を貯めている、と」
シルクに迫られているところをリネンさんに見られてしまい、
「修羅場か!?」と騒ぐ彼女を落ち着かせるのにだいぶ時間を持ってかれた。
「……そうよ。教会のステータス確認はシルクの貴重なお金稼ぎなのよ」
ステータス確認自体は、王都の他の教会でもやっているんだけど、
基本的には専用の魔道具を用いて行っている。
しかしここの教会に限っては、魔道具ではなくシルクの能力で行なっている。
そのためステータス確認の代金は、8割がシルクの稼ぎになるという。
「でも、ここの教会はそんなに来る人がいないから、定期的に来る俺みたいなやつは珍しい、と」
「一応、太客ってやつね」
「カモネギだね」
「ちょっと何言ってるかわかんないけど、そうよ」
「それで、シルクは何が欲しいの?」
「そ、それは……」
シルクがうつむいて小声になる。人に言いにくいものなのだろうか。
「あ、タバコとお酒はダメだよ」
「違うわよ!」
違ったらしい。前世で母ちゃんに言われてコンビニに買いに行ったら売ってくれなかった。
身体に悪いから子供はダメらしい。俺が吸う訳じゃないんだけど。
「シルクちゃんはね~、”日除けの香水”が欲しいのよ」
「リ、リネン姉さん!」
「香水?」
なんだ全然普通じゃん。なんつーか、女子って感じ。
クラスの女子が良く言ってたな。コスメとかファンデとかプチプラとか。プチプラってなんだよ。
「プチパンのほうが絶対美味いのに」
「君はなんの話をしてるんだい?」
リネンさんに呆れられてしまった。
「シルクちゃんが欲しい日除けの香水はね、普通の香水じゃなくて、魔道具なのよ」
「香水の魔道具?」
リネンさんの説明によると、日除けの香水を付けた人は、
一定時間肌が日光を反射して、吸収しなくなる効果があるらしい。
「高級な香水で、貴族のお嬢様方が日焼け止めとして使うんだけど、シルクちゃんの場合はほら、影暮らしでしょ」
「影暮らし……」
シルクは影暮らしという、生まれつき肌が光に弱い体質で、昼間はあまり出歩けないような生活を送っている。
「そうか、日除けの香水を使えば、日が出ている時も外に出られるようになるのか!」
「そういうこと~。それでシルクちゃんは香水を買うために、コツコツとお金を貯めているってわけ」
「は~なるほどなるほど」
「そうよ! なにか文句あるわけ!?」
「文句なんてないさ。その香水があれば外で一緒に遊べるね!」
「えっ!? そ、それはまあ、シュータが遊びたいって言うなら……」
「ねこのすけと!」
「にゃあ」
「そう、ねこのすけ……は?」
シルクはねこのすけ(ここではトラちゃんって呼んでる)が好きみたいだから、一緒に外に行けるようになったら嬉しいだろう。
「はやくお金貯まるといいね!」
「……アンタ、今日ステータス鑑定100回やるまで帰さないから」
「なんで!?」
「今のはシュータ君が悪いねえ」
「にゃふ」
……なんで?
「ってか鑑定100回って100万エルじゃん。さすがに高い香水っていってもそんなにしないでしょ」
「するんだなこれが」
「……マジ?」
「日除けの香水、1本で140万エルよ」
……マジ?
「たっけー!! 高杉謙信じゃん」
「誰よそれ」
「いや、その……」
「というわけでシュータ、これからも定期的に鑑定に来てシルクに貢ぎなさい」
「いや~でも俺にはすーくんがあるからなあ……」
ステータス鑑定にお金使いたくないからすーくん作ってもらったのに、それじゃあ意味が……ん、作ってもらった?
「あっ」
「シュータくん、どうしたの?」
「リネンさん、日除けの香水って魔道具なんだよね?」
「そうだよ~。貴重な素材を使ってるから、どうしても高価になっちゃうのよね~」
「はあ。いつになったらお金が貯まるかしら」
「じゃあもしその素材が手に入ったら、安く作ってもらえる?」
「そうね~。素材があるなら普通の香水の値段で作ってもらえると思うよ~」
「じゃあ俺、その素材採ってくるよ!」
商品が買えないなら作れば良い。リッツさんにすーくんを作ってもらったときと同じ流れだ。
「いや~さすがに悪食のブラックボーン君でも厳しいんじゃないかな~」
「やめてよその名前」
完全に魔物じゃん。
「シュータ、提案は嬉しいけど……悪いことは言わないから、やめておきなさい。生きて帰って来れないわよ」
「どういうこと?」
「日除けの香水に必要な素材はね~、”ヴァンパイアの涙”なんだよね~」
「……えっ?」
ヴァンパイア?
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