第21話 おうちに帰るまでが討伐です。



 ズシン……ズシン……



 現在、ダンジョン「魔獣の森」、深夜。

森の中に、巨大な魔物が闊歩しているような足音が響く。……自分の足元から。



「お、重い……足が沈む……」



 俺の名前はシュータ、11才。さすがに普通に歩いてて足が沈むほど太ってはいない。



 目的だったリフレックスの討伐に成功したのは良かったんだけど、コイツがめちゃくちゃデカいので、

背負って街まで運ぶのが中々しんどい。しかも、オマケまでいるのだ。



「もう置いてっちゃおうかなー……」



 リフレックスに襲われて倒れていた、貴族っぽい少年とお付きの従者2名、計3人。

夜の森に放置したら魔物に襲われかねない。さすがにそれは良心が痛むというもの。



 というわけで、倒したリフレックスの上に三人を乗せて、そのリフレックスを俺が背負っている。




「あーしんどい……まるでゾウをおんぶしてるみたい……」



 ゾウおんぶしたことないけど。



 普通に考えたら、俺みたいな子供がこんな重たいものを背負って歩けるわけないんだけど、

これがリフレックスをぶっ倒したパワーAランクの力ということだろう。



「くっそ~、街に戻ったらタクシー代くれないかなぁこの人たち」



 国語の教科書にのってた人力車の人は、毎日こんな感じでお金稼いでたんだもんな。尊敬じゃん。



「あーもうダメだ。いったん休憩~!」



 ドスーン!



 リフレックスを背中から降ろすと、めちゃくちゃ身体が軽くなった。



「あー疲れた……腹減ったなあ」



 夕方にお弁当食べちゃったから食い物がない。

はやく帰っておっちゃんの串焼きが食べたい……。



「それにしても、ちゃんと出口に向かってるのかな……ん?」



 なにげなくポケットを探ったら、中からクランボの実が出てきた。

そういえばきゅーたろうがなんかガサゴソやってたな。これを入れてたのか。



「ぱく、もぐもぐ……ん~! おいしい!」



 あんまし空腹はまぎれないけど、疲れが吹き飛んで力がみなぎってくる。

俺はふたたびリフレックスその他3人を背負って歩き始めた。



「よっし、元気出てきた! きゅーたろう、ありがとう!」



 ヒュ~イッ ペタッ



「キュ~」



「ンッ!? ンン!!」



 何かが顔面に張り付いてきた。いや予想は付くけど。

手が離せないので顔をブンブンと必死に振ってなんとか剥がす。



「っぷはぁ! 死ぬかと思った!」



「キュウ」



 やっぱきゅーたろうだった。



「手が離せないときに張り付くのやめてよ!」



「キュイ」



 肩に乗ってるきゅーたろうに文句言ったらそっぽをむかれた。

……え、なんか怒ってる?



「……もしかして、リフレックス討伐に行ったの心配してた?」



「キュウ……」



 当たりらしい。いい子だなおい。



「心配かけてごめんな。どうしてもコイツを倒す必要があってさ」



「キュウ」



 きゅーたろうにとってもリフレックスは危険な魔物のようだ。



「で、倒したのはいいんだけど、真っ暗だからさ、道がよく分かんなくて……」



 さすがに暗闇の森の中は怖かったので、きゅーたろうが来てくれて気分がちょっと紛れた。



「うわ、分かれ道だ……」



 こんなとこ通ったっけ? リフレックスのとこまで走って向かったから、あんまし覚えてないぞ。



「キュッキュウ!」



「ん? どした?」



 きゅーたろうが前足(?)で右の道を指す。



「そっち行けばいいの?」



「キュウ」



 良いらしい。



 そんな感じで暗い森の中、時々きゅーたろうが道案内をしてくれた。



 ……。



 …………。



「森の出口だ~!」



「キュウ~!」



 脱出成功! きゅーたろうありがとう!

きゅーたろうにお礼を言って別れてから、街へ向かって歩き出した。

ここまで来たら夜でも大丈夫だ。



「月がきれいだな~」



 ズシン……ズシン……



「うわぁっ!! 魔物!?」



「ヒヒィ~ン!!」



「俺は人間だよ!」



 近くの街道にいた馬車のおじさんに見つかってめっちゃビックリされた。

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