第17話 引き籠り少女と教会の闇(明るめ)
「え、きみ、誰?」
「う……」
「ステータス確認の時の音声案内みたいなやつ、君がやってたの?」
「も、黙秘……」
「……もしかして、このステータスってでたらめ?」
「それは違う! シルクは……っ!」
ギィ……
「シュータくん、終わっ……ああーっと、見つかっちゃったかー」
「居酒屋のお姉さん」
「誰が飲み屋の美人看板娘だって~?」
「そんなことは言ってないけど」
シスターのお姉さんが部屋に入ってきた。
カチャ
「え、なんでカギ閉めたの?」
「ふふ、それはね……」
ま、まさか、教会の秘密を知ってしまった俺を処分するため……!?
ガバッ!
「すいません、今回は見逃してください~!」
「ちょっ!?」
「リネン姉さん……!?」
シスターのお姉さんはいきなり土下座をして謝罪してきた。
あ、名前リネンっていうんだ。
「今回のお代は返金するから! いや前回の1万エルも返すから~!」
「ちょ、ちょっと」
「このことはどうかご内密に~!」
「……その、お金は別に良いからさ、どういうことか説明してよ」
それからお姉さんは、ここの教会のステータス確認の実態を教えてくれた。
俺がさっきステータス確認をした鏡は、能力を確認できる魔道具ではなく、
鑑定のスキルを使ったときに、得られた情報を転写して表示できる物らしい。
「それで、実際に鑑定スキルを使って君のステータスを調べていたのがこの子ってわけ」
「……シルクよ。だましててごめんなさい」
そう言って頭を下げたシルクは、純白の髪に赤い目をした、俺と同じくらいの年の女の子だ。
この子が持つ、鑑定スキルとかいうのでステータスを調べ、それっぽい説明をしていたわけだ。
「でも、どうしてわざわざそんな真似を?」
シルクが直接やったほうが手間がかからないと思うんだけど……。
「鑑定スキルを持ってる人ってものすごく珍しいのよ~。”鑑定”は”確認”の上位スキルなの」
「へーそうなんだ」
確認と鑑定って同じ意味だと思ってたけど、違うのか。
この国にある他の教会では、本物のステータス確認ができる魔道具を使っているらしい。
ここにある大きな鏡は、その魔道具の見た目だけ真似て作ったそうだ。
「下手したら他の国や組織に狙われる可能性もあるんだよね~」
「そ、そんなレベルなんだ……」
シルクの能力を知っているのは、この教会の司祭長と、シスターのお姉さんこと、リネンさんだけらしい。
「でも、この国の偉い人たちにアピールすれば、シルクを保護してくれるんじゃない?」
「あー、それはね~」
「……シルク、そんなに目立ちたくない。仕事増えそうだし」
「えっ?」
「王都の大教会なんて絶対忙しいし、そもそも直接話したくないし。シルクはここから出ない」
「というわけ。この子めんどくさがりの人見知りでさ~。ウチの教会から出たがらないのよ」
「ええ……」
シルクの能力が知れ渡ったら、彼女は王都の大教会で聖母のような扱いをされる可能性が高い。
それが嫌なのでここで能力を隠して生活しているとのことだ。
「まあ、ここは王都の中でもほぼ最下層の区域だからね。教会に来る人も少ないし、楽っちゃ楽よね」
「神に仕えるシスターがそんな考えでいいのかよ」
「……神が居たら、スラムで暮らさなきゃいけない人たちはもっと救われてるはずよ。神なんていない」
「それは……」
シルクは幼い頃、この教会の前に捨てられていたのを司祭長が見つけて、
それ以来シスターとして教会で生活しているらしい。
王都の下層区にあるこの教会では、そういった出自のシスターが多いそうだ。
「……それにシルクは、夜しか出歩けないし。でも夜の街は危ないでしょ? しょうがなくここで暮らしてるのよ」
とてもしょうがなく暮らしてるようには見えないけど。
「どうして昼は出歩かないの?」
「……シルクには太陽の光は毒なの」
「太陽が毒? ……ヴァンパイアなの?」
「違うわよ!」
「あ~、シルクちゃんはね、”影暮らし”なのよ」
「影暮らし?」
「影暮らしっていうのはね、日光に当たるだけで肌を火傷しちゃったり、光が眩しく感じやすい人のことよ」
影暮らしの人は、髪が白や淡い黄色だったり、目の色が赤かったりすることが多いらしい。
そういえば前世でもそういう人たちがいるって聞いたことがある。アル……なんだっけ、アルパカ?
「そういうわけで、シルクちゃんはここの教会の地下にある部屋にいつも引きこもってるの」
「シルクはアルパカだから引きこもりシスターなんだね」
「引きこもりって言うな! ……アルパカってなに?」
異世界にも引きこもりっているんだ。
俺はシルクの秘密を守ることを約束して、教会を後にした。
「シュータくん、たまにシルクと遊んでやってよ~」
「良いよー。また来るね!」
「来んな!」
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