第44話 カタストロフ・ダークネス!!


——気付くのが遅かった。

1人また1人と生徒会室からいなくなっていくメンバーに対し、もっと早くに警戒心を抱くべきだった。

私は急ぎグリモワールと共に校舎を走り始める。


『すまないステラ、ボクも油断してしまっていたようだ。まさか夏休み明け初日で、こんなにも展開が早いとは思わなかった』


「それは私もです!カレン様の状態にも、もっと注意しておくべきでした!」


私はてっきりヒステリックの原因がシックザールさんとの事だけだと思っていた。

けれど実際は違った。

あの時あの場で感情に拍車をかける魔術が行使されていたのだ。

そう推論するのが自然、だって魔術を掛けた張本人がその後すぐに生徒会室を出て行ったのだから。


私とグリモワールは最悪の事態を想定し、暫く経ってしまったがその者の後を追う事にした。

やがて見えてくる体育館内にて、私たちはその張本人と遭遇を果たす。


『……やはり君だったんだね。ボクたちの古巣を滅ぼすよう命じ、アレスを盛大に裏切ってくれた諸悪の根源。アダラパッパ・ラブゥ、いや。——田中飛虎彦君』


そう言ったグリモワールに向けて田中君、いや和平推進機関の枢機卿は笑みを溢す。


「……くくっ、あっはっは!!裏切ったとは心外だよ、グリモアの筆頭。僕は最初から魔族を信用してない、よって敵に情けは掛けない。実に理に適ってると思うけど?」


「枢機卿!あなたは私たち人類解放神軍すら謀ったのですか!?」


「人聞きが悪いよ、ステラ・ドラゴノイド。僕の言う事を素直に聞いたのは君たちの意思だった。機関はそんな君たちの自由を尊重したまで。何か問題があるかな?」


私は声を上げて抗議するも、返って来たのはそんな屁理屈だった。

軍は機関を信じて戦ったと言うのに、機関は目先の利益しか求めていなかった。

「人類を悪しき魔の手から解放する為に神によって選ばれた軍」、それが人類解放神軍の礎だ。

だが実際の所は悪しき魔の手など存在しなかった、全ての教えが陰謀であった。

カレン様も私も他のみんなも命を賭けた。

なのにこの男は何の罪の意識も芽生えていないようだ。

私の精神が激昂していく。


『ステラ、落ち着くんだ。彼はボクらを挑発している』


「でもっ!許せませんよ、こんな事!」


感情が高ぶる私の代わりに、グリモワールは冷静を貫いていた。

私はそれに倣い心を抑えると同時に、グリモワールは枢機卿に問い掛ける。


『それで、今世では一体何が目的なんだい?薄汚い下郎の考える事など、所詮は欲望の類なのだろうけれどね』


「ふはは!流石は犬だ、よく鼻が利く。思い返してみれば、出会った時から貴様は僕を嫌っていたな。天敵を見抜くなんて、野生の本能かな?僕はね、貴様ら魔族が目障りなんだよ。ちょっと強い力があるからって調子づく貴様らが。でももうそれも終わりだ。この世界からも貴様らは排除する、その上で僕が再び人間を導いてあげるのさ。さすれば世界は愛で満たされるだろう!」


枢機卿が両手を上げて、魔術を行使する。


「上位型感覚系侵食魔術『カタストロフ・ダークネス』!!」


それは機関での最上級であり禁忌の魔術、無の闇へと囚われる精神拷問の魔術。

私の五感は機能を失い、音もなく見えもしない、闇だけが広がる世界。

魂が破壊されてしまうまでの無限の時間を彷徨う、地獄の魔術であった——。




——オイラはガルドールだ。

今世では人体模型に転生した、ちょっとおっちょこちょいなゴリアテだべ。

今オイラはいつもの通り科学室で普通の人体模型のフリをしているんだが、何か物騒な展開になってきただべよ。

あの子は前回も魔王様と一緒にいた、元の世界の勇者だべなあ。

対しているのは元の世界での部下の男だべか、何だかややこしいだべ。

でも殺しは良くないだべな、オイラは勇者に加勢するべく動き出した。


「……あなたは確か、如月君のお友達の……」


『な、何ですかコイツは!?人体模型が動いた!?』


男の姿は見えないけど、どうやら聞こえてくる声からして驚いてるだべな。

オイラは軽く自己紹介から入る事にした。


『オイラ、ガルドールだべよ。これでもグリモア教典、第三の書に任命されてただべ。けど今は勇者の味方になるだべよ。オイラ、殺しは見たくないだ』


そう言ったオイラに間髪入れず鋭利なナイフが伸びて来た。

見えはしないがオイラ、感じるだべよ。

だってオイラの身体、半分皮膚がないから神経が敏感になってるんだべ。

あれ?でもコーヒーの味がしないのは何でだろうなあ。

そんな事を考えている内に何度か切り付けられたオイラだが、身体には全く傷が出来ていないだ。

それに驚いた男が喚く。


『なっ!?これだけ切っても無傷だと!?』


『オイラ、前世から人よりも身体が硬いんだべ。アレだってオイラの身体の前じゃ割れるんだべさ。えーと、何て言ったっけなあ、あの世界で一番硬い石。あ!思い出しただ!ダイアモンド☆彡愉快だべ!』


「ガルドール君、それは人名よ?割ってしまったのならちゃんと家族に謝って」


何だかよく分からないけど、勇者に怒られただべよ。

オイラのやってるYotubeでもたまに怒られるんだべな、だべだべうるせーってコメント欄で。

けど頑張ってだとかいつも楽しみにしてますだとか言ってくれる視聴者さんの方が多いから、あんまり気にしてないだべ!


『くっ!これでもダメなのかっ!どうなっているのだ、コイツの身体は!』


オイラがそんな事を考えている間に男はナイフをオイラの身体に一生懸命突き立てていた。

けどやっぱりびくともしないようで、だんだん焦りの様な声が聞こえてくるだ。

オイラは敏感に感じる方の半身を男の声がする方向に向け、カニ歩きをする。

突然シャカシャカ歩き出したオイラの肩が見えなくなっている男の身体にぶつかる。


『見つけただべ!』


『なにっ!?』


オイラは空かさず男の身体を捉え、力づくで抑え込んだ。

羽交い絞めにした後、そのまま持ち上げて勇者の方に持っていくだべ。


『これ、どうするだべ?窓から捨てるだべか?』


「殺しは良くないと言ったあなたが殺してどうするの。でもどうしようかしら、警察に通報した方がいいのかしらね」


オイラは力を緩めずに絶対に離さないようにしていた。

だから油断はなかっただべ。

けど男はオイラの予想を超える魔術を使ってきただ。


『……フフフ、まったく。カレン様、私は必ずあなたを手に入れて見せます。ハハハ!上位型感覚系侵食魔術『カタストロフ・ダークネス』!!』


そこでオイラの五感は機能を停止したのであった、だべ——。

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