第41話 終わりの始まり


暗雲が立ち込めるのは季節がら仕方のない事なのか、夏休み明けは生憎の空模様で始まった。

けれど何故だろうか、それとは別に全身の感覚がざわつくのは。

何かを感じ取っている証拠なのだろう、だが果たして俺は一体何を感じているのだろうか。

分からないままに、今日も一日が始まる。




合宿の終わりは散々であった。

結局あの後一時間ほど警察の簡単な事情聴取を受け、現場検証にも立ち会った。

まあ未成年という事でそれくらいで済んだ訳だが、疲れ切った俺たちは部屋決めもそこそこに直ぐに就寝した。

3日目も直ぐに帰路につき、駅で解散。

翌日にはニュースで報道されており、どうやら殺人事件の疑いがある死体遺棄事件だとか。

それもここ二カ月以内での出来事である可能性を示唆していたので、最近と言えば最近か。

まあ俺たちには何の関係もないからな、特に気にする必要もないだろう。


ただ警察が気になる事も言っていた。

最近、若い女性を狙った事件が急増していると。

そしてその手口はどうやら闇夜に紛れての犯行らしい。

目撃証言どころか防犯カメラに映った様な痕跡すらないのだとか。

心当たりを聞かれたが俺たちだって知る訳もない。

殺人享楽者があの辺りに出没するのか、まったく世も末だな。

弱者をいたぶって何が楽しいのか俺には皆目見当がつかない。

強者を倒してこそ価値が生まれよう、何に対してだってそれは言える。

第一自分より弱い存在にしか手を出せない時点で、己の臆している心理を己が理解しているのだ。

高みに登れない者の最たる理由、それは己との対話や是正をしないから目先の欲求に負けてしまうという事。


その点、魔国は良かった。

皆が皆上を目指す為に日々精進し、下を向く者を嘲笑ってやった。

そうする事で意図的に導いてやるのだ、上を向く事こそが正しいのだと。

だが中には前述したように弱者をいたぶるような愚か者もいたがな。

ごく僅かにはなるが、俺が記憶しているのはエウロラにちょっかいを掛けていた奴らだ。

勿論エウロラをグリモアに引き入れた後、ジルコスタに奴らの処遇は任せたからろくな死に方はしていないだろう。

このように、俺の意向に背く阿呆どもは長生きが出来んのが魔国インヴェルーグだ。

分かったら俺の言う事に従え、長生きしたいのであれば歯向かわずに従え、有無を言うな、従え。

さすれば貴様らにも未来を与えてやろうではないか。


「——という考え方でどうだろうか」


「……却下よ」


新学期の生徒会室。

全校集会を終えた俺たちはこうして会議をしている。

今俺たちは秋に行われる文化祭のスローガンについて話し合っているのだが、何故か俺の卓越した高説が華恋によって棄却されたところなのだ。

何が気に食わんのか、まるで分からんな。

この究極的なウィンウィン主従関係に綻びなどなかろうに。

まあ強いて言うなれば俺の後継者に当る逸材が現状いない所であろうか。


「如月君、私たちは一生徒なのよ?たとえ生徒会であろうと、絶対的な正しさを持っている訳ではないわ。それなのにあなたは一に従え二に従えって……。まずはその魔王気質をどうにかしてちょうだい」


「それは仕方なかろう。俺は生まれながらにして魔王なのだからな。貴様には理解できんだろうが」


「理解できる出来ないの問題ではないわ。学校という環境を考慮して発言して欲しいと言っているの」


何だ今日は、やけに華恋が俺に突っかかって来るな。

いつもなら大して気にせん様な事をやたらと否定してくる。

何だ、情緒不安定か?デリカシーのない父親に尻が邪魔でテレビが見えんとでも言われたのか?

不思議に思っているとエウロラと転校生が俺をフォローするように話し始める。


「あー、魔王様もそんな気にしないで?こいつはねー、夏休みに魔王様にデートに誘ってもらえなかった腹いせをしてんだよ~!ま、あたしを差し置いてデートとか100年早いけどねー!」


「カレン様も大人になってくださいね?つまらない意地を張っていてはシックザールさんに嫌われてしまいますよ。まあ私は最終日にグリモワールとクルーズ船デートをしましたが」


そんな事を言い合っている内に、華恋が下を向いたままプルプルと震え始める。

色んな感情が入り混じっているのだろう、そのまま涙目になって勢いよく立ち上がり反論する。


「私はそんなつもりじゃないわ!高かった服も買い漁ったガイドブックも別に如月君の為に用意した訳じゃない……の……。っ、もういい!」


そう言って華恋は部屋を出て行った。

何だというのだ、アイツらしくもない。

たとえヒステリックの原因が俺なのだとしても、そこまでムキになるような奴でもないのだ。

何がそうまでさせるのか俺には分からんが、まあ少なくとも非はあるのか。

そう思うと同時に、エウロラと転校生が俺に視線を向けて来る。


「あーあ、こんな役やってらんないけどさー。あいつがヒステリーになるのも気が狂うしねー」


「行ってあげてくださいシックザールさん。今のカレン様にはあなたの言葉しか届きません」


何なのだコイツらも。

エンディングか?もうラブコメは俺の知らぬ間にエンディングに突入しているとでも言うのか?

先に言っておけ、いつどこどこのタイミングでエンディングに入りますと。

事前に打ち合わせておかぬからこのような突発展開になってしまうのだ。

何でも勢いだけでままなると思うな、それは基本若さ故の特権であり過ちだ。

いや待てよ、そういえば俺もまだ高校生であったな。

ならば仕方あるまい、俺は若さを足に溜めて推進力を高めるよう努める。

そして視界に若さを集中させて華恋を探すよう意識する。

更に若さで扉を開けて、若さで廊下を短縮した。

ふむ、だんだん何でも出来る気になって来たな、流石は若さだ。

すると俺の若さセンサーに反応を捉えた。

それは、もう若くないジルコスタだった。


「何ですって!?失礼にも程がありますよ如月さん!!」


「ふむ。文句を言いたい時にだけ無能を演じるのは賢いな、ジルコスタよ」


「……失礼いたしました。魔王様、急ぎ報告したい事がありまして」


「何だ?俺も今急いでいる。簡潔に述べよ」


「はっ。校庭をご覧ください」


そう言われて俺は廊下から窓を覗き込んだ。

すると校庭には1人の女が立っている。

俺が見間違う筈もなかった、白の髪色に水色のポイントカラーが目を引くふんわりロング。

こんな昼間から派手な薄水色のドレスに身を纏う人物。

ゼロ・クラウンがとうとう俺の前に顔を出してきた。

用があるのは俺で間違いないだろう、華恋の事は一旦置いておき、急ぎ校庭へと向かう。


だが何故わざわざ人目につくような格好でこの時間帯なのだ?

分からんが目的を知る為にも直接本人と対峙する他あるまい。

俺は途中で木刀を手にし、ゼロの元へ向かうのであった——。

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