第36話 ラブコメ合宿7


本日も快晴。

太陽は何処までも大地を照らし出し、焼き尽くす。

言い過ぎたかもしれんがとにかく暑いのだ、それは伝わろう。

という件は意味を成さない、何故なら俺たちは室内にいるからな。

空調設備が素晴らしい仕事をしている、昨日の海が暑過ぎた故によりそれを感じる。

さて今日は何をするのか、いや皆まで言うな。

遊ぶこと以外に何があると言うのか。


「あ~、また取れなかった。ピアス君、百円貸して」


「うっす、どぞセンパイ」


だが解せん、何故合宿に来てまでゲーセンに入り浸るエウロラよ。

いやエウロラだけではない、皆各々ゲームに没頭していた。

奴は今金髪と目当ての菓子景品を狙っており、華恋と転校生はシューティングゲームで弾丸を打ち散らかし、ヨハンと小坊主とただならぬ者はラリオカートで爆走している。

無能は無能でメダルゲームに憑りつかれ、じゃんじゃん荒稼ぎして1人で大笑いしていた。

最早ストレスが大きく影響しているのであろう、他人のフリをせねばなるまいな、あれはもう生徒を諭す立場には成り得ない。

ゲームなど何が楽しいのか、まったく分からん。

これが金になるのであればいいが、金を持っていかれるだけではないか、話にもならない。

なので仕方なく俺は近場にあった終音ミクのフィギュアを狙う。


「……原理はやはり……いや力学的に……」


無意識に呟きながら百円を入れては失い、そしてまた百円を入れ続ける。

ふむ、気付けば二千円も使っているではないか。

だがここで止めてはその二千円が無駄になってしまう。

致し方ないがこのまま続けるしかないな。

勘違いするな、別にミクのフィギュアが欲しい訳ではない。

何となくやってしまった手前、引き際がつかなくなってしまっただけだ。


「……この角を引っ掛けて……いや駄目か……」


「あら、如月君ったら意外な趣味を持っているのね」


「……違うぞ華恋。これはだな——」


「シックザールさん、ここを持ち上げてみてください」


華恋と共にこちらへ来た転校生がそんな事を言うものだから、試しに俺は指示通りクレーンを操作してみた。

だが見事一発でゴトン!とミクが落ちて来た事に衝撃を受け、俺は思わず転校生の方を向いて凝視した。


「やりましたね。私、意外と得意なんですよねー」


「貴様、才能があるではないか!じゃああれも取れそうか!?そこの狂音ルカのフィギュアだ!」


「あ、はい。多分取れますよ、五百円くらいあれば」


そう言って俺はミクのフィギュアを華恋に手渡し、早速場所を変えてプレイする。


「……まったく、子供じゃないのだから」


背後からそんな言葉が聞こえた様な気がしたが、気にしない事にして俺は転校生と言うチートを使いバンバンフィギュアを落としていった——。




「魔王様、凄い量の収穫ですね!いーなあミクたん!」


「やらんぞ小坊主。これは俺のだ」


俺の手には戦利品の袋がいくつも握られており、終音ミク狂音ルカだけでなく篝音リンやWEIKOまでしっかりとゲットした。

これは家のフィギュアケースを買い替えねばならんな、いやいっそ棚を用意するべきか。

さて、余興はこれくらいでよかろう。

そろそろ向かわねば間に合わんからな。

何を隠そう本日のメインは、水族館のイルカショーだ。

俺たちは水族館から近場の駅前にてバスに乗り、そのまま直行する。

ワクワクが止まらんのは俺だけではない筈。

あの伝説上の生物、ILLUCAを目の当たりに出来るなど夢の様な話ではないか。

是が非でも家に連れ帰りたい、大きな水槽が必要なら喜んで用意しよう。

問題は上手く捕まえられるかどうかだが、そこは自分の怪物球を信じるとしよう。

先日アプリでゲットしたからな、ペケモンGOを。

ランクの高い怪物球、達人球を使えば何と成功率は百パーセント。

この構築した理論に不確定要素があるとすれば、果たしてスマホ画面から球を出現させられるのかどうかだが。

現代科学を舐めるなよ、AR技術を使えば問題はない。


「おお、ここが水族館なる理想郷か!」


俺たちは無事到着を果たした。

早速入場券を求めにチケット売場まで行き購入を済ませる。

こんなワクワク感はいつ以来だろうか、恐らく前世でゲンゾウ(キングギドラ似)を始めて迎えた日以来だろう。

入ると早速展示コーナーが現れる。

釘バットや金属バット、鉄パイプなどが並ぶ中、一際目立つのがリーゼントのカツラに返り血を浴びた特攻服。

そしてあれが伝説の三段シートとロケットカウルを搭載した単車、これはCBX400Fだったか。

ん?いや待てよ、俺は今何処に来ているのだったか。


「あー!ゴメン魔王様、あたし乗るバス間違えてた!ここ水族館じゃないよ、暴走族館だよ!」


「何だと!?通りでなっ!」


危うく流れで満喫してしまう所であった。

俺は焦りヨハンに促す。


「ヨハン!貴様の魔術で急ぎ俺たちを令和へと帰還させろ!これではショーが間に合わん!」


『落ち着いてくれ舞人君、ボクたちは昭和にタイムリープした訳ではない。一風変わった資料館に来ているだけだ』


「死霊館だとっ!?どうりで血生臭い場所な訳だ!華恋、俺に木刀をよこせ!怨念などこの俺が成敗してやろう!」


「……はぁ。如月君?イイ子ね、お座り」


そう言われて俺は単車の上に腰を下ろした。

何故か華恋に頭をポフポフされているがまあいい。

それを見たエウロラがとてつもない形相になっているが、まあいい。

一度冷静に考えよう。

イルカショーは定期的に開催されているし、寺には午後4時までに帰れば問題ない。

そんな風にあーだこーだ考えていると、無能が言ってくる。


「あれ、でも良く見たら水族館ってここから道路挟んで直ぐよ?ほら」


そう言って地図アプリを俺たちに見せて来た。

ほう、無能の癖に優秀な閃きを見せるではないか、よって形勢は逆転した。

俺は高らかに宣言する。


「貴様ら!行くぞ!」


俺たちは生徒会としての誇りを胸に、水族館を目指すのであった。

ん?生徒会?生徒会として何かやるべき事があったような、何かを忘れているような気もするが、まあ。

……いいか——。

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