第34話 ラブコメ合宿5


今回寺に泊まり込みなのだが、何と言っても部屋決めがとても難航していた。

その理由として先ず男女は分かれるべきだと言う正当な意見と、約一名部屋は男女混合にするべきだと言う頭のイカれた声が上がった事にあるのだが。

無能も流石に大人なのでそれは棄却された、筈だったのだが今正に再燃しているのだ。

部屋は四つもある、ならば混合になった場合大半の男女が2人きりで同室となってしまう。

仮にも俺たちは生徒会だ、そんな不純行為が許される筈もないのだが。


「じゃあさ、ジャンケンで決めよーよ!勝った順に好きな相手とペアを組む!それなら異論なんて生まれないでしょー?」


貴様は阿呆かエウロラ、それは異論どころか暴論だぞ。

運勝負に己の命運すら委ねる事になるではないか。

こんな横暴を呑む必要がない、そうであろう無能よ。


「……うーん、みんながそれでいいならいいけど。その代わり節度ある行動を心掛けてよ?ここはお寺なんだからね?」


「イエーイ!火野ちゃん最っ高ー!」


いや何故そうなる無能よ、貴様は本当に教員免許を持っているのか?没収される事も厭わない熱血教師か貴様は。

生徒を信用し過ぎるな、いやエウロラだけは信用するな。

そんな俺の葛藤は意味を成さず、他のメンバーは何やら本気の真顔になっていた。

貴様ら、正気か?勝ちに行くつもりか?何だ小坊主までその真剣な顔つきは、先ずはその垂れ流しっぱなしの涎と鼻水を拭いてから出直せ。


「じゃあ行くよー!最初はぐー!ジャンケン——」




「花火、綺麗ですね」


『そうだねステラ。でも君も綺麗だ』


駄犬め、何を戯けた事を言っているのだ。

仮にも俺の右腕であった貴様が女にのめり込むなど言語道断。

いや元からその気質はあったか、ならば言語道断(仮)処遇にしておくか。

境内で手持ち花火がシュバババ!と派手に音を鳴らせている。

良い子のみんなは真似をするなよ、寺で花火など警察相手に戦わねばならなくなるからな。

けれど火を放つのがそんなに楽しいものなのだろうか。

魔術さえ使えれば半径一キロくらいは火の海に出来るぞ?

などと思いながら俺は、花火を振り回して一番テンションが上がっている小坊主に目を向ける。

何やら奴はやたらと無能に干渉していた。


「火野先生、見てください!ハートですよー!……出火原因は、あなたです。僕が逮捕しちゃいますよ?」


「あ、あー……。田中さん、危ないから程々にね?」


無能に軽くいなされてしょぼくれる小坊主。

それはそうだろう、今奴は意味をはき違えて軽く放火魔扱いしてしまったのだからな。

しかし何だアイツ年上好きだったのか、見た目に寄らず無謀な奴め。

反対側では金髪とエウロラがワイワイ並んで楽しそうに火花を咲かせている。

色んな意味で火傷するぞ、そんな熱量の男女が接近していると。

まあいいか、これでエウロラも少しは大人しくしてくれる事であろう。

寧ろ金髪とそのままくっついてしまえば良かろう。

別に俺は寂しくないぞ、かえって清々するというもの。

というか正直、エウロラにも相応しい相手が必要だと俺は思っている。

俺以外の誰かがな。

そうでなければアイツは過去の鎖から縛られたままだ。


まあこの話は今はいい。

それよりも気にしなければならないのは、先程から俺の隣で黙り込んでいる華恋だ。

花火を手に持ちながら、火も付けずに呆けている。

妙な緊張感を醸し出すのはやめろ、まったく。

たかが一泊同室になったからといって何だと言うのか。


「……おい華恋、何か喋ろ。俺まで気まずくなるであろうが」


「あっ、ごめんなさい。……緊張してしまっているのかしらね。殿方と同じ布団で夜を過ごすなんて、初めてなものだから」


言い方を気をつけよ、いかがわしさ満載ではないか。

布団くらい別にしても良かろう、何故わざわざ狭い中で寝る必要がある。

皆今日はどうかしているぞ、何がそうまでさせるのか。

いや分かっている、やはり奴の仕業であろうな。

全ての生命の根源であり、この世界を染め上げようとする悪しきピンクの波動。

『LOVE※』

ん、いかん表記ミスだ、アイドルユニットが出来そうではあるが。


「みんなー、そろそろお風呂の時間よー」


無能の指示で皆、花火の後片づけを始める。

境内が火薬の残り香で充満している中、何を思ったのか小坊主が風呂場へと先陣を切って行った。


「あれ、田中さん?最初は女子からだからね?」


「……えっ!?混浴じゃないんですか!?お寺は精神修行の場だから混浴が当然なのかと思ってました!」


「そんな訳ないでしょう……?」


無能も流石に引き気味だな。

俺も引くぞ小坊主よ、周りをよく見ろ、女子たちの冷ややかな視線を肌で感じろ。

貴様は経でも読んでその剥き出し状態の煩悩を捨て去って来い。


そうして女子たちが風呂場へと向かって行き、俺たちは残っていたバケツを片付け一息つく。

皆はしゃぎ過ぎたのか、一気に静寂が場を染める。

石段に座り落ち着いてみれば虫の鳴き声やら風で木々が揺れる穏やかな音が聞こえてくる。

辺りは暗いので見上げれば星々が煌々と輝いていた。

ここが元の世界であったならばそこそこの魔力が満ちているだろうか、人工物である寺の周囲にはそれくらいの自然が溢れていた。

誰からともなく言う。


「あ、流れ星!」


一瞬の輝きに皆目を向ける。

元の世界ではもっとはっきり見えるものであったが、人工物の多いこの世界ではこんなものか。

だがそれが余程貴重なのであろう、この世界の人間どもはいちいち願い事を唱えると言う。

たかがそんな事で願いが叶うならば物語は生まれん、叶わないからこそ人間は物語を望むのだ。

けれど俺は生涯を「叶わない」で終わらせるつもりはない。

叶えるのだ、いずれ世界の全てを牛耳ると言う細やかな野望を——。


「なあ如月。俺、合宿来て良かったよ。ってまだもう一泊あるけどさ」


「……何だいきなり」


そんな金髪の率直な感想が何を意味しているのか知らんが、その上を向いたままの視線には横眼から見ても何か明確なものを感じた。

決意、或いは覚悟か。


『ボクも存外楽しませてもらったよ。ボクと萌音君にとっては高校最後の夏休みだから、良い思い出になるだろうね』


「僕もです!すっごく楽しくて時間があっという間ですよ!」


「……あ、あのぼぼぼ僕も、です」


何だ貴様らまで。

まだ半分も満たしていないと言うのにも関わらず、もう終わりの様ではないか。

当初の目的を忘れているであろう、生徒会選挙で述べた公約を詰める為の合宿ではないのか。

まったく、ヨハンも人間にほだされおって。

魔族は高貴であるべきだ、そこいらの有象無象に染まるな。


だがまあ、今はそれでもいいのかもしれないな。

俺たちはいずれバラバラになってそれぞれの道を辿る。

人間の一生で考えれば束の間の関係でしかない。

ならば1つ1つの瞬間を大事にするのも悪い事ではないし、そうしたいと思うのも自然な事。

源十郎の言葉になるが、そうやって起きた出会いの1つ1つが人格を形成していく。

俺にとってもコイツらにとっても、きっと意味のある関りなのだろう。

けれどコイツらがどんな将来を辿るのか知らんが、そこにきっと俺はいない。

そんな気がしてならないのは、何故なのだろうか。


「おーい男子ー!青春してないで風呂入れ~!」


エウロラの言葉に俺たちは素直に従い、感傷的な気持ちそのままに風呂へ行くのだった——。

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