第24話 人類解放神軍ナンバー2の襲来


——人界歴337年。

魔国インヴェルーグでは最終決戦の真っただ中であった。

どちらも壊滅的な被害を出した人類対魔族の争いは、とうとう勇者対魔王の決戦へと発展する。

そんな中で1人の少女、頭には左右で対となる角が黒く光り背中には小さな翼が生え、滑らかなシルクの様なアルビノ色の髪をした人間とドラゴンのハーフ。

人類解放神軍のナンバー2『ステラ・ドラゴノイド』は目の前の敵へと意識を集中させていた。


「君はハーフの身でありながら人類側の二番手という異色の存在。奇遇な事に、ボクもこの国では二番手の魔族。随分と楽しい戦いが出来そうだね、お互いベストを尽くそうじゃないか」


飄々と言ってくるこの男は、余程自分の力に自信があるのだろう。

纏う白のローブを靡かせながら、長めの白髪も風に揺れている。

その手には魔術書と杖。

魔王に次いでの実力者である男、名はヨハン・グリモワール。

グリモア教典を統括する存在であり、魔王の盟友とも呼ばれていた。


だが少女が最も気にしなければならないのは、そんな些末な事ではない。

自分の実の母親がこの男に誑かされてしまったという点だった。

少女は知っている。

この男、ヨハンは世界中の女を虜にしてしまう程の器量を持っている事を。

ならば、と。

少女は身の丈に合わない奇抜な形状の大剣を携えて一歩前に出ると、自身の決意を快活な笑顔と共に表明する。


「——そのいけ好かない顔、私が切り刻んであげますね」




夏休みが控えたこの時期は、自然と生徒たちの気も緩む。

テストも終えて今か今かとその日を皆が待ち望んでいた。

それは生徒会メンバーも同じであったようで、最近の俺たちは夏休みの予定などを互いに話す事がメインとなっていた。

けれどここで金髪が違う話題を持ち掛けて来る。


「そういえばさー、明日うちのクラスに転校生が来るって」


「あ、僕も聞いたよ!女の子みたいだね!職員室で見かけたってクラスの山田君が言ってた!」


小坊主もその話に乗り、2人が談笑を始めた。

何がそんなに楽しみだというのか、女生徒が1人増えようと何も変わりはせんであろうに。

俺がそう思っていると、華恋とエウロラまでもが話に乗って来る。


「どんな子なのかしらね。生徒会に興味はないかしら?」


「うちは広報も人手も足りてないからね~。何だったら手伝いに来てくれるような子が欲しいよね~」


この2人、何だか最近は普通に喋っているな。

最初はあんなにバチバチしていたというのに、女というものは分からんものだ。

そこへ更にヨハンが加わる。


『まあどういった女の子であろうとも、ボクら生徒会としては大歓迎ではあるね』


だがこの時の俺は大して興味も湧かず、だから知る由もなかった。

この一連のやり取りが、そのまま形になるのだという事を——。




翌日。

何やら教室中がそわそわしている様に感じる。

朝から何だというのか、と思っていた俺は昨日の生徒会室でのやり取りを思い出す。

そうか、転校生が来るからこんなに落ち着かない雰囲気なのか。

まったくこの世界の平民は呑気なものだ。

ここが魔国であったならば、上位に行く為の競争が激化するだけなのだぞ。

阿鼻叫喚もいい所、新規加入者が現れたとなれば魔王軍に所属する全ての魔族たちは頭を抱えていた事だろう。

そんな事を考えていると、教室のドアが開き担任の無能眼鏡が入って来た。


「はーいみんな、転校生を紹介するわよ。入って」


そう言って無能は女生徒を教室内に招く。

なるほど、外見はかなり良い方だろう。

黒髪のショートヘアーは横分けの前髪、快活そうでいて整った顔立ち。

華恋に近しいスレンダーな体型だが、華恋よりも身体のパーツは目立つ。

バックグラウンドエフェクトサウンドがザワザワから男子の「おおおお」に変わっていく、いや言い方が合っているのか知らぬが。

そうして教壇の前に立った転校生は自己紹介を始める。


「みなさん、はじめまして。星崎ひより(ほしざきひより)です。これからみなさんと仲良く出来たらと思います。宜しくお願いします」


パチパチパチ。

拍手が鳴り響く中でも、やはり男子の熱量が高かった。

まったくもってくだらん。

人間どもは何故こうも他人に興味を抱けるのか。

その点、魔族は簡単だ。

害があるのかないのか、自分よりも強いのか弱いのか。

共通してそれだけだ、少なくとも俺はそうだと思っていた。

まあ今もそうかと問われると、答えは微妙に違ってはいるのだがな。


そうして自己紹介を終えた転校生は空いていた俺の隣の席に座る。

男子の視線がこちらにまで向かってくるのは正直気に食わないが、まあ最初だけだろう。

俺はそう思って窓の方を向いて外を眺めた。

すると反対側から転校生が俺に声を掛けてくる。


「よろしくお願いしますね、えっと」


「……如月だ」


「はい、如月さん。私は星崎ひよりです。ひよりでも何でも好きに呼んでくださいね」


「ふん、呼ぶ事があればな」


隣の席だからと言って無理に喋る事もなかろうに。

俺は大して関わるつもりもなかったのでそんな風に言ったのだが。

次の言葉によって意表を突かれてしまう。


「呼びますとも。だって私も、——転生者ですから」


「……何だと?貴様は——」


「はーい!それでは授業を始めます!」


俺の言葉は無能に遮られ、転校生も教壇の方を向いた。

このタイミングで転校して来た者が転生者だと?まさかな。

俺は何処か雲行きが怪しくなってきたのを感じながらも、見て見ないフリをするのであった——。

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