第22話 金髪の追想


——何をやっても楽しくない。

そう気付いたのは、何時からだったのか。

中学に上がるタイミングで、両親が離婚した。

俺は母に引き取られる形となり、妹が1人いたのだがそっちは父に引き取られた。

それからというもの、母は大変そうだった。

1人で家事と稼ぎを担いながら、俺の弁当作りも欠かさない。

そんな母に俺は何もしなかったどころか、むしろ普段から荒れていた。

反抗期も酷かったし友達も悪い奴ばっかで、気付いたらギャングチームなんてものまで作っていた。

中学で知り合った進藤も片親で荒れていた為、共感性を抱いたんだと思う。

加えて俺も昔からケンカが強くて、高校生が相手でも負ける事はなかった。

次第に俺たちのチーム、レイヴンクローは地元では有名なケンカチームとなり、ヤクザだって迂闊には手を出して来なくなる。

そうなるともう天下を取った様な感覚にもなって来るが、俺はそれでも満たされなかった。

何をやっても楽しくない、それは何も変わらなかった。


そんな中で迎えた高校の入学式。

俺は中学でもそれなりに頭が良く、偏差値が高めの学校を選んだ。

何かが変わる事を期待して。

そこで最初に出会ったのが如月だ。

最初は意味の分からないキャラで高校デビューを狙ってる奴なのかと思った。

だけど同時に、俺は如月に何かを感じた。

こいつと関われば、何かが変わると思った。

俺の退屈な日常を、その非常識なキャラでぶち壊してくれるような気がした。

丁度そのタイミングで、進藤との価値観の違いも浮き彫りになっていたのもあったけど。

だから俺は天狗に成り果ててしまったチームを解散させ、翌日に如月へと謝罪をしに行った。

そこで俺は出会ってしまったんだ、萌音センパイに。

こんなにも心奪われたのは、初めての体験だった。


それからの毎日は全て新鮮なものだった。

何だかんだで楽しくて、時間も忘れて。

自分が何に悩んでいたのかも今となってはよく覚えていない。

それくらい強烈でインパクトのある日々だったんだ、俺にとっては。

勇気を出して如月と会長に謝って良かった。

萌音センパイに出会えて良かった。

だから俺には生徒会に立候補する動機がある。

それが不純なものであろうが関係ない、俺はもう知ってしまったのだから。

世界はこんなにも、色付いて見える事に——。




「……なあ、母ちゃん。俺、生徒会に立候補する事にした」


「……はい?」


自宅で夕飯を食べながら、向かいに座る母に俺はそう言った。

母は俺が何を言っているのか分からない様な反応を見せるも、まあ当然だよなと思う。

あれだけヤンチャしてきた息子が生徒会って、何の冗談かと思うに決まっている。


「だから、生徒会に立候補すんだって。書記をやろうと思ってんだ。てか臨時だけど、これでも生徒会の手伝いをしてたんだぜ?」


俺は夕飯のカレーをスプーンで口に運びながら、何でもないかのようにそう言った。

対して母は未だに手を止めてフリーズしてしまっている。

まあこれまでの行いが悪過ぎたんだ、ギャップに戸惑うのも無理はないよな。

けれど立て直した母は意外にも、俺を応援してくれた。


「……あんたが生徒会ねぇ。まあリーダー資質はあるんだから、やるからには頑張りなさい」


「はは、俺にそんなのないって。生徒会の連中は凄い奴ばっかだし、俺なんて井の中の蛙だったよ。けど——」


俺は決意表明改め、その意志を母に向けて言う。


「大事な仲間が出来た以上、もう途中で投げ出すつもりはないからさ」


「……そう。良いんじゃないの」


そうして俺は正式に生徒会入りを果たした。

この先何があろうとも、もう二度と半端はしないって誓う。

それは如月に感化された訳じゃない。

好きな人に正面から向き合う為の、俺の誠心誠意の決意だ——。

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