第20話 ギャングチームと言う割には武器がちょっと……


生徒会室が何者かによって荒らされた。

それは一目瞭然なほど資料やファイルが散らかされている。

まるで空き巣にでも入られたか、そんな状態ではあるが空き巣が盗むような貴重品などは置いていない。

ならば盗み目的ではない、これは明らかな生徒会に対しての敵意だ。


「……酷いわね」


そう呟いた華恋は、床に屈んで散らばったプリントを拾い始める。

それに倣い俺たちも拾い始める中で、金髪が悔しそうにぼやいた。


「くそっ、誰がこんな事しやがった!」


金髪の気持ちも至極当然であろうな。

冷静に考えて、生徒会に異論があるのなら直接そう言えばいい。

それをわざわざこんな陰湿な行動をされては何の解決も見据えていけない。

まったく、人間は相も変わらず煩わしいな。

これが魔族の世界なら力で全てが解決するというのに。

俺はそんな事を思うのだが、ヨハンの方は案外人間の心理を良く理解しているようだった。

何の気なしに淡々と皆に向かって喋り始める。


『みんな、残念な事態となったが問題ない。生徒の特定は出来ている。これを見てくれ』


そう言ってこちらに向けて来たのは、小さなモニター画面であった。

映し出されているのはこの生徒会室の内部。

つまりは監視カメラの映像である。


『ボクたちは立会演説会であれだけの公約を掲げた。大半の生徒は賛同してくれただろうが、中には反感を買う者も現れるだろうと思ってね。事前に取り付けさせてもらった』


そして映像は問題の場面に移る。

誰もいない生徒会室に複数の生徒が入って来た。

すると予めそうすると決めていたかのように、暴れ始めたのだ。

棚に並べてあるファイルをまき散らし、机を蹴り倒し、品のない笑い声を上げる。

それを見ていた金髪が、思わずといった様子で溢した。


「……進藤、マジかよアイツ」


俺もすぐに気づく。

映像の中の1人は以前、金髪とつるんで華恋にちょっかいを出してきたピンク髪だった。

ならばその時追い払った俺への復讐か、或いは自分の元を去って行った金髪への報復か。

どちらにせよ生徒の特定は出来た。

問題は処遇だが、それを決めるのは俺たち生徒の役割ではない。

後はこの映像を教師連中に渡して無事解決。


なのだが何を思ったのか、金髪が血相を変えて生徒会室を飛び出して行った。

これには流石のヨハンも想定外であったようだ。

慌てて金髪を追い掛ける。


『舞人君、君も来てくれ!』


俺はそれに従い、ヨハンと共に金髪の後を追い掛けた。

俺たちは走りながらも言葉のやり取りを交わす。


『不味い事になった。これで翔太君が彼らに手を出すような事があれば、ボクら生徒会に一気に亀裂が走る。翔太君があんな態度を見せるという事は、彼らは知り合いなのだろう?』


「ああ。俺のクラスの連中で、金髪のつれだった奴だ。この俺に歯向かってくるだけの事はあったな。まさかこんな事になるとは」


金髪は既に俺たちの視界から消えていた。

今は放課後、奴らが学校に残っているかも怪しい時間帯だ。

ならば金髪が校舎にいるのか、もう出ているのか。

下駄箱を確認するのが手っ取り早いと俺たちは考え、1―Bの下駄箱へと駆ける。

すると既に金髪の靴はなく、俺たちは急ぎ靴に履き替えた。


『アレス、彼らの溜まりそうな場所に心当たりは?』


「さあな。下々の行動など俺が知る訳なかろう」


「僕知ってるよ!」


俺たちに割って入って来たのは小坊主だ。

言いながら小坊主は俺たちを先導するかのように、前に出て走り出す。


「北口にレイヴンって言うバーがあってね、そこが彼らの溜まり場だよ!」


俺とヨハンは顔を見合わせるも、やむを得ず小坊主に頼る事にしたのだった——。




北口の駅ロータリー。

その小道に入って行くと、レイヴンと言う店が見えて来る。

現在午後4時過ぎ。

バーが開店するにはまだ早い時間の筈だが、シャッターは既に上がっていた。

俺たち3人は躊躇せずに扉を開ける。

すると中では何やら男女複数の学生服を着た者たちが揉めているようだった。


「進藤てめー、生徒会に何の恨みがある!!俺に文句があんなら直接行って来いよ!」


「はぁ?何言ってんのお前。俺が何をしたって~?言い掛かりしてんじゃねぇよ」


「きゃはは!翔太君こわ~い!生徒会の人がそんな乱暴な事言っちゃっていいわけ~?」


どうやら複数人を相手に金髪が言い争っているようだった。

とりあえず俺たちは安堵のため息を漏らす。

まだ暴力行為には至っていないようだからな。


「進藤、お前と作ったギャングチームは解散した筈だ!なのに何でまだこんなとこにいんだよ!?」


「……なあ翔太、レイヴンクローはお前だけのチームじゃねえ。俺らにはここしか居場所がねーんだよ、お前と違ってな」


そう言いながらこちらに気付いたのか、俺にピンク髪が言い寄って来た。


「ははっ、如月じゃ~ん!何、お前も俺を犯人だと決めつけて来た訳?証拠でもあんのかよ?」


「そうだな、貴様らが言い逃れ出来なくらいには揃っている。最早停学は免れられまい」


「……へー。それで俺らを脅しに来たつもりか?甘いな、考えが全然甘ーよ。俺らは最初から停学なんて怖くねーんだよ。お前さえここにおびき寄せればそれでよかったんだ。ぎゃはは!まんまと来ちまったなぁ!お前ら、客が来たぞ!」


そうピンク髪が言うと店の奥からぞろぞろと、他校生徒であろうか20人近くの男共が出てきた。


「舐めた態度取るとどうなるのか、教えてやっからよ~!」


連中はそれぞれ凶器まで持参している。

金属バットにバタフライナイフ、鉄パイプにメリケンサック等々。

それを見てしまった俺は、最早こう言わざるを得ない。


「貴様ら全員、タイムリーパーか。昭和からわざわざご苦労な事だ」


「現役令和じゃボケがあぁぁ!!!」


そうして大乱闘が開始される。

一斉に俺目掛けて、昭和を司る時の魔術師たちが雪崩れ込んで来た。

俺は昭和産の凶器を躱しながら、この状況をどうしたものか考える。

小坊主の方は問題なさそうだ、本当に最初から俺だけが狙いだったらしい。

金髪は金髪で未だにピンク髪と言い合っている。

不安要素はやはりそこだが、こちらから暴行しない限りは大丈夫であろう。

金髪だって生徒会メンバーだ、それくらい弁えているに違いない。

ならば一度距離が開いてしまったヨハンに相談したいのだが、これらを回避しながらとなると流石に困難を極める。

仕方ない。

俺は異世界から持ってきた緊急用魔術をここで使用する。


「念力系交渉魔術、——『マニピュレイトアイサイト』!!」


離れた相手と意思疎通を可能とする魔術、マニピュレイトアイサイト(ただのアイコンタクト)だ。

それを未だ眺めているだけのヨハンに対して行使する。


(おい。この状況、貴様ならどうにか出来るか?)


(ふむ。正当防衛に持っていくには少々条件が満たないね。だからアレス、彼らを傷つけないように戦意喪失させるしかない)


(この人数相手に俺1人でか?いくら何でもな、しかもこちらは素手だぞ)


(ならば仕方ない。ボクも手伝うとしようか)


そう言うと、いや念じるとヨハンは立ち上がり四足歩行形態から二足歩行形態へと姿を変えていく。

犬が後ろ足で立つあのポーズなどではない。

人間と全く同じ姿勢を取っていた。

いや骨格とかいろいろどうなっている、と言いたいところだが今はそんな余裕もない。

やむを得ず俺は、ヨハン二足歩行形態を受け入れる事にした。


「なんじゃワンちゃんんん!!俺らに動物愛護の心得はねーぞぉぉ!!」


ヤンキーの1人がヨハン目掛けてバットを振るう。

だがヨハンはそれを軽やかに素手で受け流した。


『奇遇だね、ボクも不良をリスペクトする精神は持ち合わせていない』


受け流したその肉球が猛威を振るう。

小さな身体でジャンプし、そのままヤンキーの腹に肉球パンチ。

が、それは寸止めの筈なのに風圧が生じ、ヤンキーの腹にめり込みを与えた。


「がはっ!!」


ヤンキーは腹を抑えながらその場で崩れ落ち、戦闘不能。

そのままピクリとも動かなくなってしまった。


『安心してくれ、峰打ちだ』


「いや死んだだろ。ヨハン貴様、傷つけないどころか殺してどうするのだ」


するとその峰打ちされたヤンキーがハッ!と起き上がった。

きょろきょろと辺りを見回して、状況を把握しようとしている様にも見える。

だが実際は中々えげつない事になっていた。


「……お、俺今知らねー川で、死んだ筈のばあちゃんに会ったぞ……。うっ、うう……ばあちゃあぁぁん!!」


泣き始めたヤンキーを他所に、ヨハンは俺に言ってくる。


『ほらねアレス、ボクは彼を殺してなどいない。少し良い夢を見させていただけさ』


「ああ、そうらしいな。法律的にかなりギリギリではあるがな」


そんなやり取りを交わす俺たちではあるが、防戦一方の現状では埒が明かない。

やがて俺とヨハンは店の中央に追い込まれる。

周囲を取り囲む昭和の魔術師たちに対して、俺たちは背中合わせになった。


『ふむ、困ったね。風圧肉球拳で全員黙らせる事は出来るんだけれど』


「いや、あれはもう絶対に使うなよ。何人か川から戻って来れない奴が必ず出てくる」


そんな事を言ってはみたものの、打開策が何もない。

多勢に無勢。

絶体絶命の言葉が脳裏を過る。

せめて何か長い物があれば。

そんな時、店の入り口から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「——如月君、これを使って!」


投げられたそれは頭上で回転しながら、大きな弧を描く様に落ちてきた。

それを空かさずキャッチする。


「なるほど、木刀か」


そして投げた当人である華恋もまた、同じ木刀を右手に握っていた——。

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