第14話 エウロラの追想
俺は魔王であるぞ。
誰だ、俺に不名誉な「パパ活」などとふざけた呼び名を付けたのは。
すると早速、周囲から声が聞こえてきた。
「え?如月君ってそーゆーキャラだったの?」
「信じられなーい、あのヤンキーみたいな如月君が!」
「そーそー、魔王様ったら節操ないんだから~。あたしも色々されちゃったし——あ、ヤバ」
俺は早々と犯人を見つけたので、名誉棄損により切り捨てる事にする。
空かさず取り出したのは、体育館から持ってきていた竹刀。
「エウロラよ。貴様は俺の配下でありながら、魔王である俺に逆らった阿呆だ。よって、——死して償え」
駆け出す俺に対し、颯爽と逃げ始めたエウロラ。
絶対に逃がすものかと俺は長い廊下を本気で走った。
「あーん犯されるぅ~~!!……あれ?それはもう既成事実ってこと??」
「ほざけ全身汚物!貴様を今すぐ一刀両断にしてくれるわ!」
逃げるエウロラに追い掛ける俺。
だがしかし一向に追いつけないのは何故なのか。
次第にエウロラの姿は遠ざかり、俺は足を止めて切らした息を整える。
「はぁ、はぁ……。何なんだ、アイツの足の速さは……」
俺は再び見失ったエウロラを捕まえる為に走り出すのだった——。
——あたしは魔王様が好きだ。
それは前世からずっと変わらない。
でも気付いている事もある。
何をしたところで、魔王様はあたしを見てなんてくれない。
「……はぁ。虚しいのかな、あたしは」
振り向いてもらえない相手にいくらちょっかいを掛けたって。
結局あたしのやっている事は、あの人にとって嫌がらせでしかないのだろう。
でもあの人は気付いていない。
あたしがいくら普通にアプローチしたところで、見向きもしない事に。
それはあたし以外の別の人物が、あの人の中では既に存在しているからなのだ。
それを気付いていない、鈍感な人。
でもそんなところも愛おしい。
自分勝手で傲慢で、自己意識が高くて自己中で。
それなのに時折見せる優しさが、あたしの心をこんなにもかき乱すんだ。
そう、それは前世であたしがまだ低俗な魔族として扱われていた時の話。
あたしの種族はアルラウネ、植物系の魔族だ。
けれどお世辞にも強いとは言えない程、あたしの魔力は低かった。
そのせいか魔王軍に加入しても、あたしの存在できる場所はないに等しかった。
底辺の魔族は底辺の扱いを受ける。
それは人間世界でも同じかもしれないけど、力が全ての魔族の世界ではより濃いものがあるのだ。
あたしは常に暴力の的になり、治癒魔術も追いつかない程生傷も絶えなくて。
そんなあたしを見かねたのが、たまたま通りがかった魔王様だった。
魔王様はあたしなんかの為に治癒魔術を使うどころか、こう言ってきたのだ。
『俺の直属配下になる覚悟はあるか?』と。
まだ成り立ての魔王様にとって、信頼の置ける配下が少なかった。
そこで魔王様は後に作られるグリモア教典のメンバーを探し歩いていた。
あたしはその四番目として迎えられたのだ。
そして地の魔術書を受け取り、今まで使えなかったようなとんでもないレベルの魔術までも習得していった。
でも何故、弱小魔族のあたしに声を掛けてくれたのか。
それは今でも分からない。
それでもあたしは魔王様の心に触れたいと、その瞳に映っていたいとそう思った。
強い恋慕を抱いたのだ。
けれど魔王様は既にカレン・ローライトと言う少女にのめり込んでいた。
何がそうさせたのかは分からないけど、あたしには切っても切り離せない強い何かを2人に感じていた。
だからさっさと諦めてしまえば良かったのに、それでも気持ちは膨らむ一方だった。
現実はどうしたって、残酷だ。
叶えてもくれないのに、諦めさせてもくれない。
あたしは一体いつまでこの感情と共に過ごすのだろうか。
そんな風に思う位にはやっぱり、あたしは魔王様が大好きなのだ——。
「なーにしてんすか、萌音センパイ!」
下げていた目線を徐に上げる。
あたしが中庭のベンチで追想に囚われていると、いつの間に来たのか。
ピアスを付けた金髪の一年生があたしに声を掛けてきた。
「……今、あんたに構ってられる余裕ないから」
いつもの軽薄なギャルキャラを捨てて、あたしは無気力にそう言った。
けれど金髪は欠片も気にしないような素振りで言ってくる。
「いいんじゃないっすか?そんな時も生きてりゃあるっしょ」
そう言ってストン!とあたしとは距離を空けてベンチに座った。
こいつは何なのか。
どうせ他の男連中と同じで、身体が目当てで好きだとか抜かしてきたんだろう。
生憎あたしは他者から愛された経験がない。
ならば愛する価値があたしには備わっていないのだ。
この金髪にしたってそう、きっと上辺でしか見ていない。
最初からそう思っていたあたしに金髪は続ける。
「俺、萌音センパイなら全部受け止めますよ!……良い事あれば、嫌な事ある日もあってさ。そうやって落ち込んでるセンパイだってセンパイでしょ?俺は上辺だけを掬い取ろうなんて思わない。沈んでるところまで全部拾い上げてこそ、男ってもんでしょ!」
……何なんだ、こいつは。
よくもそんなくさい言葉を堂々と言えたものだと。
あたしはそう思っているのに何故か、違う言葉を言っていた。
「……ありがと」
「へへっ、どーいたしまして!」
あたしもどうかしている。
こんなキザなセリフ1つで、100年近く拗らせている恋心を忘れさせられるなんて。
例えそれが応急処置の手当てであったとしても。
この時のあたしはほんの少しだけ、救われた様な気分になっていた——。
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