第13話 ホラー警報、発令
校舎の4階に位置する科学室。
現在科学部が活動中であり、その中で俺たちは現場を検証していた。
「ごめんなさいね、作業の邪魔にならないようにしますので」
華恋の言葉に気を使ったのか、科学部の部長らしき女生徒が丁寧に言ってくる。
「いえ、こちらこそお忙しい生徒会の手を煩わせてしまってごめんなさい。こちらの事は気にしないでもらって構いませんから」
そう言って女生徒が作業に戻った。
俺たちは問題の人体模型を調べる。
だが特筆すべきような異常も見当たらない。
「やはり人為的なものだろう。人体模型が勝手に動くなど在り得ん話だ」
すると何を思ったのか、華恋がおかしな事を言い出す。
「如月君はこの学校の闇を知らないようね。この校舎は昔、いわくつきと言われていた土地に建てた物なの」
誰かが唾を飲み込む音をさせた。
続いてヨハンが話し始める。
『いいかいアレ……舞人君。君は一年生だから知らないようだが、この学校には古くからの言い伝えがある。それは他校によくある七不思議なんてちっぽけなものではない、呪いそのものだ』
何を言っているのか。
そんなものある筈がなかろう。
ヨハンともあろう者が何を言い出すのかまったく。
元いた世界でも死霊魔術など存在しなかったのだ。
俺は鼻を鳴らして失笑する。
けれど金髪もそれに続く。
「あ、俺も聞いた事ありますよ。何でも昔、いわくつきのこの学校を鎮める為にどっかの女の子を生贄にしたんだとか。んで死んだ筈のその子と遭遇すると、ホントに呪われるとかって」
そしてエウロラも続く。
「そーそー。で、最期には学校に囚われて出られなくなるんでしょー?マジ嘘みたいだけど、いるらしいよ何人か。行方不明になった生徒が」
更に小坊主まで。
「うちの姉も言ってました!卿学の呪い話は他校でも有名らしいですね!」
そこまで言って気付く。
科学部の連中までもがこちらに視線を向けていた。
「……ふっ、馬鹿馬鹿しい。そんなものを信じる歳か貴様らは。もういい、俺は帰る。まったくもってくだらん」
そう言った俺を引き留めるようにして華恋が言ってくる。
「怖いのかしら、如月君?ふふっ、可愛いところもあるのね」
「何だと!?」
俺は大変腹が立った。
そこまで言うならば、この俺がそんなものはないという事を証明してやる。
そう思った俺は早速、家に帰って準備をするのであった——。
「……何故貴様らもいる」
時刻は午後9時を回ったところ。
俺は今学校に忍び込んでいた。
廊下を進み、4階の科学室を目指す。
この俺が1人で全て解決してやろう、そう思っていたというのに。
「まおうさまぁー!夜に密会って、なんかエロいねっ!」
「密会ではない、貴様は今すぐに帰れ」
俺はエウロラに突き放すようそう言った。
「え、じゃ、じゃあ萌音先輩!俺とはどうっすか?エロいっすか!?」
「えー?いんや、ぜんぜんだけど?」
「うるさいぞ、他でやれ」
金髪まで来ている。
というか、全員もれなく揃っている。
何だコイツらは。
仮にも生徒会であるのだぞ、誰か模範であれる奴はいないのか。
そう思う俺であったが、ヨハンがそのまともな思考を一蹴してしまう。
『ボクらは生徒会であり、生徒たちの要望を聞き入れる責務がある。今回は事案が事案だ、生徒会顧問である火野先生には話を通してあるから問題ないよ』
火野響子(ひのきょうこ)、それがあの無能な眼鏡を掛けただけの女性教師の名前であるようだ。
その眼鏡が職員室で待機しているようであり、いざとなった時に対応してくれるのだとか。
根回しは済んでいる、というか恐らく何らかの脅しを掛けたなヨハンめ。
だがそんな事はどうだっていい。
それよりも何故俺がコイツらと同行せねばならんのか。
俺1人で解決せねばならんと言うのにまったく。
決して怖いなど感じる訳がないのだ。
魔王よりも恐れるものがいてたまるか。
そう思う俺に華恋はぬけぬけと言ってくる。
「ふふっ。怖くなったら手を繋いであげるわ。ね、如月君?」
「……いらんお世話だ」
俺はそう言って足早に階段を昇る。
薄暗い廊下は誰もいないせいか、いつもの校舎とは全く異なる雰囲気を醸し出す。
懐中電灯の灯りがなければ何も見えないだろう暗闇。
吸い込まれる錯覚さえ思わせるのは、恐怖から来るものなどではない。
ただ単に、今日は曇り空で月明かりも隠れてしまっているせいである。
要するに暗いだけ、それだけだ。
そうして俺たちは科学室に辿り着く。
事前に鍵を借りていたので、それを鍵穴に刺しゆっくりと回す。
開いた扉の先には、問題の人体模型。
が、何処にも見当たらなかった。
何故だ?昼は確かにあったというのに。
現状に納得できない俺たちは、室内に足を踏み入れる。
そして科学室の電気のスイッチに誰かが手を伸ばした。
カチカチ、カチカチ。
誰が今点けに行っているのか分からないが、どうやら点かないようだった。
不思議と皆の中で緊迫感が走り始める。
「えっ!?何で点かないの!?ねえ、誰が今電気点けて——」
エウロラの言葉に、懐中電灯が自然とスイッチのある方へ向けられる。
照らし出される壁際。
するとそこでスイッチをカチカチ鳴らしているのは、……人体模型であった。
「……き、きゃああぁぁぁぁ!!」
その悲鳴を合図に、全員が逃げ出した。
慌てふためく室内。
「マジかよっ!?ドア開かねーんだけど!?」
金髪の発言が混乱を更に助長した。
より一層皆はパニックになる。
小坊主は既に闇に溶けてしまい、存在が感知出来ない。
あれだけ人を馬鹿にしていた華恋でさえ、エウロラと抱き合いながらガクガクと震えていた。
いや貴様は前回あんなにホラーを演出していたであろうが。
そんな愚痴も現状では意味のない事。
俺と唯一冷静なヨハンが人体模型へと向き合う。
「これはどういう原理だと貴様は考える?」
『ふむ、そうだね。ある程度可能性は絞れるが、直接聞いてみない事には答えは出せない』
そう言ったヨハンが落ち着いた4足歩行で人体模型へと近づいて行く。
すると人体模型は、突然走り出した。
ダダダッ!!と華恋たち目掛けて猛ダッシュし出したのだ。
「い、いやあぁぁぁあああ!!」
「い、いやあぁぁぁあああ!!」
息ピッタリに逃げ出す華恋とエウロラ。
そんな追い掛けっこは次第に扉の方へと向かって行き、そこにいたのは金髪だ。
「う、うわあぁぁあああ!!」
逃げ惑う3人。
追い掛け続ける人体模型。
俺はどう収集をつけるべきか考える中で、先に答えを出したのはヨハンだった。
『……グリモア教典、第三の書』
ピタッ!と止まる人体模型。
ゆっくりとこちらに振り向き、どうやらヨハンを凝視しているようだ。
『君もこちらに転生していたようだね。ガルドール・ストラクト』
言われて、人体模型は喋り始める。
『——なんでオイラの名前……。まさか、ヨハン様ですかい!?』
人体模型に転生とは、それは最早転生とは言わないのではなかろうか。
魂の憑依、どちらかと言えばこちらの方がしっくりくる。
だが認めてたまるか、そんな死霊術的な要素など。
ならば、と。
俺は人体模型に向けて堂々と言い放つ。
「そうか、正体は貴様であったか。我が配下『グリモア教典』“第三の書”脳筋の魔術を司る「ゴリアテ」、ガルドール・ストラクトよ!」
『ボクがもう先に言ったんだけれどね』
目をパチクリさせる人体模型。
そのままこちらに視線を合わせて喋る。
『もしかして、魔王様だべか!?おお、これはこれは!!』
そう言って俺の元に来て俺の手を握りブンブン振る。
コイツは脳筋だ、力加減というものを知らんのだ。
「はぁ。分かってしまえばなんて事はない。おいゴリアテ、早速だが扉を開けろ。わざわざ鍵を閉める事もなかろうに」
そう言ってゴリアテは不思議そうな顔を向けてきた。
『何言ってるだ、魔王様?オイラ、そんな事してねーべさ』
「は?では何故ドアが開かんのだ。……ん?」
そう言って俺は気付く。
この場に1人、増えている事に。
存在を消した小坊主ではない。
別の者の気配だ。
「……おい、貴様は誰だ——」
室内の隅にいた少女らしき人影。
すると少女は俺の言葉を遮るようにして、一瞬で間合いを詰めてきた。
「——オニイチャン、ワタシトアソボ……?」
俺の眼前でこちらを覗く様に、長い髪の隙間から目がギョロっと動く。
背筋が凍り、血の気が引いていく。
俺はそれに驚いて思わずこう言った。
「……ぱ、パパ活はせんぞ!!俺はガキに興味などない!!」
「……。」
消えていく少女。
点いた電気。
ドアが開き、安堵する声が漏れるも。
恐怖の余韻が残る中、この場が新たに支配したのは。
波が押し寄せた後の、何かがある意味で引いていく。
そんな瞬間のもの悲しさであった——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます