第12話 闇
今日もまた退屈な授業を終え、学校から解放された事に清々しながら帰路につく。
たまには源十郎家で茶でも飲もうか、そんな事を考えていた俺を呼び止める声がした。
「如月君?一体何処へ行くのかしら?」
「……。」
声の主は華恋だ。
まあ華恋であろう。
何せ俺は臨時と言えど生徒会活動から逃げるように歩みを早めていたのだからな。
だが捉まった、いや捕まったと表記すべきか。
俺は渋々華恋の手に引っ張られながら生徒会室へと連行されるのであった。
生徒会室には既に臨時メンバー全員が集まっていた。
ついて早々すぐさま華恋は司会の進行に移る。
「それでは本日の議題ですが、副会長」
役職で呼ばれたヨハン(推定マルチーズ)が席から立ち、進行を任された。
けれどその立ち?姿が余りにも犬である為、俺の耳には何も入ってこなかった。
椅子に短い足を乗せ、机の上に手を掛けてちょこんと顔を出す。
状態はやや斜めなのが余計に犬のおねだりを連想させて、思わず俺はポケットに菓子が入っていなかったか確認してしまう。
すると小坊主も同じ事を考えていたのか、入念にポケットをチェックしていた。
『……君たち、ボクはお腹が空いている訳ではない。この状態が一番話しやすいだけだ』
そんな事をヨハンが言うのだが、ならばその体勢は何だ。
どう考えても物欲しそうにしている時の犬ではないか。
俺は文句の1つも言ってやりたくなる気持ちを押し殺してこう言う。
「ふっ。ヨハン、貴様は何か勘違いをしているようだ。俺は貴様に餌をやりたかった訳ではない、——動画を撮ってトゥイッターに上げたかっただけだ」
『君は魔王の割に随分と俗世に浸かっているようだね』
俺もトゥイッターを頻繁に利用している訳ではない。
ただ近所のスーパーのタイムセールが情報として得られる為、仕方なく登録しただけだ。
だが犬関連の動画は実際良く見ていた。
そう、俺は前世でも今世でも犬が好きらしい。
それをひた隠しにしていた俺だが、ここで一旦冷静に考える。
果たしてかつての盟友の頭をナデナデする事が俺に出来るのか?と。
そんな俺の苦悩を他所に、隣に座っていたエウロラがコソコソと小声で話し掛けてきた。
(ねえ魔王様、あれホントにヨハン様なんだよね?前世では種族問わず世界中の女を虜にしてきた超絶イケメンのヨハン様が、今世では犬って……。ねえ、笑っていいところ??)
(貴様が奴の怒りを買いたいのであれば笑うといい。俺は御免だがな)
(……やめときまーす)
そう言ってエウロラが姿勢を戻すと、今度は金髪がヨハンに質問をする。
「木島先輩と如月って知り合いだったんすか?」
『ああ、そうだよ。彼とは長い付き合いでね。腐れ縁というやつさ』
「へー、幼馴染ってことかー」
何か思い違いをしている金髪だが、話がこじれると面倒だ、放っておこう。
中々議題に戻らない中で、何やら小坊主が皆に向けて自慢げに言い出す。
「木島先輩は木島財閥の跡取りなんですよ!木島財閥は凄い手広く展開していて——」
それの何が癇に障ったのか、ヨハンが小坊主に口調を荒くする。
『その薄汚い口を閉じろ昼行灯。ボクの話は今後一切するな、俗悪な顔面凶器が』
「へ……?」
驚き黙る小坊主。
だがすぐさま駆け足で俺の元に来た。
(ねえ魔王様!僕何か悪い事言いました!?こないだ見合い破棄した事、根に持ってるんですかね!?)
(知らん、俺に聞くな。本人に聞いて来い)
(そ、そんなぁ……)
トボトボと席に戻る小坊主。
まあ、何だ。
ヨハンは昔からこういう所もある奴だ。
俺とエウロラだけはこの成り行きに納得していた。
ヨハンは博愛主義者を語っているが、その実嫌う者をとことん嫌う習性がある。
それが何を条件としているのかは分からんが、とにかく該当者にはキツイ言葉を放つのだ。
そんなやり取りをしていると、華恋が痺れを切らして軌道修正を図る。
「みんな、ちゃんと話し合いを進めてちょうだい。これでは問題解決にならないわ」
そう切り出した華恋に従い、皆が喋るのをやめた。
再びヨハンは進行へと戻る。
『すまないね、会長。では今回の議題に戻ろう。先日、とある生徒から苦情の書かれたアンケートを受け取った。それによると科学室の人体模型の置き位置が毎回変わってしまうようだ。誰かの悪戯の可能性もあるが、何にせよ科学部が大変困っていてね。それが今回、ボクたちが解決したい問題である』
一頻り話し終えたヨハンに、金髪が質問する。
「はい木島先輩!どうやって解決するんすか?」
『そうだね。防犯カメラを設置したいところだけど、経費が掛かってしまうからね。だから今回は皆で現場に赴き、動く理由の解明、或いは物的証拠を集めたいと考えている』
また面倒な。
魔術も使えないこの世界で物が勝手に動くなど在り得ん。
ならばそれなりの理由が存在し、その多くは大抵人為的なものだろう。
つまり犯人を捕まえない限り解決はしない。
そこまで考えて、俺は深くため息を吐いた。
「人体模型が勝手に動く訳でもあるまいし」
そう呟いた俺に、何故か皆の視線が集まった。
生唾を呑む姿に、緊張感にも似た空気を漂わせる。
一体何だと言うのだコイツらは。
そんな中で、華恋が代表して言う。
「……今回私たちは、この学校の闇と対峙してしまうかもしれないわね……」
そんな意味深な言葉を残して、俺たちは全員で科学室へと向かうのであった——。
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