05


店を出た俺たちは自然と定食屋のことを考えていた。


「明日は何食べます?」


「そうだなぁ、天ぷらも気になる」


「全部制覇したいですよね」


「確かにな」


美味しくて朝子さんの人柄もよくて居心地もいい。

もっと繁盛したらいいのに。


そう思いながら、気づけば定期的に通うようになっていた。

昼飯を食い損ねたときは夜に訪ねて食って帰る。


「朝子さんってお母さんみたいですよね」


小金井がふとそんなことを言った。

小金井もあの店を気に入って知り合いを誘ってはよく行くらしい。

布教活動だと言っていた。


朝子さんとご主人には息子さんが一人いるらしい。

ご主人は某有名なホテルの料理長を務めていたバリバリの料理人。

でも息子さんが就職して激務で体を壊したことをきっかけに、このオフィス街で店を出すことを決めたそうだ。

いつでも食べに来られるようにと。


「働く人が美味しいご飯を食べて元気でいてくれないとねぇ」


朝子さんはふふふと笑い、ご主人は寡黙に料理に勤しんでいる。

息子さんへの想いが詰まった大事な店だそうだ。


ちなみに、店のデザインは夫婦二人で考え、オシャレなお店にしたい朝子さんと、昔ながらの暖簾を掲げたいご主人の意見が真っ向から対立して平行線を辿り、両方取り入れたらしい。

今となってはそれもこの店の良さのひとつだ。


俺も僭越ながら同僚たちに紹介したりして定食屋の布教活動をした。

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