悪魔的シンセサイズ
漆徇炫
第一章 終末編
第01話 終末的ディアレクティケー
人類は技術を重ねても,争いを削ぐことは叶わなかった.核兵器や生物兵器を皮切りに,活断層や火山活動を誘発させる残虐極まりないものを創っていき,誇示されていた暴力が次第に地上へ
あれから何億年が経過しただろう.
地下シェルターで球体のサーバーを眺めながら過ごす日々.埃一つない白い部屋の中で,いつしか記憶することすらしなくなっていた.
電脳世界を観るのが俺たちの仕事だ.肉体を
ある日,伊吹が足取り軽く歩いてくるのを見た.伸びていた髪が,肩より短く切られていた.その表情にはかすかに笑みが浮かんでおり,実に不気味に感じた.
「ねぇ,
その声に顔を上げる.話しかけてきたのは何年振りだろう?
「もしかして,もう二人だけ?」
「ボケたか? 遥か昔にトールが肉体の更新を止めてから,永遠お前と二人だ」
「そっか.やっぱり歩は,人類一の社畜だね!」
「やっぱりってなんだよ……」
「歩は正義感と忠誠心は人一倍あるって思ってたから」
「何その幼馴染みたいなセリフ」
「ここまで来れば,幼馴染みたいなもんじゃん」
それもそうか.こいつにいつ出会ったのか,すっかり忘れてしまってるな.というか上機嫌すぎる.久々にクスリでもキめたのか?
「電脳世界の人たちって,どうなってると思う?」
「さあ? 外部からの攻撃もないしデータもそのまま.楽しくやってんじゃない?」
「残念だけど,記憶と人格がそのままな時点で結果は見えてたんだ」
「と言うと?」
「このサーバーの容量が有限だからさ,いつか記憶域に限界がくるんだよね.するとどうなると思う?」
「また,争うってことか」
「そう.この数億年で記憶域を奪い合った結果,人類はこの球体で一つになった」
断言口調? まあ,内側での争いは管轄外だからどうでもいいけどな.
「予想はできるけど,どうしてそう言い切れるんだよ」
「魂が見えるから.知ってる? 魂が何で出来てるか?」
「本当にどうした.伊吹お前,今日おかしいぞ」
「ここには歩だけだし――
お別れのあいさつは適当でいっか」
「死ぬのか?」
「ううん,この文明はもう数十分で終わるんだ」
嬉しさが滲んだ寂しい表情でそう言った.確かにそう聞こえた.こいつは何を言っているんだ?
「だからさ,少しだけ話そうよ.最初で最後の真面目な話を」
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