十五話 奇襲

 昨日は宿に戻ってすぐに寝てしまった。


戦と違い、人に声をかけ続けるのは精神的な疲労がたまる。




了斎「清次、いつまで寝てんだ!」


了斎に叩き起こされた。俺、そんなに寝たのか?




将英「もう朝飯食ってる時間ないから、着替えてすぐ出発な」


部屋の戸を開けて将英が言った。




俺「もっと早く起こしてくれよ!」




雷煌「何度も起こしましたよ! でもすぐに清次さん寝ちゃうんです!」


気づいたら皆が俺の部屋に来ていた。




霧島「早く着替えろー」


了斎なんて同じ部屋なんだからさ・・ちゃんと起こしくれてもいいじゃんか。


俺が悪いことに変わりはないか・・・・




大急ぎで着替え、髪もぐちゃぐちゃのまま宿を出発した。




俺「将英、今日もありがとなー」


将英の風刃術に任せておけば、軽く走るだけであっという間に移動できる。


城の前に来ると、かなり賑やかになっていた。




雷煌「久遠さん、だいぶ集まってますね!」


雷煌が近寄っていった。




久遠「ああ。まだ全員ではないようだが・・・・」


兵を見渡しながら言う。




翔斗「昨日声をかけたのが全五十二人。今いるのが四十九人のようだ」




了斎は「いつの間に数えてたんだ? 翔斗」


感心してる場合か。


というか、声をかけた人数まで計算してたのか。どれだけ真面目なんだ・・・・




雷煌「こんなに人が集まってて・・幹部にはどう説明したんですか?」


確かにこんな大所帯になっていたら違和感を持たれるに決まっている。




久遠「宰川殿が『豪の待遇を改める』と伝えたらしい」


大真面目な顔で言う。




霧島「もう少しマシな理由は作れたんじゃないのか?」




久遠「時間がなかったんだ」


だとしても・・と思ったが、俺に比べて忙しいだろうし仕方ないか。




 もうしばらく待つと、獅電さんと残りの豪の武士が全員揃った。




華城「今いるのが五十九人か。豪の武士が全員揃うとはな」


と呟いた。




獅電「話を始めろ」


獅電さんがそう言うと、久遠さんが話し始めた。




久遠「よし。皆の衆、静まれ!」


ざわめきがやんだ。




久遠「只今から、我々の今後の戦略について説明を・・・・」


久遠さんが話し始めた瞬間、火矢が城へ飛んでいくのが見えた。




豪の武士「城に火が付いてるぞ!」


叫び声が聞こえた。




久遠「ああ、想定内だ。この瞬間を狙うと思っていたんだよ」


豪の武士を集めたのは、反乱者を触発して反乱を急がせる目的もあった。




 そう、今日合戦が始まることは分かっていたのだ。俺たちが反乱を止めようとしていることに、反乱者は気づいていた。そして、俺たちは気づかれていることも知っていた。


ひとまずここで一勝だ。あとは弾圧までできたら完璧だな。




久遠「では今から、反乱者との合戦を開始する! 総員、反撃を開始せよ! 宰川殿は既に城から避難しておられる故、城の防衛は考えなくていい!」


久遠さんが全員に指示を出した。


豪の武士には戦闘準備をさせてきたので、すぐに戦闘に入った。




獅電「東二を仕留める。手出しするな」


そう言って獅電さんが走っていった。獅電さんに近づく武士が軒並み倒されていく。




俺「獅電さん、走りながら武士を・・・・」




久遠「あれが『宰川軍最強武士』だよ。よし、お前らも突っ立ってないで戦え!!!」




宰川軍幹部『獅電』、使用術『無』。


速度・威力・戦闘時の判断能力すべてを兼ね備えた史上最強の武士。


刀の稽古を初めて二日で師匠を病院送りにした。


人を突き放す言動をすることがあるが、本人曰く『人と関わるのが得意ではない』らしく、実際に宰川や久遠以外と話す際はあまり感情を表に出さない。




俺たちはまず足軽の相手をする。邪魔が入らないよう雑魚を蹴散らしたあと、幹部との決闘をするという計画だ。


地割れさえ起こせれば並大抵の武士は何も出来ずに死んでいく。


まあ、せいぜい足掻いてみるといい。




了斎「よし、話し合った通りの編成で行くぞ。清次、地割れを起こせ!」


了斎からの指示が来た。


地割れを起こし、馬小屋を崩れさせた。敵の数十人は押しつぶされているようだ。


もちろん、馬は避難済みである。




俺「火蓮、了斎! 火を放て!」


二人が走っていき、馬小屋に火をつける。


やはりこの二人の炎は強烈だ。視界がぼやけてくる。




反乱者「ぐぁぁぁぁ!!」


敵の悲鳴が聞こえた。




一つの集団をあっという間に殲滅し、司令のところへ戻ってきた。




久遠「今のところは計画通りだな」




華城「よし。将英と雷煌で中堅の武士を殺せ」




雷煌「分かりました!」


二人が敵の方へ走っていった。


華城の指揮能力は流石といったところだ。




俺「中堅の武士をあの二人に任せたのは何故だ?」


特に将英は集団戦闘を得意としているので疑問だった。




華城「ある程度の実力を持った武士を炎だけで殺すのは難しい。確実にあの二人で仕留めてもらうのがいいと思ったんだ」


やっぱり華城はいつも納得のできる理由を提示してくれる。


だから俺たちは安心して動けるんだよな。




 再び集団が攻めてきたので、俺と剛斗が処理することになった。




俺「よし、剛斗! お決まりのやついくぞ!」




剛斗「待ってたぜ相棒!!!」


別に俺は剛斗の相棒ではない。


お決まりのやつとは、俺が土で生み出した針を剛斗が投げるというものだ。前回の戦で苦し紛れに考えた策だが、想像以上の破壊力になることがわかった。


何より、一方的に攻撃ができるので気持ち的に楽だ。




霧島「俺が霧を生み出しておく」


霧島がそばまで来ていた。




俺「ああ、助かる」


敵の視界を悪くすることで、さらに針が当たりやすくなるって魂胆だ。




剛斗「オラァ!!」


剛斗が投げるたびに十人ほどの敵は倒せているようだ。


この調子ならあっという間に全滅させられそうだな。




      *


 オレと華城は基本的に戦闘を行わず指示を出していく。


ただ、不思議なほどに順調だ。何よりも怪しいのが、幹部が出てこないことだ。


普通、ここまで劣勢であれば幹部も攻撃に加わってくるはずだ。


まさか、獅電を狙い撃ちに・・?




オレ「華城、指揮は任せても大丈夫そうか?」




華城「ああ」


華城が頬杖をつきながら言った。随分と余裕そうだな・・・・




オレ「獅電が向かった方へ行ってみる。緊急事態であれば笛を鳴らせ」


オレは獅電のいる方向へ走り始めた。




 獅電の元へ来ると、やはり幹部が固まっていた。こっちに戦力を固め、最大戦力から倒すつもりだったんだな。


だが甘い! オレも清次たちも獅電が居ないと勝てないような武士ではない。


よし。集中しろ。今出せる中で最大の雷を落とす。おそらく、獅電は雷を避けることが出来る。




幹部「うぁぁぁああ!!」


成功だ! 幹部の数人が倒れた。




オレ「獅電、まずそいつらを殺せ!」




獅電「邪魔するなと言っただろ!」


獅電はそう言いながら倒れた幹部を斬った。




オレ「いくらなんでもお前のもとに戦力が集まりすぎている。共闘するぞ!」


獅電は返事しなかったが、おそらく伝わっているだろう。




オレ「正直、あんたたちにも恩があるんだから殺したくなんかないんだよ・・でも、宰川殿を守るのが第一なんだ」


いくら反乱者とは言え、今まで共に歩んできた仲間を殺すのは心が荒む。




幹部「そうか」


と言った瞬間、東二が背後から斬りかかってきた。


あっぶねぇ、反応が遅れてたら今頃オレの首は地面に転がっていただろう。


東二は獅電よりもオレを殺すのを優先してるのか・・?




獅電「油断するな久遠! 情を捨てて殺せ」


情を殺すなんてオレには出来ない・・・・




オレ「でも、こいつらも仲間だったんだ!」


そういいながら幹部を一人斬り捨てた。


幹部は誰ひとり欠けて欲しくなかった。


なのにまさかオレが幹部を殺すことになるとは・・・・




獅電「お前が大切にしたいのは『昨日の味方』か? 『今日の味方』であるあいつらを守るために、『今日の敵』を殺せ!」


確かに、過去は過去だ。こんな甘っちょろいことは言ってられない。




オレ「わかったよ!」


ひたすらに敵を斬りまくった。そう、敵だ。味方ではない。




幹部「ぐぁぁ!!」


五人ほど斬ったが、今斬ったのは比較的新入りの幹部だ。脅威になるような奴らじゃない。




 獅電の方を見ると、既に十人ほど斬り捨てていた。


やはり獅電は別次元か・・・・




オレ「雑魚は片付いたか」




獅電「本番はここからだ」


東二と見合いながら言う。




オレ「では東二は頼んだぞ!」


すぐさま獅電が東二に斬りかかるが、刀で守られたようだ。


オレも残りを相手するか・・・・




オレ「では好きにかかってこい!」




鎌田「そのような挑発には乗りませんよ」




オレ「は?」




鎌田「そもそも僕たちは久遠さんや獅電さんを殺すことが目的ではありません。目的は『宰川上午』ただ一人です」


だからといって、オレたちが宰川殿への攻撃を許すはずがない。




オレ「何が言いたいんだ?」




鎌田「つまり、宰川上午の場所を教えてもらえたら戦わずに済むんです」


鎌田もこんな畜生になっちまったか・・・・


大変な仕事も率先してこなし、誠実で責任感もあった。


何が鎌田を変えたのだろうか。




オレ「教えるはずがないだろ」




鎌田「そうですか・・では邪魔者を殺してから、ゆっくり時間をかけて宰川上午を探すとしましょう」


殺せるなら殺してみろ!!!




鎌田「行くぞお前ら!」


鎌田の声に合わせて神那、斬真が斬りかかる。




オレ「遅い遅い! そんな切り方でオレを殺せるものか!」


神那は優秀な女武士とはいえ所詮は女。限界があるだろう。




神那「はぁぁっ!」


神那の投石だ。オレは刀で防ぐことが出来るが、清次たちはこの石に当たると即死だろう。


神那の投石の術では当たった生物を一瞬で死に至らすことが出来るが、当たらなければ良いだけの話だ。




オレ「面倒だな・・お前から始末させてもらう」


全速力で神那の脚を斬った。放っておけば出血多量で死ぬだろう。




鎌田「クソが!!」


鎌田が怒り狂ってこっちに向かってくる。




オレ「怒りに任せて刀を振るうな。太刀筋が乱れておるぞ」


どんどん挑発して動きを単純化させよう。




鎌田「黙れ!!」


何度も鎌田が斬りかかるが、全て防げる程度だ。




・・・・ん?俺は何で反乱者と戦っているんだ?


別にオレも反乱者として勝利を収めれば、新しい軍となってもある程度の地位は確立できるはずだ。


何故ここまで命をかけて宰川殿を守ろうとしているんだ・・・・






      *




 東二は全く喋らない。戦っていてもずっと無言だ。


まあ良いが。瞬刀で俺が斬られることはない。


何度か斬ったことで、東二の体のあちこちから血が出ている。


それでも東二は声を出さない。出せないのか?


ふと久遠の方を見ると、戦わずに鎌田と話をしている。




俺「何をしているんだ久遠!」


声を出しても返事はない。まさか・・・・


嫌な予感がしたので、久遠のところへ走って向かった。


東二が追ってきているが、今はそれどころではない。




俺「久遠! 正気を取り戻せ!!」


叫んでも久遠は返事をせず鎌田の方を見ている。




俺「感情操作を使ったな・・・・外道め」




鎌田「あれ、獅電さんじゃないですか。まだ東二も倒せていないのにどうしたんですか?」




俺「東二よりも先に殺さなきゃいけないやつが居るみたいだ」


すぐに鎌田の片腕を斬った。おそらく鎌田を殺せば久遠への感情操作も解除できるだろう。




幹部「鎌田! 獅電にも感情操作を使って!!!」


鎌田の後ろにいる奴が言った。


自分で戦う度胸はないのか? 宰川軍幹部も落ちたものだな。




鎌田「よし、やってやる!」


俺にも感情操作を行ったようだ。だが残念だったな。今の俺に感情なんてない。




鎌田「よし! 獅電! 久遠! 宰川上午の場所を吐け!」


鎌田の口調が一気に強くなった。




久遠「知らない」




鎌田「はっ!?」


鎌田の顔から血の気が引いたのが見える。




俺「残念だったな。俺に感情操作は効かない。そして久遠は宰川殿の場所を本当に知らない。さあどうする?」




鎌田「畜生、使えねえクソ野郎が!!」


鎌田が久遠の顔を蹴った。




俺「久遠!!!!!」


久遠の方へ走り始めた瞬間、鎌田が久遠を斬り刻んだ。


気づいた瞬間鎌田の腕を両方切り落としたが、間に合わなかった・・・・




俺「鎌田ァァァ!!!」


一気に斬り刻んで内蔵を取り出し、刀で刺しておいた。


 


 すまん、久遠・・・・


甘かった。俺がもっと早く鎌田を斬っていればこうはならなかった。




俺「お前を『死』なんて甘っちょろいもんで終わらせる気はない。戦が終わるのを楽しみにしておけ」


そういった瞬間、東二がまた斬りかかる。




東二「くっ・・・・」


おそらく、東二の攻撃以外は食らっても大した痛手にはならない。




幹部「お待たせしました!」


また敵が横から入ってきた。


クソ・・次から次へと敵が出てきやがる。




斬真「久遠さんはもう死んでしまったようですね」


刀を握りしめて言った。




俺「斬真。刀の扱いもままならないお前に何が出来る?」


斬真は武士として未熟だ。そして何より積極性に欠けるので評価は低い。




斬真「見せてあげますよ」


すると、斬真は岩のような大剣を出した。


大きいだけか・・・・お粗末な術だ。




斬真「はぁっ!!!」


大剣を振るってくるが、速度はそこそこだ。重さが故に早くは動かせないだろう。


だが、まずいな・・東二と斬真を取り巻きに注意しながら殺すなど出来るのか?


いや、いくらなんでも無謀だ。まず取り巻きから処理しよう。




 悲鳴を上げながら敵が倒れていく。そう、敵だ。




俺「残るは二人・・・・」

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