十四話 隠し事
久遠「ここが豪の武士が暮らす町だな」
地図を見ながら言った。
豪の町は俺の故郷の北にあった。
雷煌「ちなみに、豪の武士は全員で何人ぐらい居るんですか?」
雷煌が首を傾げる。
獅電「六十人だ」
将英「まあ、十二人で統率するならちょうどいい人数か」
俺「多すぎても困るもんな」
久遠「では、手分けして声をかけるとしよう!」
華城「二人ずつで分かれよう。分け方は宿の部屋と同じだ」
ということは残った久遠さんと獅電さんが二人で回るのか。
全「はーい」
俺は了斎と家を回っていく。
*
アタシは華城と家を回る。アタシはあまり説明しないで済みそうね。
アタシ「あそこの家から回っていく?」
華城「うん」
う、うん!?華城ってそんな言葉遣いすんの・・・・?
二人きりだからなのかしら?
一つ目の家に来た。
アタシ「誰か居ますかー?」
戸を叩きながら言うと、小さな女の子が出てきた。
この子も豪なのかしら?
アタシ「今、豪の武士を集めてるんだけど、ちょっとお話いいかな?」
豪の少女「は、はい!」
素直な子。
家の奥から五人ほど出てきた。
アタシ「華城、説明してあげて」
華城「あ、ああ・・」
華城がたじたじになってる。女の子に弱いのかしら?今度聞いてみようかな。
同い年くらいに見えたので華城に任せた。
華城「君たちは全員、豪の武士であっているか?」
喋ると意外と普通なんだ・・・・
豪の少女「はい・・あなた達は誰ですか?」
華城「宰川軍幹部、華城と美月だ」
華城の声に力が入った。
豪の少女「幹部!? 用件は何ですか・・?」
女の子は怯えている様子だった。
華城「今、宰川軍の中で反乱が起こりそうになっている」
豪の少女「反乱?」
女の子が首を傾げた。
華城「そうだ。だから反乱者を鎮圧するために手を貸してほしいんだ」
豪の少女「もちろん、協力します!」
意外とすんなりね。
アタシ「ありがとう。では明日の朝、爲田城に来てもらえるかしら?」
豪の少女「分かりました!」
手を振って皆のもとを離れた。
この速度なら、夕暮れまでには全員を集められるかしら?
アタシ「次はあそこね」
近くの家を指さした。
華城「うん・・・・」
だからうんって何なの!?
*
剛斗「行こうぜ将英!!!!」
うるさい。
オレ「剛斗、歳下と話す時お前は何もしなくていい。ただでさえ巨漢二人なんだから、これ以上圧をかけてはいけない」
剛斗「ああ! わかったぞ将英!!!!」
本当にうるさい。
オレ「できるだけ人数の多いところから声をかけよう」
八人くらい集まっているところがあった。あそこから行こう。
オレ「君たち、ちょっといいか?」
豪の少年「あんたら誰だよ! 金ならやらねえぞ!」
まずい、生意気な子供か・・・・一番苦手だ。
オレ「オレたちは宰川軍の幹部だ。君たちに頼みがあって来た」
豪の少年「幹部? 俺たちは騙されねえよ!」
すると少年はそっぽを向いてしまった。
オレ「この紋章を見てくれ」
実は、幹部には特別な紋章が与えられる。これを見せることで幹部である証明ができる。
豪の少年「用事は何だよ」
少年は急に弱気になった。幹部って偉大だな。
オレ「実は、近々宰川軍の中で反乱が起こるんだ。さらに、反乱者の中には幹部の人もいるみたいでな」
豪の少年「そうなのか・・」
どんどん少年が勢いを失っていく。
オレ「だから、君たちに協力をして欲しい」
豪の少年「反乱を起こすのか?」
少年の言葉を聞いて剛斗が吹き出した。真面目にやれ!
オレ「そっちの協力じゃない。反乱を鎮めるために、だ」
豪の少年「面倒臭いから嫌だよ」
また生意気に戻った。剛斗が笑ったせいだろ・・
豪の少年「待ってください!」
別の男の子が言った。
オレ「どうした?」
豪の少年「反乱によって本当に宰川軍がひっくり返ったら、僕たちの生活も危ないですよね?」
お、こいつはわかってるな。
オレ「そうだ。君たちは今宰川殿に生かされている状況だからな。命を守る代わりに衣食住を保証してもらっている」
豪の少年「また貧乏な生活に戻るのは御免だ! 協力するよ!」
ぐいぐい来る・・
オレ「よし、決まりだ。明日の朝、爲田城前に集まれ」
豪の少年「はい! それでずっと気になっていたんですけど・・」
もう一人の少年が言った。
オレ「どうした?」
豪の少年「隣の方は喋ることができないんですか?」
まずい、幼いが故の純粋な質問だ。剛斗に喋らせたくないが・・・・どうする?
剛斗「オレは喋れるぜ!!!!!!」
やっちまった・・
豪の少年「ごめんなさい!!!」
家に走って戻っていってしまった。
オレ「剛斗・・・・」
剛斗「すまねえ将英!!」
本当に謝る気があるのこいつは・・
オレ「まあ、協力してくれるようだからいいだろう」
剛斗「そうだな!!!」
やっぱり剛斗に喋らせるのは危険だ。
次に行こう。
*
雷煌「どの家から回りますか?」
顔を見上げて言う。
妾「どこからでも変わらんじゃろ。とりあえずあそこの家じゃな」
雷煌「はい!」
正直、そろそろ敬語を辞めてほしいんじゃが・・慕ってくれているのは嬉しいんじゃが、距離感を感じる。まあそれを伝えても、『火蓮さんには恩があるのでできません!』と言われて終いなんじゃが。
妾「そこの童、話があるんじゃが」
少年が居たので話しかけた。
雷煌「火蓮さん、童はやめましょう」
妾「細かいな雷煌は・・これくらい良いじゃろう」
豪の武士「何だ?」
後ろから歳上の男が出てきた。まずい!
雷煌「僕たちは宰川軍の幹部です。豪の皆さんに頼みがあってきたんですが・・」
丁寧な説明を始める。
豪の武士「はあ? この餓鬼が幹部だと? 笑わせんな」
男はかなり不機嫌だ。
正直殴ってやりたかったんじゃが、怒りを押し殺した。
妾「この紋章を見ても同じことが言えるか?」
男は一歩下がった。
豪の武士「わ、悪かった。それで、頼みとは何だ?」
一気に引き下がった。土臭いのう。
雷煌「宰川軍で反乱が起こりそうなんです。豪の皆さんには反乱を鎮めるために協力していただきたいんですが・・・・」
雷煌が言った。
豪の武士「反乱を鎮める? そんなの幹部がしたらいいことだろ」
やっぱりクソ男じゃ。
妾「幹部にも反乱者が居るんじゃ」
豪の武士「幹部にも?」
妾「でなければお前らのような無能に声をかけておらんわ」
雷煌「火蓮さん、落ち着いてください」
間に入ってきて言った。
豪の武士「だが・・俺たちに利がないからな・・」
それでも宰川軍か・・?
妾「お前の子供を養えなくなるぞ?」
ここを攻めたら行けるはずじゃ。
豪の武士「何で子供がいると知っている」
男が焦り始めた。
妾「そこの子供、どう見てもお前の子供じゃろう。顔がそっくりじゃ」
豪の武士「わ、わかったよ・・どうしたらいいんだ?」
男がどんどん引き下がる。これは勝った。
妾「明日の朝、爲田城の前に来るんじゃ」
豪の武士「わかった。同居人にも伝えておくよ」
よし、終了じゃ。
妾「それはありがたい」
男の元を離れた。
雷煌「火蓮さん、ちょっと言い方がきついです!」
妾「妾を女と勘違いして強気に出るような腰抜けにはあれくらいが丁度いいんじゃ」
雷煌「揉め事は起こさないでくださいよ?」
髪をいじりながら言う。
妾「そこは心配するな。妾はそこの線引きはできておる」
雷煌「ならいいですけど・・」
*
幹部の威圧感で一発で言うことを聞かせてやる。
了斎「清次、お前は面倒事を起こす気がするから黙ってろよ」
え?今普通に悪口言われた?
俺「俺がいつまでも餓鬼だと思うなよ!」
了斎「だとしても、わしの方が円滑に話を進められる」
了斎は完全に一人で完結させるつもりのようだ。
俺「お前なぁ・・」
まあ仕方ない。日頃の行いか。
了斎「あそこの男たちに声をかけてみよう」
了斎が指さした方を見ると、大人が四人ほど固まっていたのでそっちに向かった。
俺「ちょっといいか?」
豪の武士「何だてめぇら?」
汚い男が言った。
まずい、もう殴りたくなってきた。
俺の心を読んだように了斎が俺の腕を掴んだ。我慢するか・・
了斎「わしらは宰川軍幹部。豪の武士に依頼があってきたんだが、よいか?」
落ち着いた口調で言った。
豪の武士「お前みたいなチビが幹部だと? 俺らを馬鹿にしてんのか?」
了斎がさらに強い力で俺の腕を握る。普通に苛立ってるじゃねえか!
了斎「そうか。では、この紋章に見覚えはないか?」
了斎が袴についている紋章をこれ見よがしに前へ押し出した。
豪の武士「兄貴、こいつら本当の幹部っすよ・・・・」
子分なのかこいつらは?
了斎「そろそろ話を聞く気になったか?」
すると、男は『あ、ああ・・』と食い下がった。
了斎「近々、宰川軍の中で反乱が起こりそうなのは知っているか?」
豪の武士「知らない」
男はようやく普通になった。
了斎「そうか。その反乱を鎮める手伝いをしてほしいんだ、なんせ、反乱者の中には幹部の者も居るらしいんだ」
俺「反乱を鎮める手伝いをしてくれたら、後々幹部になれる可能性も上がるぞ」
後付けで適当なことも言っておいた。
豪の武士「本当か!? もちろん協力する! 宰川殿を守るよ!!」
ちょろいなこいつらと言わんばかりに了斎が笑った。こいつ性格悪っ!
俺「では、明日の朝に爲田城の前まで来てくれ」
了斎は既に歩き始めていた。
豪の武士「任せてくれ。先程はすまなかった」
了斎「気にするな。だが、明日からは敬語を使うんだぞー」
了斎が振り返りながら言った。
男の元を離れたあと、了斎が笑いながら『あいつら、脳まで筋肉で出来てるみたいだな』と笑いながら言った。
俺「了斎、幹部の権力を振りかざしすぎだ」
了斎「反乱者と比べてみろ、これくらいでバチは当たらん」
そう言われるとそんな気もしてくる。
俺「皆はどんな調子だろうな?」
*
おいら「霧島、お前は華城と行動じゃなくていいのか?」
おいらよりも華城の方が話しやすいと思うんだけどな。
霧島「俺は別に誰とでもいい」
何と返せばいいんだろうか。
霧島「あの家に行くぞ」
霧島が指さした。
戸を叩くと、若い女が出てきた。忍のような格好をしているが、こいつはくのいちか?
豪の女「なにー?」
霧島「豪の武士で合っているか?」
ここに居るのは全員豪の武士だ。聞く必要あったか・・?
豪の女「まあ階級は豪だけど・・あたしは武士じゃないよ?」
やはりくのいちか。
霧島「まあいい。宰川軍幹部として頼みがあるんだが・・」
しれっと『幹部』と言った。
豪の女「枕営業ならお断りよ?」
霧島「枕営業!?」
動揺しすぎだ霧島・・思春期か?
おいら「そういう話をしに来た訳ではない。反乱についての話だ」
霧島が動揺しすぎているのでおいらが話すことにした。
豪の女「反乱を起こすつもりなの?」
そんなわけがあるか。
おいら「逆だ。反乱者を鎮める手伝いをしてもらいたい」
豪の女「反乱者は何人くらいいるの?」
女が首を傾げる。
おいら「詳しくはわかっていない。だが、幹部の二十人以上が反乱者ということは分かっている」
豪の女「本当に!? そりゃあ手伝うわよ・・あんたたちは反乱者じゃないのね?」
くないで顔を指してくる。怖いな・・・・
おいら「勿論だ。同居人はいるか?」
豪の女「豪の武士は数人で共同生活するのよ」
飛び級といった感じで幹部になったおいらたちは知らなかった。
まあ、おいらたちは幹部になっても共同生活の予定なのだが・・・・
おいら「では、同居人にも伝えておいてくれ」
女は気だるそうに『はーい』といった。
おいら「明日の朝、爲田城前に来てくれ」
豪の女「爲田城の場所、あたし知らないんだけど」
知らないでいる方が難しいだろとは思ったが、教えない訳にはいかない。
霧島「この地図をやる。この町に点を打ったから分かるだろ」
霧島、意外と気が使えるんだな。
豪の女「ありがとう! てか、あんた可愛い顔してんね」
女がそう言うと、霧島が霧を出してどこかに行ってしまった。
豪の女「あれ? どこに行ったの?」
女が首を傾げる。
おいら「すまんな。あいつは恥ずかしがり屋なんだ」
適当なことを言っておいた。
おいら「じゃあ、また明日」
*
通行人「え、あの人って幹部の人じゃない?」
通行人「絶対そうだよ! 何でこんなところにいるんだろう?」
声が聞こえてくる。流石に知られてるか。
オレ「子供の相手は苦手だから、大人を探そう」
獅電が無言で頷いた。
オレ「あの家に行ってみるか」
少し大きい家があったので行くことにした。
オレ「誰か居るかー?」
戸を叩くと、オレよりも歳上の男が出てきた。
獅電「だいぶ老けているな」
オレ「獅電、失礼なことを言うな」
豪の武士「はは、そんで、何の用だい?」
意外と軽い人だった。
獅電「宰川軍内で近々反乱が起こる。鎮圧の手伝いをして欲しい。明日の朝に爲田城前に来てくれ」
獅電が淡々と説明する。
オレ「獅電、手短に済ませ過ぎだ」
豪の武士「いや、大体は伝わった。君たちは幹部だよな?」
オレ「そうだ。敬語を使うんだぞ」
豪の武士「えっ・・すみません」
男は驚いた表情で言った。
オレ「冗談だ、自由にしろ。同居人にもこの話は伝えておいてくれるか?」
豪の武士「わかった。では明日」
男が戸を閉めた。
獅電「変な人だな」
獅電が間抜け面で言った。
オレ「急に老けてると言い出すお前のほうが変だよ・・」
*
我「夕暮れ時だ。集合場所まで行こう」
ある程度家を回れたんじゃないだろうか?
美月「そうね。大体の人には伝わったかしら?」
我「伝わっているだろう」
美月「まあこれだけいれば、幹部以外の反乱者は相手にならないだろうね」
美月は結構楽観的だ。
集合場所には既に皆が集まっていた。
将英「遅いぞー」
我「人は集まったか?」
雷煌「ほぼ全員に行き渡ったと思います。伝わっていない人にも今日中に話は回っていくんじゃないですかね」
火蓮にちょっかいをかけられながら言った。
久遠「よし! 準備は万端だな。あとはあいつらの暮らす場所をどうするかだ」
翔斗「六十人が暮らす場所となると、やはり城以外思いつかんな」
久遠「宰川殿に頼んでおくよ。その時に反乱が起こることも伝えておく」
久遠殿ならば宰川殿にも信頼されているだろうから大丈夫だろう。
清次「大丈夫なのか?」
久遠「宰川殿にも早めに伝えておいたほうがいいだろ? 明日までにオレと獅電で話をつけておくからさ」
さすが久遠殿だ。獅電殿はずっと無言だが・・
まあ、元々そういう人というのは知っていた。冷静沈着という言葉が似合うな。
我「それはありがたい。宰川殿が許可してくれたら反乱者の幹部も何も言えないな」
久遠「何か言ってきた場合は獅電に刀を抜いてもらおう」
久遠さんの発言を聞いて雷煌が動揺する。
雷煌「き、斬るんですか???」
久遠「斬りはしない。獅電が刀を抜くだけで十分な抑止力になるよ」
まあ、最強の武士だしな。
雷煌「確かにそうですね・・」
久遠「よし、反乱が起こるまでの動き方はそれで決まりだ。お前たちは直接宿に戻っていいぞ。オレと獅電は城に行くよ」
久遠さんはいつも行動が早い。
これで、反乱者を相手する準備ができた。
我らなら確実に反乱を鎮めることができる。
誰も予想していない『助っ人』も用意しているしな。
まあ、それは反乱が始まってからのお楽しみだ。
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