十三話 武士と術師

 昨夜、華城から衝撃的な話を聞いた。


正直思うように寝られなかった。幹部としての幸せな暮らしが待っていると思いきや、反乱の可能性があるだと?心が休まらなすぎる・・・・




俺「起きろー了斎」




了斎「んん・・・・」


唸っている。




俺「今日は初めて獅電殿と会えるんだぞ。無礼のないようにしようぜ」




了斎「んーん・・・・」


また唸る。




剛斗「朝飯だ朝飯!!!!!」


剛斗が戸を開けて叫んだ。




俺・了斎「うぁぁぁ!」


あまりの声の大きさに了斎も飛び起きた。




俺「行こう」




了斎「んー」


いつまで唸ってるんだよ・・




将英「今日は出発が早いぞー」


身支度をしながら言った。


俺たちより先に朝飯を食べていたらしい。




華城「これ美味いな」


箸で飯をつつきながら言った。




美月「あれ、華城はもう機嫌が直ったのね」




華城「何のことだ?」


華城は昨日のことをもう気にしていないようだ。


余計なことを言うなよ美月・・・・




俺「候補生の募集という名目で・・という話だったよな。実際に宿舎は回るのか?」




華城「そんなことはしない。どこかで話すだけだ」




美月「あ、そうなの? 他の幹部にはどう説明するの?」


美月が首を傾げる。




華城「そこは久遠殿に任せてある」


食べ物を飲み込んでいった。




俺「ならば安心だな。というか、久遠さんの立ち位置はどのようなものなんだろう?」


俺たちを宰川殿に直接紹介したりと、普通の幹部とは違うところが多い。




将英「まとめ役という感じだが・・細かくは分からんな」




了斎「戦闘もかなり強いから慕われているのも納得だな」


確かに義和ををほぼ一人で倒したんだもんな・・・・




了斎「結城さんがお母さんだしな、清次!」


落ち着け俺、こいつを殴るな。我慢だ我慢。




全「ごちそうさまでした」




将英「すぐ着替えて出発するぞー」




霧島「久遠さんたちは城か?」


立ち上がりながら言った。




華城「ああ。移動はまた将英に任せるぞ」




了斎「お、清次今日は臭くないな」


部屋に戻ってきて早々何なんだ・・




俺「昨日お前のおかげで着替えられたからな」




了斎「別にわしのおかげではないだろ」


少し恥ずかしそうに了斎が笑った。




俺「もう玄関で待っていようぜ」


玄関に行くと、既に雷煌が座っていた。




俺「可愛いな、雷煌」


確かにちょこんと座っていて可愛い。




了斎「聞こえてるかもしれんぞ」


了斎に注意された。


雷煌は『可愛い』と言われることを嫌う。




雷煌「やめてください」


怒った顔で雷煌が言った。


やっぱり聞こえてたか。




俺「ごめんごめん、皆はまだか?」




雷煌「将英さんは用を足してます」


雷煌が便所を指さした。




了斎「将英って、でかいうんこしそうだよな」




俺「最低だよお前は」




 しばらく待ち、皆が揃った。




霧島「じゃあ、将英よろしく」


風に乗って城まで向かった。




霧島「お、あそこに久遠さんが居るな」




俺「本当だ! ということは隣りにいるのが・・」




華城「獅電殿だな」


あれが獅電さんか・・・・




了斎「思っているよりも細身だな」




華城「獅電殿は力ではなく速さが強みだからな」


華城はそう言うが、俺は知っている。


力もどうせ桁違いに強いんだ。




翔斗「剛斗とは真逆だな」


まあ、そこは個性だな。




 久遠さんの所まで来た。




俺「久遠さんおはよー」




久遠「お、来たか。こちらが獅電だ」


獅電さんはあまりこちらに興味がなさそうだった。




久遠「昨日皆のことは獅電に紹介しておいたから安心して」


流石久遠さんだ。


近くに部屋を貸してくれる人が居たらしいので、その家に向かった。




華城「幹部内の反乱者は調査したか?」




久遠「ああ。非常に申し上げにくいんだが・・・・」


久遠さんが下を向く。


まさか、反乱者の方が多かったのか・・?




久遠「オレと獅電以外反乱者だ」




全「え!?」




華城「幹部を二十人以上相手にすることになるかもしれんな・・・・」




了斎「これはいわゆる『詰み』ってやつか?」


了斎が頭を抱える。




久遠「そう慌てるな。獅電が居る」


そう言われても獅電さんは喋らない。




俺「獅電さん、幹部の要注意人物は誰ですか?」


一応獅電さんには敬語を使うようにした。




獅電「東二だ。あいつとは戦うな。俺が相手をする」


初めて口を開いた。




了斎「東二さんはどんな術を使うんですか?」




獅電「瞬刀だ。目に見えないほどの速さで斬撃を放つ」




霧島「そうなのか・・じゃあ俺たちじゃすぐ殺されちまうのか?」


敬語を使わないのか霧島は・・




久遠「でも、東二の瞬刀よりも獅電の刀の方が数段速いんだ」


自慢げに言った。




了斎「え? 獅電さんは術を使えないんですよね?」


『術を使えたほうが優れている』という固定観念から来る質問だ。




久遠「使えない。まあ結局、術を使ったところで『武』を極めた男には勝てないってことさ」


そんなに獅電さんはすごい人だったのか・・・・




翔斗「術を使えば簡単に強くなれるが、術のみの強さでは限界があるってことか」




久遠「そうだな。オレたちはそういう人間を『術師』と呼んでるよ」




俺「どういうことだ? 武士と術師は別物だろ」




久遠「術に頼っているだけでは『武士』とは呼べないということさ」




霧島「確かにそういう奴も居るな」


霧島は心当たりがあるようだ。




久遠「まあ、君たちは既に術師ではなくなっている。蔵兵衛と義和を倒せているからね」


久遠さんはそう言うが、義和を倒したのはほとんど久遠さんの力なんだよ・・・・




美月「そんな事はいいのよ! 本当に二十人以上の幹部と戦うのかって話よ!」




久遠「まあ、そうなるだろうな。だからオレたちに出来ることは入念に戦略を練ることだけだよ」




将英「宰川軍の兵を集めたらいいんじゃないか?」


確かに他の地方にもいる兵を集めたら反乱者なんて相手にならない気がする。




久遠「いや、おそらく並大抵の武士は幹部に瞬殺される。居ないほうがマシだ」


多勢に無勢というのはあくまで個人の力の差が少ない時か。




華城「真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方であるってやつか」




でも、宰川軍には他にも階級がある。幹部の一個下、『豪』か。




俺「では、高い階級の武士のみを集めたらいいんじゃないか? 慎、いわゆる幹部の一個下の『豪』の階級の武士のみを集めるんだ」




久遠「確かに・・その階級の武士であれば少なくとも無能な者はいないな!」


同意してくれた。




華城「獅電殿、どうだ?」




獅電「いいだろう。だがそいつらが反乱者でないかはしっかりと調査する」




了斎「清次、珍しく鋭いじゃないか」


おちょくってきた。




俺「やめろ」




久遠「よし! 今すぐに豪の武士を集めるとしよう。話はそこからだ、いいな?」


立ち上がりながら言う。


善は急げだ。今すぐに集めよう。




全「了解!」


俺たちは家を出て豪の武士が暮らす町まで向かった。

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