十二話 部外者
なんとも言えない雰囲気の中、俺たちは歩いて宿まで戻った。その間、華城はうつむいたままだった。何か隠し事があるのだろうか。
宿主「お、今日も泊まっていくのかい?」
将英「はい。よろしくお願いします」
宿主はいつも朗らかだ。
武士になると、宰川軍領地内ではタダで食事や寝泊まりできて便利だ。
その代わり、住民を守ったり戦ったりする必要はあるけどな・・
宿主「夕飯が食べたくなったら食堂に来るんだよ」
今日の空室は五つあるようだった。戦で死んだ分、空きが増えたのだろうか?
火蓮「二人ずつじゃな。まあ今日は一番話しやすい人とでいいじゃろ」
雷煌の腕を掴んで言った。
一番話しやすい人。俺にとっては了斎だな。
華城「大事な話があるんだが」
細い声で言った。
まぁ、宿に来るまでの華城の様子から皆察していた。
俺「ああ。それは夕飯の後でいいか?」
流石に長くなりそうなので後にしておいた。
・・・・華城の様子がおかしい。
俺「了斎、どう思う?」
了斎「おかしいよな。急に稽古とか言い出すしな・・」
基本的に俺たちの行動方針は華城が考えているが、必ず華城は確定させる前に俺たちに確認を取る。ただ、稽古の話は誰にも言っていなかった。理由を聞いても先送りにするのも引っかかるところだ。
了斎「華城に色々と任せすぎたか・・一人で抱え込んでしまっているのかもしれんな」
不安そうに言った。
俺「確かに、俺たちは戦ってるだけだもんな」
了斎「その件はさておき、清次、お前は服が臭すぎる」
今言うことか!?
俺「え!?」
了斎「さっさとこの袴に着替えろ。何日同じやつを着てんだ?」
そんなに言うほど着てないが・・
俺「まだ四日だけだ」
了斎「お前なぁ・・孤児だった時とは違うんだぞ! 着替えられる服があるんだから毎日着替えろ」
袴を投げつけられた。
俺「変わっちまったな、了斎」
了斎「お前も変われ、清次!」
仕方ないので着替えた。自分の臭さに慣れてしまったのか、変化は感じなかった。
俺「よし。着替えたことだし、呼ばれるまで寝転がっていようぜ」
畳に直接寝転んだ。背中が痛い・・・・
霧島「清次ー、了斎ー。夕飯食べるぞー」
声が廊下から聞こえたので、食堂まで移動した。
俺「なんか今日の飯は随分気合が入ってるな」
霧島「戦勝記念だとよ」
翔斗「浮かれてるな・・」
翔斗がため息を吐いた。
雷煌「いいじゃないですか、凄く美味しいですよ」
美月「雷煌、食べながら喋るんじゃないの」
やはり美月は母親っぽい。
霧島「そういう美月も左手を使っていないな」
小言を言うな・・
翔斗「華城、食べないのか?」
華城「我は・・今日はいい」
やっぱり様子がおかしい。そこまで深刻なのか?
了斎「華城、もう全部言ってくれ。どんな内容だろうとわしらは受け入れる」
ついに了斎が言った。遠慮しないなと思ったが、時にはこういった人間も必要だろう。
華城「わかった」
覚悟を決めた表情で華城が言った。
華城「まず最初に言っておきたいのが、我らはもう少しで幹部でなくなる可能性がある」
全員が『何を言ってるんだこいつは』と思っただろう。
霧島「理解が出来ん」
それは俺らも同じだ。
華城「まぁ・・皆まずは食べろ。食べ終わったらそのままここで話す」
華城がそういった瞬間、俺たちは一気に飯をかきこんだ。
華城「順を追って話そう」
長くなりそうなので皆座り直した。
華城「まず、蔵兵衛の首を宰川殿の元へ持っていっただろ?」
了斎「華城が話しに行ったときだな」
俺「はなしろがはなしに・・」
小さい声で言ったんだが、了斎に殴られた。
俺「本当にごめん」
華城「そのとき、あの場にいたのは幹部と宰川殿のみだ。それ以外の階級の武士は戦場にいるはずだ」
将英「だからどうしたんだ?」
華城「我は前に出て話していたからわかったんだが、数人、幹部でない者が居た」
霧島「なんで幹部じゃないとわかったんだ?」
霧島の言う通りだ。
華城「その時は分からなかった。だが、今日全員の幹部の顔を見た。だが、あの時本部に居たものが数人いなくなっていた」
俺「幹部じゃないやつが本部に居たことがそんなにおかしいのか?」
事情があって来ている人も居るんじゃないか?と思った。
華城「居るだけならば問題はなかったんだが、もう一つ違和感がある部分が存在する。部外者の存在はそれと繋がってくるんだ」
雷煌「そういえば、あそこに居る幹部の人たちは紐を持っていましたね」
雷煌の言葉を聞いて、華城が指を鳴らす。
華城「その通りだ」
了斎「何でわかったんだ?」
紐なんて全く気づかなかった。
雷煌「僕も、『あの紐はなんだろう』と思っていたんです」
霧島「そんで、紐を持っているからどうした?」
霧島がどんどん先を促す。
華城「幹部が本部で紐を持っている。さらに部外者が戦わず本部に居座っていた。その理由は一つしか無いだろう」
翔斗「宰川殿の殺害か・・?」
翔斗の発言を受けて、また華城が指を鳴らす。
了斎「待て待て、何故そうなる?」
了斎は焦っている。
華城「よく考えろ。宰川殿は即時回復の術を扱う。ただし、不死身ではない」
確かに、じわじわとした攻撃の弱いというのは聞いていた。
華城「下剋上をしたいのであれば将軍を殺害するのが最も手っ取り早い。ただし、宰川殿は首を切られても死なない。だが拘束は出来るだろう?」
拘束してしまえば火で炙って殺すことも出来る・・のか?それが反乱者の目的なのか?
霧島「結論を言え」
霧島は苛立っているようだった。
華城「つまり、近々宰川軍で反乱が起こる」
華城の一言で食堂が静寂に包まれる。
将英「なるほど。本部に居た奴らが首謀者って訳だな?」
華城「そうだ。そしてそれが稽古をつけるといった理由にも繋がってくる」
霧島「詳しく聞かせてくれ」
霧島も聞く気になったようだ。
華城「幹部の仕事の中に、『周辺地域の見回り』があったのは覚えているな?」
いち早く敵の侵入に気づくことや、悪巧みをしているものを探すのが目的だ。
将英「ああ。戦がない時はそれが主な仕事らしいな」
華城「だが、見回りをしていたら反乱に対応できない」
了斎「確かに、反乱をするなら絶対に爲田城を狙うだろうからな・・・・」
確かに城を狙ったら宰川殿以外も巻き添えにすることが出来る。
華城「そうだ。だから適当な理由付けをして我らは爲田城の近くに居なくてはならない」
机を軽く叩きながら言った。
打音が部屋に響き渡る。
将英「華城、首謀者が誰かは分かっているのか?」
華城「詳しくは判明していないが、大体の目星はついている」
美月「幹部の人に早く報告したほうが良いんじゃないの?」
美月の言うとおりだ。
華城「幹部に報告はしない」
と衝撃的な一言を放つ。
俺「どうしてだ!?」
火蓮「簡単じゃろ、幹部にも反乱者がおるかもしれんということじゃ」
華城「そういうことだ。だから幹部全体に伝えると、我らが先に殺されてしまう可能性もある」
反乱に気づかれたとなると、反乱者は間違いなく俺たちを潰しにかかるだろう。
霧島「俺らだけでやらなきゃいけねぇのかよ・・」
華城「いや、助っ人はいる」
華城の声が少し明るくなった。
翔斗「誰だ?」
華城「反乱者でないと確定している幹部の人間。久遠殿、そして獅電殿だ」
久遠さんが反乱者じゃないと分かってそっと胸をなでおろした。
だが、獅電というのは知らない名前だ。会議には居たんだろうけど・・・・
俺「獅電って誰だ?」
華城「宰川軍最強の武士だ」
華城が強調して言った。最強か・・・・皆、やたらとその言葉を好むよな。
俺「詳しく教えてくれ」
華城「久遠殿はもう知っているだろうから説明は割愛する。獅電殿は術こそ扱えないが、武士としての強さは異次元だ。我ら全員でかかっても即死だろうな」
流石に盛って話している気がする。
俺「そんなに!?」
華城「ああ。ただ、あの人は勝つためでなく明確に守るものがある時のみ刀を振るう。だから今回の戦でも獅電殿は出てこなかったんだ」
武士なのに、それは許されるのか・・?しかも幹部だよな?
翔斗「つまり、反乱が起こった時は宰川殿を守るために戦ってくれるんだな」
華城「そういうことだ。今のところはその二人しか確定していないが、本部に居なかった人で他にも反乱者でない幹部の人はいるだろう。反乱が起こるまでに出来るだけ助っ人を集めるとしよう」
助っ人に見せかけた諜報員が入ってきたら八方塞がりだがな。
火蓮「最悪、十二人で反乱者全員の相手をするということじゃな」
火蓮は意気消沈していた。
霧島「正直、俺はそれでも負ける気はしてない」
霧島が自信満々だった。
華城が「あまり甘く見るなよ。幹部の一部も敵に回すんだぞ」と忠告した。
了斎「そうだぞ霧島。それで仲間を失ってきてるんだ」
華城「これから数日間、『候補生の募集』という名目で久遠殿、獅電殿と話す時間がある。細かい話はまたそこでしよう」
華城が締めに入った。
了斎「そうだな。というか、こんなに大変なことを華城は一人で考えてたのか・・」
浮かない顔をして言った。
了斎「悪いな、わしらが馬鹿なばっかりに、一人で背負わせちまって」
華城「気にするな。我は皆との生活を守りたいだけだ」
華城が鼻をこすりながら言った。
美月「あら、たまには良いこと言うのね」
美月がまたからかったせいで華城が部屋まで走っていってしまった。
霧島「美月、謝れよー」
霧島がおちょくる。
美月「嫌よ! ほっとけば機嫌直してくれるわ」
それもそうだ。
俺「でも、華城あいつは本当に凄いな・・・・」
了斎「幹部でなくなるのは良いのか? 清次」
そういう了斎こそ良いのか?
俺「構わん。俺は皆と平和に暮らせるのであればなんでもいいさ」
まずい、段々と野望が無くなってきている。
俺も成長しちまったのか・・?
雷煌「あれ、真栄田軍を倒す話はどうなったんですか?」
雷煌はいつも痛いところを突いてくる。
俺「反乱の件が解決したらだ」
了斎「そうだな。真栄田軍まで倒したらやっと平和になるか」
了斎が遠い目をして言った。
将英「術師団の存在を忘れるな」
俺・了斎「もう嫌だこの時代!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます