十話 後悔と色恋

 俺たちの初陣は勝利となったが、同期を二人失ったことによる精神的苦痛は大きい。


正直、立ち直れるかどうか・・しばらく引きずることになりそうだ。


ただ、それは皆も同じなのだろう。それも分かっている。


大切な人を失うことの辛さや悔しさを思い出した。きっと、俺の両親が殺された時も俺は同じようなことを考えていたのだろう。湧き上がってくる感情は怒りでも憎しみでもなく後悔なんだ。


あの時俺がもっと早く家に帰っていれば。もっと早く敵の動きに気づいていれば。


もっと的確に指示を出せていたら、大切な人を守れたかもしれない。




美月「清次、起きたことはもう仕方ないのよ。いつまでたってもウジウジしてるのはあんたらしくないわ」


すべてを見透かしているかのように言った。




俺「ああ、わかってるけど・・」




美月「いいや、アンタはまだ分かってないね」


何なんだ?美月は何が言いたいんだ?




「あんた、すべてが自分の責任だと思ってるんじゃないの?」と美月が責めるような口調で言った。




俺「どういうことだ?」


そもそも、俺が幹部を最優先で殺すという話をしたのが始まりだ。責任は俺にある。




美月「清次は『あの時自分がもっとこうだったら・・』と考えていると思うの。でも、実際にはあんた一人が強かったところで何も変わっていないわ」




俺「それがなんだ?」


俺のちっぽけさを伝えたいだけなのか。




美月「あんたの考えてることは全部思い上がり。あんた一人では仲間もの運命も戦の結果も、時代も世界も変えられないの」




俺「結局お前は何が言いたい?」


散々な言われようだ。




美月「清次含めてアタシたちは結局一人の人間でしか無いの。一人で時代を変えるなんて不可能よね?」




俺「では皆で力を合わせれば・・」


不可能なことなんて無いはずだ。きっとこの腐った世を変えられる。




美月「あんたがしたいことは『時代を変える』ことなの?」




俺「はっ・・?」




 俺が元々したかったことってなんだったっけ・・


俺は・・家族で平和に暮らしたかった。


昼間はでかけてひたすら遊び、家に帰ると笑顔で母さんが『おかえり』と言ってくれる。


豪華ではないが、生きていけるだけの飯が食えた。


それで十分じゃないか・・・・・・


なのに今の俺がしてることは、自分のために人を殺しているだけ。


俺が本当にしたいのはそんなことじゃない!




俺「違う。俺はただ大切なものを守りたい。自分の大切なものも他人の大切なものも関係なく」




「何かを守ることは一人でもできるわよね」と美月が言った。




俺「俺がもっと強ければできるな」




美月「そう。強さってものは何かを守るためにあるものなの。気に入らない人間を殺して、思い通りの世の中にするためじゃないのよ。守るものが増えれば増えるほど、人は強くなれると思うわ」


ぐうの音も出なかった。俺は結局、自分のことしか考えていなかったんだな。


だが美月は違う。きっと美月は俺を守るためにこのことを教えてくれたのだろう。


俺にとって大切なものは了斎、同期、久遠さん、宰川殿とたくさんだ。




雷煌「僕は時代を変えたいとは思いません。だって皆さんと一緒にいるだけで十分すぎるくらいに幸せですし・・」


雷煌にとっての守りたいものはきっと俺たちだ。


守りたいもの、ねぇ・・・・




俺「なあ、剛斗の『守りたいもの』は何なんだ?」




剛斗「・・・・・・」


剛斗はいびきをかいている。




美月「寝てる・・剛斗」




俺「実際、蔵兵衛と義和は剛斗が居なければ倒せていなかったしな・・疲れているのもしょうがない」


義和のあの訳の分からない銃の乱射を耐えたのは大したものだ。


俺があの場に居たらどうなっていたことか、想像したくもないな。




雷煌「剛斗さんは一見何も考えていないように見えますが、自分が術を使えないことを知ったときに落胆せず、術なしでも術の使い手に渡り合える方法を自分の中で考えました。きっと、根は真面目な人なんだと思います」




俺「実際、剛斗は人のことをよく考えて行動してくれているからな。こいつの存在があるからこそ、俺たちはうまくやっていけてるのかもしれないな」


放っておくと危ない行動ばかりするが、俺たちが言うことはしっかりと聞いてくれるやつだ。




剛斗「褒めすぎだ!!」


剛斗が勢いよく飛び起きた。




俺「起きてたのかよ!」




雷煌「びっくりするからやめてください!」


萎えてそれ以降、俺たちは会話することなく寝床に入った。


三号室ではどんな会話をしたんだろう。




       *




霧島「了斎、清次は結城さんが好きというのは本当なのか?」


霧島はこの件に興味津々だった。




わし「本人に聞いてないから分からんが、結城さんと話すときだけやたらと素直になるんだよ」




火蓮「じゃが・・結城さんは既に所帯を持っているじゃろ?」


話が進みすぎている気がするけど・・




華城「待て待てお前ら、確定していないことをそんなに話してどうする?」




火蓮「華城は恋話の楽しみ方もわからないのか、可哀想なやつじゃ」


火蓮が煽ると、華城は布団に包まってしまった。




火蓮「ごめんよ~華城、一緒に話そ?」


女のような声で火蓮が言った。




わし「そんな声も出せるのか」




火蓮「妾は男と女どちらもいけるぞ」


一体どっちの意味で言ってるんだ・・




霧島「お前、楽しそうだな」


冷めた口調で言った、




将英「お前たち、早く寝ないで良いのか・・・・疲れているだろ」


将英はずっと寝転んでいる。




わし「疲れてるが・・」




将英「お前たちがうるさくて寝られないだろうが・・」


発言の割には、将英は楽しそうだ。




霧島「本当は将英も話したいんじゃないか?」


霧島が核心を突く。




わし「そうだ! 義和が死んだ時の話をしてくれよ」


わしは銃で撃たれてからの記憶が途切れ途切れだ。




火蓮「そうじゃ! 将英と剛斗と清次以外は倒れておったからな」




将英「まあいいだろう。お前たちが倒れたあと義和の体から大量の鉄砲が・・・・」


将英が二十分ほど話してくれた。




わし「そんな事があったんだな・・」




霧島「止めは清次か・・なんかあいつって、主人公みたいだな」




わし「清次は格好良いんだよな。生き様も戦い方もわしの憧れのような奴でさ」


そう、なんだかんだいってあいつは格好良い。わしには無いものを沢山持っている。




火蓮「憧れの人が一番近くにいるとは、良いことじゃないか?」




わし「そうかもしれんが・・あいつは時々歯止めが効かなくなるから大変だ」


わしがそばに居ないとすぐに死んでしまいそうな危うさがある。




将英「それは今までの宿舎での生活ででひしひしと感じた。まあ、そこも含めて格好良いんだろう」


将英もそう思ってたんだな・・・・


なんだかんだ、清次は好かれているようで安心だ。


『馴れ合いは嫌い』と言っていた清次が、皆との出会いで明確に変化していっている。


仲間が最優先と考えるような男ではなかったんだがな・・


まあ、変化しているのはわしも同じなのだろう。




華城「清次と了斎は初対面のときと随分印象が変わったな」




霧島「そりゃあ、親密になったら変わるだろうよ」




華城「親密になるとかではなく・・そもそもの人間性が変わっている気がするが」


華城は人この心が読めるのか?と少し怖くなった。




わし「それはわしも思うよ」




華城「優しくなった訳では無いが、素直になったというかまっすぐになったというか」


華城が頭を抱える。そんなに頭を悩ませるような議題ではないが・・・・




わし「単純に、皆のことが好きなんだと思うがな」


それ以外にないと思っている。




霧島「了斎も皆のことが好きなのか」


霧島が言った。




わし「まあな」


ここで否定したって意味がない。




火蓮「華城と違って素直じゃな」


「我は関係ない」と華城がそっぽを向いた。




 話が盛り上がりすぎた。もう日付が変わってしまいそうだった。




霧島「そろそろ俺たちも寝ようか」




火蓮「そうじゃな」

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