九話 緊急会議
こいつを殺せば幹部。こいつを殺せば幹部。こいつを殺せば幹部。
そう自分に言い聞かせ、刀を握りしめる。
同時に六人で走り出し、義和の相手をする。いくら義和といえど、六人で相手を一度でするのは困難だろう。
俺「いいぞ、これなら十分に時間を稼げる」
義和に全く攻撃の暇を与えていない!
義和「舐めんじゃねぇ!!」
義和が発砲するが、誰にも当たらない。いや、当てられないだろう。
予め霧島に霧を発生させてもらった。
了斎「こんな視界でどうやって弾を当てるんだ? 義和さんよぉ」
ここぞとばかりに了斎が煽る。
義和「畜生・・絶対に殺してやる」
了斎「お? じゃあ早く殺してくれよ!」
良いぞ了斎。怒って相手の判断能力が落ちたらもっと良いんだが・・
義和「くっそ・・・・」
そろそろ合図を出す時間だ。
俺が地割れを起こしたところで作戦を開始する。
ここで俺が小さな地割れしか起こせなければ一気に戦況が不利になってしまう。
意識を保てる限界までの力を使い、義和の行動範囲を制限する。
剛斗「オラァ!!!!」
あとは頼んだ、将英、雷煌、美月、剛斗・・・・
*
オレ「地割れだ、行くぞお前ら!!!」
ここで決める。
雷煌「よし!」
ここで絶対に義和の野郎を殺してやる・・!
美月「じゃあ行くわよ、雷煌!」
美月が宙を舞って義和のもとへ行く。光刀は普通の刀と段違いの切れ味があるからあいつの首を落とすことは容易だろう。
無論、それは雷煌の雷刀も同じだ。
剛斗「っしゃあ!! 骨を粉々にしてやるぜ!!」
剛斗も奮闘しているようだ。
オレ「よし、始めるか」
少し離れたところから義和に風刃を放ち始めた。いうなれば射撃開始だ、
義和「あぁ”! クソ!」
軽傷ではあるが、義和が血を流しているのが見えた。
これはいけるぞ。
そして、了斎が清次を木の影まで運んでいるのが見えた。清次は口から血を流している。
力を使いすぎたのだろう。無事だと良いんだが・・・・
一方的に攻撃をしていると、かなり義和の動きが鈍ってきているようだった。
致命傷になりうる攻撃は最低限避けているが、風刃を回避している余裕は無いようだ。
美月「あんたたち! せーのでいくわよ!!」
美月の掛け声とともに、九人で一気にとどめを刺しにいった。
全「あああああああああああああああああああ!!!」
義和「ぐぁあああああああああ!」
雄叫びと義和の悲鳴が交わる。
義和「くそぉおおおおおおおおおおおお!」
義和が叫ぶと、鼓膜が破れるような爆音が鳴り響いた。
周りを見ると、剛斗とオレ以外の全員が血を流して倒れている。
オレ「は!?」
義和を見ると、体のいたるところから鉄砲が出てきていた。まるで怪物だ。
剛斗「人間・・じゃねぇ・・!!」と膝から崩れ落ちる。
オレ「立て剛斗! きっと苦肉の策だ。義和の体力は残りわずか! 立ち上がれ!!」
剛斗が立ち上がった。
オレ・剛斗「クソ野郎がァァああああ!!」
*
なんだ!?
能に直接響くような爆音が聞こえた。
すぐに戦場を見ると、将英と剛斗以外が血を流して倒れていた。
俺「みんな!!!!」
だめだ、力を使いすぎたせいで声が出ない。
だが、このままではあの二人も・・・・
将英・剛斗「クソ野郎がァァああああ!」
の声が聞こえた。
まずい!無闇に斬りかかったら二人も殺されてしまうだけだ!
久遠「安心しろ、清次」
俺「はっ!?」
後ろを振り向くと、そこに居たのは久遠さんだった。
俺「なんでここに!?」
久遠「それを説明するのはそいつを倒したあとだ」
久遠さんが指を鳴らすと、義和のもとに雷が落ちた。
一度も見たことがない、大きな雷だった。
やっぱり幹部は強さの桁が違う・・・・
感心していると久遠さんに肩を叩かれた。
久遠「止めは君だよ、清次」
そう言われ、最後の力を振り絞って走った。
将英「清次!!」
将英の言葉も無視して俺は義和の首を斬った。
俺「オラァァァァァ!!!」
やったぞ!!義和を!!!!
と思って周りを見ると、血を流した仲間が居た。
俺「みんな・・・・」
もう皆戻ってこないのか・・?
皆と一緒に幹部になるんじゃなかったのかよ、俺。
何してんだよ・・・・
久遠「安心しろ清次、ここにはオレの母上がいる」と言いながら久遠さんが近寄ってきた。
久遠さんの言っている意味が分からない。
俺「・・でも、結城さんがどうにか出来るのか?」
「まあまあ」と久遠さんが微笑んだ。
結城さんが倒れている一人ひとりに手を当てていく。
手を当てている結城さんの横顔が、女神のようだった。
了斎「きよ・・つぐ・・・・」
了斎が起き上がった。
俺は夢でも見ているのか?
俺の目の前にいる了斎は本物なのか?
俺「了斎!! 生きているのか!? 体は大丈夫か!?」
了斎「ああ、不思議なくらいに元通りだ」
本当に良かった・・・・
雷煌「いてててて・・」
雷煌の声が聞こえた。
雷煌の方に目を向けると、先程まで倒れていた皆が起き上がっていた。
俺「皆!!!!!!」
全員泣きながら抱き合った。
将英「皆、生きててよかった・・」
久遠「よかったな、皆」
久遠さんが微笑んでいた。
俺「結城さんは何をしたんだ?」
人間に出来る芸当じゃない、と思った。
結城「私の術だよ。重度の負傷でも触れると治すことが出来る」
華城「雪村と英太は?」
期待のこもった口調で言った。
「雪村は既に心肺が停止していた。英太は体の一部しか見つからなかったよ」と久遠さんが言った。
翔斗「そうか・・二人とも・・・・」
翔斗が握っていた刀を放した。
久遠「オレがいなければ、全員死んでいたんだぞ?」
そうだよな・・
悪いのは間違いなく実力が足らなかった俺だ。
もっと俺が強ければ英太も雪村も・・・・!
了斎「久遠さん、結城さん、ありがとうございました!」
了斎が地面につくまで頭を下げた。
それを見て俺たちも頭を下げた。
久遠「気にするな、これからの『幹部』としての働きを礼として受け取っておくよ」
俺「幹部・・・・」
宰川殿が言っていたことを忘れていた。
倒したんだ。俺たちは幹部になるんだ。
久遠「そしてもう一つ君たちに連絡がある」
久遠さんが笑顔で言った。
華城「何だ?」
久遠「我らが『宰川軍』はこの戦に勝利した」
山河慶次が降伏したらしい。おそらく幹部が初日に殺されることは予想外だったのだろう。
腰抜けだな。
にしても、一日で終わる戦ってかなり珍しいよな・・宰川軍が強いのか?
久遠「連絡は以上だ。爲田城に戻ってこい」
そう言い残して久遠さんたちは走っていった。
火蓮「明日から妾たちも幹部じゃな・・」
遠い目をして言った。
霧島「嫌なのか?」
火蓮「いや、とても嬉しいことじゃ」
その言葉とは裏腹に、火蓮は寂しそうな顔をしていた。
やはり同期を二人失った心の傷は大きい。
雷煌「できれば、十二人揃って幹部になりなかったですね・・」
雷煌の言葉を聞いて、少ししんみりとした空気になった。
華城「あの・・幹部になっても、我らは一緒に暮らせるか?」
華城の発言を聞いて、全員が爆笑した。
霧島「お前、一緒に暮らしたいのかよ!?」
霧島が茶化すと、華城はそっぽを向いてしまった。
剛斗「寂しいのか!! 結局一番同期が好きなのは華城なんじゃねえか!!!」
剛斗が畳み掛ける。
将英「他の幹部の人に相談してみようか。『十人で一緒に暮らせる場所はあるか』と」
そう言うと、華城が反応した。
すぐに了斎が華城の顔を覗き込む。
霧島「おいこいつ、嬉しそうな顔してんぞ!!」
覗き込んで霧島がまた茶化す。
華城「うるさい! 別に嬉しくなど・・」
華城が口をもごもごさせた。
美月「そうなのか。では将英、幹部への相談は無しでいいわよ」
美月も参戦してきた・・・・
華城「待て! それは駄目だ!」
華城が焦って止めにくる。
将英「わかったわかった、話しておくよ」
将英は笑っていた。
了斎「まあわしも離れ離れになることは望んでおらん。できれば皆と一緒に暮らしたい」
了斎は遠回しに華城を肯定した。
長い付き合いではないが、思い出はある。
幹部になった途端疎遠になるのは俺も嫌だ。
雷煌「皆、そう思っていますよ」
嬉しそうに言った。
剛斗「そうだな!!!! 死ぬまでオレたちは一緒だろ!!」
剛斗が華城に手を回して言う。
将英「そんな臭い台詞を言うな。聞いてるこっちが恥ずかしい」
将英が呆れていた。剛斗はいつも将英に呆れられている気がする。
了斎「そろそろ城に戻ろうか。清次、義和の首は持ったか?」
俺「ああ、持ったよ。雪村は剛斗が抱えているな。英太は・・・・」
火蓮が後ろから遺体を取り出した。
火蓮「妾が見つかる限り体の部位を収集しておいた」
俺「早いな・・・・」
将英「では、戻ろう。馬も待ちわびているはずだ」
終わり良ければ全て良し。俺たちは戦に勝ったのだ。
もちろん代償も大きかったが。
雪村、英太。俺たちのことを見守っておいてくれよ。
二人が叶えられなかったことも、俺たちなら叶えられると思うんだ。
爲田城に戻ってきた。おそらく、このあと宰川殿に俺たちは呼ばれるだろう。
そこで幹部になり、暮らす場所の相談・・・・
「清次、ぼけっとするなよ」と霧島に背中を叩かれた。
俺「考え事をしてた」
「結城さんのことか?」と了斎がにやついて言う。
俺「ばか!」
了斎は最近結城さんのことばかり言ってくる。
華城「あそこに久遠さんが居る。話を聞いてみよう」
俺「久遠さーん」
「お、勝ち戦に仕立て上げた英雄さんじゃないか」と久遠さんが手を叩いて言った。
雷煌「からかうのは辞めてくださいよ」
雷煌が頬を膨らませた。
久遠「それで、どうしたんだ?」
華城「我らはこれからどうしたら良い?」
俺「えーっと、約束どおりに幹部になって・・・・」
「そこなんだが・・」と、久遠さんの話を遮って華城が言った。
十人で暮らしたいという話をした。久遠さんはかなり驚いていたが、最終的に『宰川殿に伝えておく』と言ってくれた。
久遠「じゃあ、皆また後で!」
急いで久遠さんは城に入っていった。
忙しいんだなー・・
霧島「華城、流石に個人で部屋は分けるよな?」
不安そうに聞いた。
「当然だ。ただ、広間は欲しい」と華城が言った。
火蓮「欲張りじゃな・・・・まあでも広間が欲しいのは妾もじゃ」
華城「だろ」
自慢げに言う。
了斎「そういえば、華城って雷煌の次に年少だよな・・甘えん坊なのも納得か」
俺「そう思うと、雷煌は華城よりも大人だな」
華城「我は甘えん坊ではない! 雷煌こそ雪村が死んだ時に火蓮に抱きついていただろうが」
華城が顔を真っ赤にして反論する。
翔斗「華城だって泣いてただろ」
翔斗がとどめを刺した。
華城「それはそうだが・・」
将英「埒が明かない。もうこの話は終わりだ。仲良くな」
将英が二人をなだめた。ここはやはり最年長だ。
雷煌「そういえば、皆さんの年齢をまだ知らないですね」
火蓮「なんで今更年齢発表会をするんじゃ・・」
火蓮は嫌そうにしていた。
雷煌「良いじゃないですか、戦勝を記念して」
無邪気。
「なんでもそれに繋げるなよ」と翔斗が呆れていた。
「まあ、正直気になる者も居るな。やろう」と了斎が言った。
『将英』十八歳。同期で最年長。
『火蓮』十五歳。俺と同い年。
『雷煌』十二歳。最年少。
『翔斗』十七歳。
『美月』十六歳。確かに歳上っぽい。
『華城』十三歳。本当に十三歳なのか?と疑いたくなるな・・・・まあ、年相応な面もあるが。
『剛斗』十七歳。
『霧島』十四歳。ずっと同い年だと思ってた。
ちなみに霧島と華城、火蓮と雷煌は同郷だそうだ。
てことは火蓮が暮らしてた里も襲撃されたんだな・・
火蓮は親も生きているらしいが。
「全然呼ばれないな・・」と霧島が遠くを見つめて言った。
了斎「もしかして、わしらが呼ばれるのは今日ではないんじゃないか?」
華城「おそらくそうだ。今は戦後処理で忙しいのだろう。明日ですらない可能性も十二分にある」
もっと早くそれを言ってほしかったんだけど!
俺「呼ばれる気満々でここに立ってる俺たちが馬鹿みたいじゃねえか!」
急に恥ずかしさが込み上げてきた。
火蓮「もう・・今日のところは宿に帰ろう」
翔斗「そうだな・・・・」
そこからしばらく歩いて、昨日と同じ宿に戻ってきた。
宿主「戦に勝ったらしいじゃないか、君たちは凄いね~」
宿主の男が笑顔で出迎えてくれた。
了斎「ありがとうございます。でも、今日の戦で同期が二人・・・・」
了斎はそれ以上続きを言わなかった。
宿主「そうか・・まあゆっくり休んでいきなさい」
宿主の顔が少し暗くなった。
将英「今日はどの部屋が開いてる?」
今日は三号室と五号室が空室らしい。
たった二部屋・・・・
一度皆で三号室へ集まった。
霧島「今から緊急会議をする」
深刻そうな表情で言った。
華城「ああ。これは、以後のわしらの信頼関係にも関わる大切な会議だ」
華城も神妙な面持ちだ。
霧島・華城・俺・了斎「そう、部屋割りだ」
今までで最も重要な会議が始まってしまったか。場の空気も一段と張り詰めている。
俺「どうする?」
華城「まず我から提案させて欲しい。剛斗と将英は絶対に部屋を分けるべきだ。こんな大男が二人も部屋に居たら寝ていられない」と華城が言った。
これは全く持ってその通りだ。
「おい待て!! オレの意見を聞いてないだろ華城!!」と剛斗が顔を真っ赤にして言った。
まるで梅干しだな。
俺「剛斗はなにか言いたいことがあるのか?」
剛斗「もちろんだとも!! オレと将英が同じ部屋でも、他を小さい者にしたら大丈夫だろ!!」
剛斗の理論はいつもめちゃくちゃだ。
「いや、オレは剛斗と別の部屋がいい」と将英がぼそっと言った。
「将英がそう言っているから、剛斗。いいな?」と霧島が圧をかける。
剛斗「なんでオレが駄目なんだ将英!!!」
将英「お前は暑苦しい。戦の疲れもお前が居たら癒やされない」
将英の言葉はかなり辛辣だ。
剛斗「ひ、ひどいな・・」
剛斗がようやく諦めた。そして少し傷ついてしまったかもしれない。
華城「その二人を分けることは決定。他に言いたいことがある者は?」
沈黙が続く。
霧島「では、今日はあまり話したことのない者を部屋に固めてみよう」
翔斗「それがいいな」
そう言うと、一気に賛成の空気になった。
最終的に、
五号室・・『剛斗』『清次』『雷煌』『翔斗』『美月』
三号室・・『将英』『火蓮』『了斎』『華城』『霧島』」
となった。
あまり話したことのない人が居ないせいか、あまりきれいに分けられなかったが問題ない。
将英「五号室の方が平和そうだな」
「というか、五号室のほうが広いんだろ? ずるいぞーお前ら」と霧島が言った。
俺「交換するか?」
小馬鹿にした口調で了斎に言ってやった。
了斎「いや、必要ない」
やはり了斎は強がりだ。
翔斗「じゃあ、今から飯を食って各部屋に戻るぞー」
俺たちは夕食を済ませ、部屋に戻った。
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