八話 弾丸
しばらく歩いて、宿にたどり着いた。
結城「今日泊まる宿はここだよ。明日も頑張ってね」
全「ありがとうございました!」
声を揃えて言った。
もちろん、こういう時に一番声が大きいのは剛斗である。
将英「明日の朝も早いから、早く宿に入って休もう」
俺「こんばんはー」
そう言いながら宿に入ると、宿主の男が出迎えてくれた。
宿主「よく来たね。四部屋空いてるから配分は自分たちで頼むよ」
華城「規則などはあるか?」
宿主「ああ。まず・・・・・・」
規則の説明がを聞いたあと、俺たちは食堂に向かった。
華城「部屋割りは夕飯を食べながら決めよう」
俺「そうだな~」
食堂に着き、食卓に並んだ料理を見た俺たちは歓喜した。
霧島「こう言っちゃ悪いが、宿舎の飯と比べ物にならないな・・」
確かに品数が凄く多い。
華城「我らは今まで質素なものしか食べていなかったんだな・・」
霧島「『叡智』があるのに知らなかったのか」
意地悪なことを言うもんだ。
華城「ち、違う! 食には疎いんだ」
火蓮「ふーん」
最近、華城がからかわれているのをよく見る。愛されている証拠か?
雪村「みんな席についてね」
雪村が声をかけ、みんなが座った。
全「いただきます」
しばらく質素な食事をしていたのもあって、より一層美味しく感じた。
了斎「美味いな・・」
ぼそっと言った。これは本当にうまいな・・・・
雷煌「あっ」
雷煌が口まで運んだ食べ物を落としてしまった。
了斎「やっぱり距離感は分かりづらいのか?」
雷煌「もう慣れたんですけど、たまにこういう事があるんです」
美月「ゆっくり食べていいのよ。誰にも取られないんだから」
最近、美月が母親のように見えることがある。
特に最年少の雷煌に対しての対応が『母親』そのものだ。
翔斗「部屋割りの話なんだが、四部屋と言っていたよな。であれば例の三人組で良いのではないか?」
霧島「異議なし」
了斎「わしも異議なしだ」
俺「俺も」
剛斗「オレも!!」
華城「みんな大丈夫そうだな。ただ、明日の作戦会議をしたいから一度我の部屋に集まってくれ」
全「了解!」
華城の部屋にやってきた。
明日の作戦会議で最も重要な事項は『幹部を狙い打ちするか』だ。
美月「アタシは反対だわ。別に幹部になるためにやってるわけじゃないし」
華城「我も反対だ。ここで焦って幹部を狙う必要はない上に、この中から死者が出るかもしれない」
美月と華城が言ってることが正しいのは分かってる。ただ、俺には諦められない理由がある。
俺「俺は幹部に早くなりたい」
華城「何故だ?」
怪訝そうな顔をして言う。
俺「真栄田軍に俺と了斎の両親の仇がいる可能性があるんだ。幹部になって発言力が増したら真栄田軍と戦いたい」
あくまで『可能性があるだけ』と言われたら何も言えないけど・・・・
美月「それは『幹部にならないと出来ないこと』なの?」
痛いところを突いてきた。
俺「そりゃあ、皆が反対なら無理にとは言えないが・・・・」
そこからしばらく口論は膠着状態になってしまった。
将英「オレは賛成だ」
将英が衝撃の一言を放った。何故もっと早く言わない!?
了斎「将英が!?」
将英「ああ。幹部になる利点は清次の言ったものだけじゃない」
了斎「他に何があるんだ?」
将英「頭のいい華城が幹部になったら、オレたちだけでなく宰川軍全体にいい影響をもたらすはずだ」
その通りだと思った。やはり人の上に立つ人間は賢くなくっちゃ。
華城「だが・・そんな早まる必要もないだろ?」
どちらの気持ちも分かるから辛いな・・ただ、俺も幹部になりたいんだ。
将英「では、三年間も普通の武士をやるか?」
華城「それもまた違うが・・・・」
俺「三年間も普通の武士として生き残れるかすら分からないだろ」
翔斗「話が堂々巡りだな。ここで多数決を取ろう」
華城「わかった。それで決まったものには文句を言わない」
華城も納得しているようだった。
翔斗「では、賛成の者は?」
俺を含む七人が手を挙げた。
翔斗「過半数だな。では明日は十二人で行動をする」
大丈夫。勝てる。大丈夫だ。
これがきっと、幹部への一番の近道だ。やってやる。
ただ、反対の者が五人も居た。多数決の欠点が出てしまっている。
大丈夫だ。俺が誰も死なせない。
将英「では皆部屋にもどれ。明日の朝も早いぞ」
俺たちは部屋に戻って寝た。
朝だ。川の流れる音、鳥のさえずり、馬のいななきが聞こえてくる。
戦のことを忘れたくなるほどに平和だ。
時代が違えば、ここに居る皆と幸せに暮らせていたのだろうか。
だが、この時代でなければこの出会いもなかった。なんて皮肉なのだろうか。
俺「起きろ了斎、朝飯だ」
了斎「あぁ・・」
食堂に行くと皆が待っていた。
将英「遅かったな。出発は十五分後だから急ぐんだぞ」
了斎「皆もう食べ終わったのか?」
情けない声で聞いた。
霧島「清次と了斎が起きるの遅いんだよ!」
了斎「ごめん・・」
了斎の声が小さくなった。やはり情けない。
俺「早く食べよう」
華城「出発の時間だ。皆準備はできているな?」
徒歩で城まで向かった。
俺「敵軍幹部に会うためには・・?」
華城が『敵軍本部に行くしか無い』と言った。危険すぎるという意見もあったが、幹部を倒すにはそれくらいの危険も伴う。仕方ない。
危険性よりも俺は幹部になることを重視した。
霧島「問題ないだろう。幹部は単独行動をしていることが多いから、少し遠くに引き付ければ有利に戦えると思うぞ」
霧島は意外と前向きだった。
華城「だが・・本当にやるのか?」
華城はやはり仲間を大切にしたいらしい。
俺も仲間を大切にしたいが、最優先は階級を上げることだ。
俺のやりたいことを邪魔はされたくない。
俺・了斎「ああ、やる」
兵が集まり、幹部と宰川殿の話を聞いたあと、俺たちは馬で本部まで向かっていった。
剛斗「本部は遠いのか?」
将英「山を超える必要があるからな。遠いよ」
華城「大丈夫なんだろうな・・?」
やはり、華城も不安なところはあるようだった。
俺「分からない。だがやらないという選択肢はもうない」
華城「仕方ないな・・」
渋々納得してくれた。
山河軍の本部が見えてきたので、馬を降りて歩いた。
本部には山河軍大将・山河慶次の周りに幹部が居座っていた。
これじゃ幹部と戦うことが出来ないじゃないか。
霧島「奇襲をかけても返り討ちに合うだけだな・・」
謎の男「お、君たちは幹部を探しているのかい?」
後ろから男の声が聞こえた。
誰だ!?まずい・・周囲の確認を疎かにしてしまったせいで背後を取られてしまった!
俺たちはそいつから少し距離を取った。
こいつは幹部だが、繭でも羽音でもないようだ。実際に見ても、その二人の特徴とは一致しない。
情報のない敵軍幹部家・・一番危険な存在だ。
謎の男「あそこにいるのが繭だよ」
男は本部の方を指さした。
俺「そんなことを教えて良いのか?」
謎の男「ああ。君たちはどうせここで死ぬからな”!」
男が引き金を引き、銃声が響き渡る。
雪村「あぁ”!」
雪村が腹から血を流していた。
翔斗「大丈夫か!」
将英が駆け寄る。
華城「全員伏せろ!」と叫んだ。また男が引き金を引いた。
霧島「あれは鉄砲だ」
俺「てっぽう?」
謎の男「お前たち、鉄砲も知らねぇのか!」
男は舐めた口調で言った。腹立つな・・・・
華城「鉄砲は、弓を超える遠距離武器だ。あの引き金を引き、発砲することが出来るんだ。その弾に当たると、あの通りだ・・」
詳しいな、と言おうとした時、華城が涙を流していることに気づいた、
すぐさま雪村の方を確認すると、血を流したまま倒れていた。
俺「雪村!!」
雷煌「清次さん、いけません!」
俺の方に飛び込んできた。
俺が元いたところに銃弾が飛んでいった。
謎の男「この餓鬼、片目しか無い癖してよく見えてるじゃねぇか・・」
男は塵を見るような目で雷煌を見て言った。
俺「ありがとう、雷煌」
とりあえず雪村のことは翔斗に任せ、俺は男と戦うことにした。
了斎「絶対にこいつを・・」
謎の男「こいつ呼ばわりは辞めて頂きたいな。俺は義和だ。山河軍『幹部』だよ」
俺「義和・・華城、なにか情報はないのか?」
華城「何もない! ただ一つ言えることは、絶対に銃弾に当たってはいけないということだ!」
下手に攻撃をすると銃で打たれてしまうので、下手に攻撃を仕掛けることが出来ない。
翔斗「雪村が・・・・死んだ」
ひたすら弾を避けていると、盾を持った翔斗がそう伝えに来た。
俺「将英の風刃術でどうにか・・」
将英「あれほど深い傷では治せない」
諦めた口調で言った。
了斎「なるほどな・・雪村をお前が・・」
珍しく本気で怒っているようだった。
了斎「わしが最大限あいつを弱らせる。わしが死んでもわしの責任だ。気にするな!」
俺が止める隙もなく了斎が向かっていった。
俺「そんな事言われてじっとしてられるわけ無いだろ」
俺も了斎へ着いていった。
了斎「清次、針を作れるか?」
まるで俺が来ることを分かっていたかのように指示をしてきた。
俺「任せろ」
義和の足元の土で数十本の針を作り出した。一本でも刺さってくれると良いんだが・・
義和「こんな土で俺を殺そうだなんて、見くびられたもんだ」
即座に義和は針を蹴って砕いた。
剛斗「死にたくない奴はしゃがんでろ!!!!!」
大声を出しながら剛斗が走ってきた。
何をする気なのか分からなかったが、とりあえず地面に這いつくばって待った。
剛斗「オラァ!!!」
剛斗が地面の針を引き抜き、ひたすら義和に投げた。
義和「クソ、あの馬鹿野郎!!」
義和に何本か当たっているようだった。
了斎「出血はしていないが、怯んではいるな」
剛斗「今だ霧島!」
剛斗の言葉を聞き、霧島が義和の背後に現れた。霧で身を隠していたようだ。
霧島「雪村を殺した落とし前をつけさせてもらう」
そう言って刀を抜いた。
義和「なっ!?」
五感操作を施したようだ。義和が苦しんでいる。
その間も剛斗は針を投げ続ける。
義和「くっそ!!」
義和が霧島の方を向いた瞬間、美月が斬りにかかった。
了斎「美しいな・・」
俺「そんなこと言っている場合じゃないだろ、お前は早くあいつを燃やせ!」
火蓮「清次、それは妾の役目じゃ」
火蓮もこっちに来ていた。
俺「何だこの連携は・・まさか華城が!?」
華城「当然だ」
気づいたら隣に華城が座っていた。
華城「お前たちは怒ってすぐに特攻すると分かっていた、だからそうなった場合の作戦も立てておいたんだ。指揮は我が取る。我の言う通りに動け」
俺「敵わんな・・・・」
人の心でも読んでいるのか?
いや、簡単に読めてしまうほど俺の思考は短絡的なのか?
華城「早く立ち上がれ、お前たちの役目はまだ残っているぞ」
了斎「止めだな。任せとけ」
了斎が立ちあがる。
華城は小さく笑っていた。
剛斗「針がなくなっちまった!! 清次! 新しく作ってくれ!」
俺「もう使い切ったのかよ・・」
意図していた使い方とは違うが、これが適応力というものなのだろう。
新しく百本ほどの針を剛斗の近くに生み出した。
火蓮「さあ、火葬の時間じゃ!」
火蓮がとてつもなく大きな彩色炎を義和のもとに放った。
義和「畜生!!!」
かなり効いているようだった。
華城「清次、了斎、将英、雷煌、英太! 斬れ!!」
俺・了斎・将英「おう!」
英太・雷煌「よし!」
華城の指示に合わせて五人で飛びかかり、義和の体を狙った。
五人「はぁぁぁぁぁ!」
皆が雄叫びを上げながら斬りかかる。
行ける!!と思った瞬間、視界が一気に悪くなった。
俺「な、なんだ?」
離れたところにいる義和のもとで爆発が起こっていた。
俺たちは何でここにいるんだ・・?
霧島「皆が斬りかかる瞬間、義和が爆弾を取り出すのが見えた。気づいてすぐに瞬間移動させたが、英太が爆発に巻き込まれてしまった」
霧島が淡々と説明する。
俺「なんで英太だけ? 全員を瞬間移動させたんじゃないのか?」
霧島「英太だけ斬りかかるのが遅かったようで、霧の範囲に英太だけ入れていなかったんだ」
将英「まだ生きているかもしれない」
将英が走っていった。
華城「我もまだ動ける。皆は少し休んでいろ」
華城も戦場に向かった。
了斎「あの二人が行くのは珍しいな・・」
華城が戦場に向かうのは少し心配だ。
そして、翔斗が俺たちのもとまで歩いてきた。
俺「雪村はどうだ?」
翔斗「先程、息を引き取った」
了斎「やっぱり助からなかったか・・・・」
雷煌「雪村さん・・」
雷煌が泣いていた。
火蓮が雷煌を抱きかかえる。
華城の方を見ていると、辺りの一帯に銃声が鳴り響いた
霧島「何だ今の銃声は?」
火蓮「華城が義和の銃を空に向けて撃った。弾切れを起こすためじゃな」
やはり華城は戦い方が上手いな。
俺「あいつはなんでそんなことを思いつく・・」
雷煌「僕もいつもまでもこうしてちゃいられません!」
涙を拭いてはらい、雷煌が高速移動で義和のもとへ移動した。
翔斗が「雷煌、無茶するなよ・・・・」と呟いた。
俺「将英!!! 英太が生きていたら刀を振ってくれ!!!!」
将英が刀を振ることはなかった。
美月「もうこれ以上、仲間が死ぬところは見たくないわ」
美月も宙を舞って戦闘に向かった。
俺「剛斗、お前の力で銃は破壊できそうか?」
剛斗「オレに破壊できないものなんてねぇ!!!」
そう言って剛斗が義和の方へ走っていった。
俺「頼んだぞ、剛斗」
残ったのは俺と了斎、翔斗、火蓮、霧島の五人だ。
了斎「どうする?」
霧島「危ない時に助けに行くぞ」
もうその頃には手遅れな気がするんだが・・・・
*
雪村が死んだ。英太は体がバラバラだ。
我の仲間が二人死んだ。
この男に殺された。
華城「死ね」
何度も斬るが、力が足りず切り落とせない。
将英「華城、無理をするな!」
将英が何度もそう言う。すまないが、今だけは無理をさせてくれ。
剛斗「待たせたなお前ら!! もう鉄砲を怖がる必要はないぜ!!!」
剛斗が走ってきた。
すぐさま義和から鉄砲を奪い、握り潰した。
義和「この野郎!!!」
剛斗が蹴り飛ばされた。だが、あいつの最大の武器である鉄砲を潰してしまったのであればもう普通の武士と変わらない。
将英「よし、獲れる!」
将英が風刃を何度も放つが、義和はびくともしない。
我「何故だ!?」
よく見ると、義和はまだ鉄砲を持っていた。
将英「潰したんじゃなかったのか!!」
義和「はは、君は俺の銃を潰してくれたよ。でも、何故俺が銃を一丁しか持っていないと思った?」
クソ、本体を殺すしか無いか・・
将英が風刃を飛ばし続けるが、銃弾で相殺されてしまっている。
我「体力の無駄遣いだ将英。一旦止めろ」
だが・・これ以上我らに何が出来るんだ?
普通の刀で接近したらすぐに撃たれてしまう。かといって風刃や地割れが通用するわけではない。
爆弾を隠し持っていた以上、炎を放つのは自殺行為。
発砲の隙を与えないようにするしか・・
我は笛を鳴らした。これは、清次たちも集めるためだ。
清次たちが走ってきたので、最後の作戦を話す。
我「翔斗、盾で銃弾を防いでおいてくれ」
翔斗が盾を出した。
我「ここで最後の作戦を話す。しっかりと聞いておいてくれ」
清次「最後とは?」
それくらい分かるだろ。
我「この作戦で倒せなかった場合は、死だ」
了斎「最終手段ってわけか・・」
我「あいつは鉄砲を扱う。しかも普通の武士が使っている火縄銃ではなく連射可能の小型のものだ。あんなものは存在しない。つまり術で生み出されたものなのだろう。だが、全方向から一気に斬りかかると流石に全員を撃ち落とすことは出来ないだろう。そこでだ」
将英「誰かを囮にするのか?」
我「そんな事はしない。まずあの銃に対抗できる力は、剛斗の『力』、雷煌の『高速移動・雷刀』、そして美月の『月華流』、将英の『風刃』しか無いと言っていいだろう。
そこでだ。まず、対抗できる力のない六人で全力で義和の気を引くぞ。そこで俺たちは倒すことを考えなくて良い。時間を稼ぎ、隙を作り出すのが目的だ。そうしたら将英の風刃を銃で捌く事はできなくなるだろう?
そこで四人に一気に討ち取ってもらう。美月は宙を舞えるから銃弾が当たることはまずないだろう。更に雷煌は銃弾よりも早く動けるから問題ない。将英は風刃で相殺できる。剛斗は筋肉のお陰で銃が当たろうと死には至らない。
その四人で総攻撃をしてもらえたら義和であろうと倒せるはずだ」
長い説明になってしまったが・・伝わっただろうか。
将英「わかった。お前ら行くぞ!」
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