七話 豪
椿さんの遺体と蔵兵衛の首を抱えて本部へ走る。
途中で俺たちを狙うものもいたが、皆蔵兵衛の首を見て逃げ出した。
俺「椿さん、死んじまったな・・・・」
宰川軍にとって間違いなく大きな打撃だ。
了斎「死んでしまった人はもう帰ってこない。わしらの両親のようにな」
俺「ああ。この時代、失うものの方がよっぽど多いからな」
将英「オレたちが椿さんに代わる戦力になるのが、せめてもの恩返しだ」
将英はやはり男前だ。見習いたい。
翔斗「本部で話を済ませたらまた戦場に戻るぞ」
本部にたどり着いた。本部には宰川殿と幹部が数人いた。
俺「誰が報告する?」
華城「我が行こう」
そう言って華城が身だしなみを整えた。
気になったので髪の汚れも多少払っておいた。
華城「ありがとう」
華城は意外と素直に感謝と謝罪をする。
俺「華城、大将に敬語は使うなよ。幹部には使うべきだが」
経験を活かして助言しておいた。
華城はかなり肝が据わっているから、大将の前に出ても大丈夫だろう。
*
我「宰川殿、報告が二つある」
と言うと、宰川殿が身を乗り出した。
宰川「何だ?」
我「後ろにいる同期と我、そして椿殿で蔵兵衛を殺した」
後ろで清次たちが自慢げにしているのがわかる。
宰川「ほう、それは事実か?」
我「ここに首がある」
と言うと、翔斗が蔵兵衛の横に首を持ってきて置いた。
宰川「でかした! 敵軍幹部を一人倒したか・・お前らの今の階級は何だ? 相応の階級へ昇給しないとな」
我「候補生だから階級はない」
宰川「候補生にこんな才能の塊がいたのか・・・・よし、お前らは特例だ。試験を受けなくて良い。この場で吾輩が我軍の武士であると認めよう」
試験を受けなくて良いのはかなり気楽だ。
我「感謝する。そして、二つ目の報告なんだが・・・・」
宰川「椿が死んだ、か?」
我が言う前に宰川殿が呟いた。
我「なぜわかる?」
宰川「後ろの者が抱えているだろう」
椿殿ともなれば見ただけで分かるか。
我「これは我らの力不足が故の犠牲だ。椿殿は我らを守りながら戦ったため死んでしまった」
宰川「いや、椿はその程度で負ける者ではない」
我「どういうことだ?」
宰川「つまり、椿が死んだのはお前たちを守ったからではない。単に蔵兵衛の方が上手だったのだろう」
ここまで実力を信頼されている椿殿は流石だ。
一人で蔵兵衛を追い詰めていたからな・・
我「だが、椿殿は・・・・」
宰川「もうよい。椿の死にお前らが責任を感じる必要はない。椿に代わる戦力となれば良いだけの話だ」
かなりの重荷を背負ってしまったようだが、その方が進みがいがある。
我らなら問題はない。
宰川「戦場に戻れ。戦果を上げて帰るのが椿への恩返しだ」
我「感謝する、宰川殿」
器の大きい男だな、そりゃあ信頼されるわけだ。
*
俺たちはもう一度戦場に戻る。
霧島「班は先程と同じで良いか?」
華城「ああ。幹部を発見した際は変わらず笛を鳴らすように」
とは言っても、蔵兵衛との戦いに時間を使いすぎて夕暮れが近づいていた。
翔斗「一旦退く時間帯か?」
遠くを見ながら言った。
将英「他の人からの連絡を待とう」
了斎「わしは少しあそこにいる奴らを相手してくる」
と言って了斎が孤立している五人の武士の方へ走った。
俺「俺もついていく」
五人ほど固まっているのが見えたので、二人で走って向かった。
俺が着いてきたのには理由がある。
実は先程の戦いで密かに試していた。
俺「了斎、ちょっと見ててくれないか」
了斎「何だ? というか、何で清次も来たんだ」
敵の足元の土を突き上げ、針のようにした。
了斎「何をしたんだ!?」
満点の反応をしてくれた。
俺「ふふっ、地割れの派生だよ」
実は、これは地割れを起こすよりも体力を使わない。
了斎「そんなことが出来んのか・・・・」
俺「凄いだろ」
串刺しにされた敵は既に動かなくなり、針も赤に染まっていた。
了斎「というか、お前が全員殺しちまったせいでわしがやることがないぞ」
しまった。
俺「すまん、次に敵を見つけたらお前がやっていいぞ」
了斎「わかった。まぁ、あっさりだが殺せたな・・一旦みんなのところに戻るか」
俺「そうだな」
戻ってくると、みんなが冷めた目で俺たちを見てくる。
霧島「戦場は遊び場じゃないんだぞ」
怒られた。
俺「術の派生を試してたんだ」
雷煌「なにか出来たんですか?」
雷煌が目を輝かせる。
俺「それは明日のお楽しみだな」
雷煌「なんですかそれー」
可愛いな、雷煌。
華城「近くを通った武士に聞いたところ、まだ一時間ほど残っているようだ。もう一度分散して戦い続けよう」
俺「了解。戻る時間になったら笛を鳴らしてくれ」
翔斗「わかった。ではまた」
*
アタシ「蔵兵衛が死んだことはもう敵に伝わってるかしら?」
雷煌「いや、わからないです・・・・」
別に雷煌に聞いたわけじゃないんだけど・・・・本当に申し訳無さそうにしてる。
健気だなぁ、雷煌は。
アタシ「気にしないで」
どこを探しても敵が見つからない。
雷煌「宰川軍はやっぱり強いですね・・・・ほとんど殲滅してしまったのでしょうか」
アタシ「かもね、頼もしいわ」
周りを見てもほとんど宰川軍兵士だ。
雷煌「そうですね・・・・僕も早く強くなりたいな」
アタシ「アンタは今でも十分強いし頼もしいわよ」
翔斗「あまり雷煌を甘やかすなよ、美月」
アタシ「いいじゃないの。こんなに可愛い子なんだから」
雷煌が顔を赤らめた。
建物の裏に敵がいるのを見つけた。
アタシ「雷煌、試してみたいことがあるんだけど・・私の光刀と雷煌の雷刀を合わせたらどうなるのかしら?」
別にこれ以上切れ味が上がっても、普通の敵相手なら関係ないんだけど。
雷煌「出来るんですか?」
アタシ「それを試すのよ。とりあえず今、あなたの刀に術を使ってみたわ」
雷煌「雷刀にしてみます」
すると、刀が雷刀に変化した。
雷煌に試し切りをしてもらおう。
翔斗「危なかったらおいらを呼んでいいぞ。すぐに助ける」
雷煌が高速で武士の方へ向かっていった。
山河軍兵士「ぐぁぁ”!!」
武士の叫び声が聞こえた。もう全員殺してしまったらしい。
雷煌「ただいまー」
満面の笑みで雷煌が戻ってきた。
ただ、私たちの方を振り返った瞬間、雷煌は少し辛そうな表情をしてた。
やっぱりどれだけ武士としての覚悟ができていたとしても、人を殺すのは辛いわよね・・・・
アタシ「刀はどうだったかしら?」
雷煌「切れ味はあまり変わりませんでしたが、断面を見るとすごく綺麗に斬れていました!」
嬉しそうに言う。
翔斗「おそらくそれはお前の技術が向上しただけだ」
雷煌「えっ・・」
どうやら刀への強化は重複しないらしい。
基本的に後に付けたほうが優先されるのかしら?
翔斗「おいらの盾ももう少し実践で試したい。他の武士の元へ行ってもいいか?」
雷煌「もちろんです!」
他の武士が戦っているところへきた。
翔斗の『不屈の盾』が実際にどれほど耐えられるのか、たしかに気になるわ。
結構苦戦しているみたいね・・術を持っていないなら仕方ないかしら?
翔斗「行ってくるよ」
翔斗「大丈夫か?」
盾を持った翔斗が武士のもとに現れた。
宰川軍兵士「誰だ? 宰川軍か?」
武士が動揺している。
翔斗「ああ。苦戦しているようだったから補助に来た」
宰川軍兵士「そうか、感謝する。その盾は?」
翔斗「おいらの術だ。お主らを守る」
と言って翔斗が盾を構える。
山河軍兵士「いつまで喋ってんだよお前らは!!」
山河軍の敵が斬りかかってきたが、盾で完全に防がれているようだった。
宰川軍兵士「凄いなこの盾・・」見事に敵を跳ね返した翔斗を見て武士が言った。
翔斗「感心している場合じゃないだろう。さっさと敵を倒してくれ」
宰川軍兵士「すまん」
宰川軍の武士は人数で負けていたが、翔斗の援護によって倒せていた。
宰川軍兵士「ありがとう。助かったよ」
と武士がお辞儀をした。
ちゃんとした人ね・・
翔斗「気にするな」
宰川軍兵士「君の階級は?」
翔斗「今日候補生から武士に変わった者だ。階級は一番下だな」
宰川軍兵士「それって・・幹部を倒したやつか!?」
武士の口調が変わった。
翔斗「そうだな」
宰川軍兵士「凄いな!! 余裕だったのか!?」
武士がどんどん興奮してきた。
翔斗「余裕ではなかったよ。待っている仲間がいるからおいらはこれで」
宰川軍兵士「君の実力だったらもっと上の階級にも行けそうだな・・とにかく、今回はありがとう! 助かったよ」
翔斗が戻ってきた。
雷煌「盾はどうでしたか?」
翔斗「並の武士の攻撃は屁でもなかったな。術を耐えられるかが肝だ」
術ねぇ・・
アタシ「そうね・・アタシの刀で試す?」
雷煌「美月さん、それは危なすぎます」
と言って雷煌が両手を前に伸ばした。
アタシ「冗談よ。可愛いわね本当に」
雷煌「良いですってもう」
雷煌は可愛いと言われると怒る。
翔斗「そろそろ笛が鳴るんじゃないのか?」
翔斗が周りを観察した。
雷煌「休憩して待っていましょうか」
アタシ「そうね」
*
霧島「華城、実際お前の戦闘技術はどれほどのものなんだ?」
唐突に霧島が聞いてきた。
我は戦闘しなくても役に立てるのだが・・・・
我「並の武士と変わらない。我の役割は戦闘ではないからな」
霧島「でも、自分の身は自分で守れないとすぐに死んじまうぞ? 試しにあそこの奴らと戦ってみたらどうだ」
霧島はなぜそんな無茶ぶりをしてくるんだろう。我が死んで困らないのか?
我「四人ほどであれば大丈夫だと思うが・・」
火蓮「じゃあ行ってみるんじゃ。危なかったら妾が助けに行く」
我「仕方ないな・・」
なんでそんな我に戦わせたいのだろう。
敵がいるところへ来た。
山河軍兵士「単身で乗り込んでくるなんて、お前死にてえのか??」
典型的な噛ませ犬の発言だ。
我「黙れ」
怒って斬りかかってきた奴の足を斬った。
山河軍兵士「くっそ・・いてぇ!! 誰かそいつを!」
そいつが痛がっているうちに、他の全員を殺した。
我「もう助けは来ない。一緒にいた者は全員斬ったぞ」
敵の顔が一気に青ざめた。
我「今楽にしてやる。もうお前は苦しまなくて良い」
喉元を掻っ切り、血が吹き出た。
我「・・・・ごめんなさい」
宰川軍候補生『華城』、使用術『叡智』。
叡智には明確な力がないため厳密には使用術『無』だが、華城の自称する情報では叡智となっている。
しかし、叡智の名に恥じぬ知識と思考力を持っており、自分の脳を活かした役回りをしている。
極端に冷静で理性的だが感情に乏しい訳ではなく、心を開いている相手に対しては様々な表情を見せる。
早く霧島たちのところに戻ろう。
霧島「強いじゃねえか、華城」
我「敵の関節を注視して戦えば同格の相手には勝てる。次どう攻撃してくるかが丸わかりだ」
霧島「やっぱり、華城は強いな」
腹の立つ口調だ。
我「術持ちが何を言う」
霧島「術が使えなかったら俺は華城に敵わねぇよ。多分な」
霧島が謙遜する。
火蓮「妾は勝てそうじゃが」
我「我も同感だ。火蓮には勝てる気がしないな」
火蓮はとにかく身のこなしが上手い。
刀の扱いも勿論上手いが、最小限の動きで敵の攻撃を避けている。
霧島「そんなことより、そろそろ笛を鳴らしたほうが良いんじゃないか?」
我「そうだな。みんなが集まってくる頃にはちょうどいい時刻になるだろう」
笛を鳴らした。
我の、我らの初陣は勝利を収めることが出来そうだ。
まだ決着は着いていないが。
*
俺「そろそろ笛がなるんじゃないか?」
そう言った瞬間笛が鳴った。
了斎「お前凄っ」
了斎が目を輝かせる。
俺「いや、そんな事はいいんだよ。早く音の方へ向かおう」
音の出処まで来た。どうやら俺たちが最後だったらしい。
俺「遅れてすまんな、世間話に花が咲いちまってよ」
華城「お前は戦場を何だと思っている・・」
華城に呆れられてしまった。
雷煌「まあまあ、おそらく今回は勝ち戦ですし張り詰めないでいきましょう」
歳下になだめられてしまった。
俺「それで、撤退の合図は何だ?」
どうやら、雷鳴が二度聞こえたら撤退をするらしい。きっと久遠さんの気候操作を利用したものだろう。
そう話していると、空模様が怪しくなっていった。
霧島「そろそろか?」
霧島が呟いた瞬間、雷鳴が聞こえた。
将英「もう一発来たら走るぞ」
華城「ああ。全員馬は居るか?」
雷煌「すみません・・僕の馬がどこか行ってしまったみたいで」
申し訳無さそうに手を挙げて言った。
火蓮「妾の後ろに乗るんじゃ。しっかりつかまっておれ」
雷煌「はい!」
ここでもう一度雷鳴が聞こえた。
将英「きたな。皆走るぞ!」
全力で森の中を駆けていく。
華城「敵がいつ出てくるかわからない。警戒を怠るなよ」
あっという間に城まで戻ってきた。
了斎「結局敵は出てこなかったな・・帰る途中で敵軍幹部が現れる展開を期待していたんだが」
了斎が愚痴をこぼした。
そんな都合よく出てきてたまるか。
俺「というか・・明らかに兵数が減ってないか?」
華城「当然だろう、戦は人が死ぬものだ。敵も味方も」
俺「そうだが・・一日でここまでとは」
初の戦ではわからないことばかりだ。
宰川軍幹部「蔵兵衛を殺した『元候補生』は君たちか?」
なんだか偉そうな人に言われた。
了斎「そうだ。報酬ならいくらでも受け取ってやる」
了斎が真っ先に反応した。
宰川軍幹部「いや、報酬はまだなんだが・・」
武士が苦笑いで言った。
了斎「じゃあなんだ?」
宰川殿が直々に俺たちと話したいらしく、広間に行けと言われた。
ついに幹部になるのか・・?
十二人で大広間まで来た。そこには幹部と宰川殿がいた。
宰川「これで全員だな?」
雷煌「はい!」
雷煌が元気な返事をした。
宰川「良い返事だ。今から話すのは、蔵兵衛の件と、今後の君たちの待遇についてだ」
華城「我らもそのつもりで来ている」
宰川「よし。まず、蔵兵衛の件だ。『君たち十二人と椿で倒した』ということで間違いないな?」
英太「いえ、僕は何も寄与していません」
何余計なことを・・
宰川「ほう? 戦っていないということか?」
英太「いいえ、戦いましたが、僕は皆と比べて貧弱なので貢献していません」
翔斗「そんな馬鹿正直に言う必要ないだろ」
小さな声で言った。そのとおりである。
宰川「なるほど・・だが、蔵兵衛との戦いで生存したのは事実だ。君だけ昇級を取り消すことはしない」
やはり昇級は確定だった!!
俺たちは宰川殿を完全に無視して喜んだ。
久遠「お前ら、一旦落ち着け」
叱られた。
宰川「これからの君たちの階級は『豪』だ。」
俺・霧島「豪?」
宰川軍幹部「お前たち、まさか階級を把握していないのか?」
幹部に言われた。そんなの知ったこっちゃない。
霧島「候補生だったんだよ。当然だろ」
宰川軍幹部「すまん、教えよう。宰川軍には五つの階級がある。下から順に『呈』『冥』『館』『豪』『慎』だ。『呈』と『冥』は足軽とも呼ばれ、扱いもその程度のものになる。ちなみに『慎』が幹部だ」
俺たち、一気に幹部の手前まで来てしまったのか。
剛斗「もうすぐ幹部じゃねえか!!!!!」
久遠「落ち着け剛斗。幹部までの道のりはそう長くない。最低でも三年かかる」
俺「長すぎる。やめていいか?」
三年も生きていられる保証がどこにある?
了斎「馬鹿、清次」
了斎に頭を叩かれた。
宰川「待て。明日にもう一人の幹部の首を持ってきたら幹部としよう」
ん・・・・?長すぎると言ったのは俺だが、流石にその条件は甘すぎるんじゃないか?
華城「それで他の幹部は納得しているのか?」
華城が聞いてくれた。
幹部の人たちが静かに頷く。
華城「そうか。わかった」
ならば俺たちに言うことはない。
宰川「行ってよいぞ。明日の活躍も期待している」
宰川殿の話が終わった。
久遠「近くに宿がある。君たちはそこで泊まっていけ」
全「はい!」
宰川「案内は結城殿がして下さる」
了斎「良かったな、清次」
にやついて言う。
俺「はぁ!? なんでだよ!」
雷煌「え、清次って結城さんが・・」
雷煌まで言ってきた・・
俺「違うって言ってんだろ!!」
結城「はいはい、行きますよ」
結城さんが微笑んで言った。
城を出て、宿に向かって歩いた。
将英「もう、宿舎での生活も終わるんだな・・」
嬉しいような寂しいような・・・・
俺「俺と了斎は短かったな」
将英「結城殿、オレたちの宿舎に一度寄ってもらえないか? 管理人の者に礼が言いたい」
結城「いいですよ。たくさん話していらっしゃい」
将英「感謝する」
管理人に礼を言ったあと、俺たちは宿に向かった。
華城「今夜、明日の動き方について話し合おう」
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