六話 散りゆく花

 遠くに山河軍が見えてきた。




久遠「山河軍の上空を晴れにするぞ! 皆、総攻撃を開始しろ!」


宰川軍幹部『久遠』、使用術『気候操作』。


目に見える範囲内であれば自由に天候を変えることが出来る。


戦闘から指揮まで何でもこなす万能な武士で部下からの信頼も厚いが、自分の感情に振り回されやすく、同僚に注意されることも多い。


宰川を尊敬しているが故に厳しい意見を飛ばすことも多いが、宰川は久遠の正直さを気に入っている。




将英「では、先程言った班で別れて行くぞ」


その一言で俺たちは分散していった。


    


 林のそばを移動していると、十人ほどの武士が固まっているのが見えた。




俺「あいつらで術の慣らしといこうか」


実戦での試運転をしておきたい。




雪村「待って、清次! きっとあの子達は私達よりも歳下よ。十歳に満たない子もいるかもしれない」と止めに入ってきた。




俺「かといって見逃すのか?」


戦場でそんな甘ったれていて良いのか・・?




雪村「見逃すわけじゃないの。でも、最初に戦うのは大人の方が良いんじゃないかな」


意外と雪村は武士としての誇りを持っているようだ。


納得し、俺たちは大人を探し始めた。


あたりを見渡してみると、既に殆どの者が戦っており、暇そうにしてる奴はいなかった。




了斎「少し離れたところに行こう」




俺「そうだな・・・・はぁっ!!」


木の陰から急に敵が出てきやがった!


とにかく俺が最初に地割れを起こさないと・・・・


全身に力を入れ、なんとか地割れは起こせた。




俺「了斎! 火をつけろ!」




了斎「もうつけた! 一旦退け!」


思いの外大きな地割れを起こしてしまった。




雪村「大丈夫?」




俺「ああ、大丈夫だ」


木の近くで了斎が火を付けたからだろう、どんどん火が燃え移っていく。まあ、問題ないか。


そんなことを気にしている場合ではない!さっさと次の敵を探さないと。




     *




火蓮「霧島! こいつらを土で固めるんじゃ!」




俺「任せろ」


宰川軍候補生『霧島』、使用術『斑』。


主に霧を扱って戦う。霧の用途は隠密行動や瞬間移動など様々。


小柄な体で力は弱いが危機察知能力が飛び抜けて高く、敵の攻撃を食らうことはかなり少ない。


ひねくれた性格で言葉遣いも荒々しいが、常に周りに気を配り、危険な状況の味方を瞬時に助ける判断力を持っている。




 八人ほどの敵を全員土で固めた。さらに辺りに霧を発生させておいたからもう大丈夫だろう。


というか、山河軍の武士はこんなに弱いのか? この辺りでは宰川・真栄田に次ぐ強さを誇ると聞いていたんだが。一部が強いだけなのか?




火蓮「シメに火を付けておいたわ。もうこんがりと焼けてるじゃろ」


宰川軍候補生『火蓮』、使用術『彩炎術』。


様々な『色』をもつ炎を扱い、状況に合った炎を放つ。


しなやかな動きで体力を温存しながら敵の攻撃を避けることが出来る。


好きな人であればあるほどおちょくってしまう男子児童のような性格で、よく失礼な言動を注意されている。




華城「遊んでる場合じゃないぞ。火蓮も霧島も」と注意された。


それは俺も分かってるが、あまりにも敵が弱すぎる。手応えのあるやつは居ないのか?




俺「待て。あそこの土の裏に気配を感じる」


先程俺が固めた土の裏に居るらしい。やり逃した者か、別の敵が来たか。




火蓮「妾に任せるんじゃ。二人はここで待っておけ」


火蓮が土のもとまで走っていった。




華城「我らは陰から見守っておこう」




俺「案外仲間思いなんだな」


華城は何も答えない。




俺「照れんなよ」


華城が黙ってしまったので、俺達がいる場所にも霧を発生させておいた。


そして、案の定火蓮のもとに五人ほどの武士が現れた。


火蓮なら五人相手でもなんとかなるだろう。


火蓮は術を使わずとも十分に戦うことが出来る。俺が候補生になってから初めて刀を教えてくれたのは火蓮だからわかる。




 だが、一人手こずっているのが居る。大丈夫か!?


俺「まずい! あれは術の使い手だ!」


早速難敵か・・・・




華城「蔵兵衛・・・・まずい。あれは蔵兵衛だ」


長身で筋骨隆々・・確かに蔵兵衛の特徴と一致している。


ここで最高戦力のお出ましときたか・・だが、対策はしてある。




俺「華城、笛を鳴らせ」


そういった瞬間華城が笛を鳴らした。




俺「頼む・・・・みんな間に合ってくれよ」




華城「あいつらならきっと大丈夫だ」


だが、みんなが来るまで火蓮一人で持ちこたえるのは不可能だ。


俺は助太刀に向かった。


華城は皆が来るまで待機だ。


まず五感操作であいつの触覚をいじってやる。


痛みを感じさせてやればあいつだって・・




蔵兵衛「ふん、オイラの腕に蝿でも止まっているのかな?」と馬鹿にしてきやがった。


クソが・・・・


この肉体からも分かるが・・痛みへの耐性は半端じゃないな。


次は聴覚と嗅覚だ。


酷い耳鳴りを鳴らし、腐った魚の臭いを感じさせてやる。




蔵兵衛「うあっ!? 何だ・・・・」


流石に効いたか?




俺「今だ火蓮!」


火蓮が蔵兵衛を青の炎で凍らせようとしたが効いていない。


俺がいま首を斬る!・・・・なんだ?




蔵兵衛「オイラをこの程度で倒せると思っているのか・・・・」


息苦しい。まさか水の操作で溺死させようとしているか?




火蓮「大丈夫じゃ霧島」


火蓮の彩色炎で水を蒸発させてくれた。




俺「かたじけない」




蔵兵衛「良い連携じゃないか。出会って長いのか?」


蔵兵衛が普通に質問してきた。どんな余裕だ・・・・


答える義理はないし無視しよう。




火蓮「・・・・一年ほどじゃ」


答えるな、火蓮。




     *




英太「将英さん・・・・こんなに強かったんですね!」




オレ「おう!!!あいつにかかれば武士の十人や二十人、どうってことない!!!!」


宰川軍候補生『将英』、使用術『風刃術』。


風による斬撃は汎用性が非常に高く、単体戦闘・集団戦闘の両方を得意としている。


風刃術は人を風に乗せて馬を超える速度で移動することにも使える。


清次の宿舎では兄貴分として信頼されており、精神的支柱としての側面もある。


 


 将英がどんどん敵を殲滅していく。オレの出番がないくらいだ!




将英「よし。さっさと次に行くぞ」


オレと違って将英は冷静だな!!!


・・・・ん?何か笛の音が聞こえたぞ。




オレ「将英! この笛って何だ!!」




将英「幹部が現れたようだ。今すぐ笛の音がなる方へ行くぞ」


将英の風刃術で笛の音がなる方へ向かった!


笛の音的に、笛を鳴らしたのは華城!!ということは、あいつの班の火蓮と霧島が相手をしているに違いない!!


待ってろよ山河軍幹部!!!




     *




雷煌「雷煌、無理しないように!」


美月さんは心配性・・・・


そうだ、大丈夫・・・・雷刀に普通の刀で抵抗することはできないはず!




宰川軍候補生『雷煌』、使用術『雷刀』。


瞬間移動と雷刀は圧倒的に短期戦に強く、特攻が主な役割である。


しかし雷煌の術は体力の消耗が非常に激しく、継戦能力は低い。


純粋かつ優しい性格で、常に周りの空気を浄化する。




 一振りで三人殺した。




山河軍兵士「頼む! やめてくれ! 俺には家族がいるんだ・・・・本当は武士なんてやりたくないんだ!!」


目の前で大人にこんなにも懇願されるのは初めてだ。




僕「僕だって助けたいよ。一人も殺したくない」




山河軍兵士「じゃあなんでその刀を俺に向ける!」と怒鳴る。




僕「それが僕にとっての正義だからだよ」




山河軍兵士「人を殺すのに、どこが正義なんだよ!」


そもそも『正義』って何・・?




僕「僕の正義もあなたの正義も違うよ。本当は君の正義も尊重したいけど・・僕は弱いから、自分の正義を貫くしかないんだ」


そう言うと、相手の声の震えが止まった。




山河軍兵士「そうか・・でも、一つ言っておく。君は強い」




僕「はっ?」


この人は何を言っているんだろう。




山河軍兵士「弱い者は情が強い。人のことを考えるあまり、本来の目的まで忘れてしまう。だが君は違う。強い意志を持ち、時には残酷な判断も下す。俺も君のような・・・・君のような強い人になりたかったよ」




僕「そうなのかな・・・・」




山河軍兵士「もし、俺の子どもに会うことがあったら優しくしてやってくれ・・・・『壮馬』と『里花』という名だ」


もう、死ぬ覚悟が出来ているみたいだ・・




僕「覚えておくよ」


そう言ってこの人の首を斬った。


敵軍だから殺すのはいい事と思っていたけど・・・・実際は一人ひとりに名前があって家族がいて人生がある。


そして、斬る僕にも責任がある。


殺した分の命を背負って生きていかないといけないんだ。




翔斗「雷煌、おしゃべりが過ぎるんじゃないか? ずっとその男と話していたが」


少し怒られてしまった。




僕「ごめんなさい、何でも無いです」


さっさと次の敵を探さないと・・・・!




美月「これは・・・・笛の音ね」




翔斗「笛?」




美月「ええ。おそらく華城が鳴らした笛だわ。幹部が現れたのかもね・・・・」


僕と翔斗さんは美月さんについていった。


本当に幹部が現れたとしたら、一筋縄じゃいかないかな・・・・




      *




 林を抜けてきた。


遠くに十人ほど固まっているのが見える。


俺「よし、決まりだ。先制するぞ」


全然周りを見ていない。間抜けな武士たちだ。


さっさと倒して戦果を上げるとしよう。




俺「大きな地割れを起こすぞ・・・・よし、起こした! 二人とも行っていいぞ」


宰川軍候補生『清次』、使用術『地割れ』。


全ての武士を含めても術の破壊力は圧倒的であり、今までにないほどの逸材との評価を受けている。


武士になるのが遅かったため基礎的な戦闘技術は並だったが、非凡な才能と圧倒的な鍛錬量によって二ヶ月で同期と張り合える実力まで追いついた。


ただし感情に任せた行動が多く、仲間に止められる事が多い。


宰川は『敵としても味方としても要注意人物』と言っている。




 了斎と雪村が同時に走り出した。


勢いで二人とも行かせたが、そういえば氷と炎って相性悪くないか?


華城はなぜこの二人を同じ組にしたんだ?




了斎「雪村! 腕を凍らせて抑えろ!」


宰川軍候補生『雪村』、使用術『氷華術』。


雪村は氷華を生み出すことができ、用途は様々である。


敵への攻撃、冷却、味方の回復など様々な状況で役に立つことが出来る。


ただし、基礎的な戦闘力は低く、力で押されてしまうことが多い。




了斎「清次! 全員斬れ!」


よしきた!


そう、とどめを刺すのは俺の役目だ。




俺「はぁぁぁぁ!」


全員の首を斬った。


だいぶ血を浴びてしまった。まあ、この血で敵を威圧できるならそれもありか?




俺「・・・・ん?」




了斎「お前も聞こえたよな」


笛の音が聞こえた。




俺「よし、すぐ向かおう。幹部のお出ましだな」


負ける気がしない。さっさと終わらせてやる!




 馬でしばらく移動し、戦場までたどり着いた。


戦場に居たのは火蓮、霧島、華城、雷煌、美月、翔斗、そして幹部の野郎だ。




雪村「見た目からしてあれは『蔵兵衛』だね。水神・・・・」


一番面倒なやつが来たな・・・・




俺「圧倒的な数的優位だ。すぐに参戦するぞ」


翔斗たちのもとへ走った。




翔斗「清次たちじゃないか! 頼もしいな」




俺「しっかり守ってくれよ、翔斗」


翔斗は無言で頷いた。




蔵兵衛「ほう? また援軍か・・・・だが、雑魚が何人増えようと変わらん!」


蔵兵衛が、刃渡りが普通の二倍ほどある刀を振ってきやがった。


その巨体だからこそ扱える大きさの刀。やはり甘い相手ではないか。




俺「ちょっと待て、蔵兵衛のやつ、傷ひとつついてないじゃないか」


どうやら応戦するのがやっとらしい。




俺「応戦してるだけじゃ勝てねえぞ! こっちから仕掛けんだよ!」


できる限り広範囲の地割れを起こした。


あと一回しか大きな地割れは起こせない。




了斎「無茶するな清次!」と叫んだ。




俺「俺の心配はするな。蔵兵衛をたたけ!」


雷煌が蔵兵衛に切りかかった。




雷煌「斬れる! くっ・・・・」


おかしい。なぜ斬らない?いや、斬れなかったのか?




華城「水で吹き飛ばしたんだ。今、蔵兵衛は刀を振っていなかった」


華城、さすがの洞察力だ。




俺「雪村、あいつが出した水を瞬時に凍らせることは出来るか?」


蔵兵衛の周りに雪村が氷華をたくさん配置しておくことで、蔵兵衛の出した水を無効化するという戦法だ。


準備に時間がかかるのが難点だな・・


そして正直、成功しても大きな打撃にはならないだろう。


ただ何もしないよりはマシだ。




了斎「お主は水神。では炎を扱うわしとはどうなるのだろうな?」


了斎が挑発する。




蔵兵衛「鎮火するだけだ。考えたら分かるだろ」




了斎「やらねば分からないであろう」


宰川軍候補生『了斎』、使用術『炎術』。


清次と長い年月をともにしている親友。


誰よりも清次を理解しており、誰よりも清次に理解されている。


術は単純なものだが、了斎の高い身体能力によって威力が極限まで引き上げられている。


小柄だが力は強く押し負けることは少ない。


戦場では冷静でありながら激情家で、卑劣な人間を絶対に許すことはない。




 二人の剣劇が始まった。了斎は俺よりも刀の扱いが上手いから術無しの戦いで負けることはないはずだ!




俺「よし。行け雪村!」


雪村が蔵兵衛のところへ走っていった。成功してくれよ・・!


雪村が蔵兵衛の背後で氷華術を使った。


俺のところにも少し冷気がきた。




蔵兵衛「お前、小さい体の割にはやるじゃねえか」


笑いながら蔵兵衛が言った。




了斎「お褒めに預かり光栄だな」


蔵兵衛の刀の上を渡り、了斎が炎を纏わせた拳で蔵兵衛の顔面を殴った。


火傷くらいはしたんじゃないか?




蔵兵衛「問題ない・・・・がはっ」


よし!了斎の炎を消そうと出した水が凍った!成功したぞ!




了斎「今だお前ら!」


了斎の一声で、俺、雷煌、美月、霧島が一斉に斬りかかる。


これは獲った!




蔵兵衛「そんな愚策がオイラに通用するか!!」


まずい!本気で斬りにきやがった!




雷煌「ぐぁあ”!!」


雷煌が出血しているのが見えた。




俺「大丈夫か雷煌!」


翔斗がすぐに向かい、盾で守りながら退いて行った。


宰川軍候補生『翔斗』、使用術『鉄漢体術』。


豊満な体型が故に戦闘は得意としていないが、味方を守ることに特化している。


術によって生み出される『不屈の盾』は一部の術も無効化が可能だ。


翔斗自身の精神力も非常に高く、打たれ強さも兼ね備えている。




俺「雪村、翔斗たちのもとまで行って雷煌を治療してやってくれ!」




雪村「わかった!」


クッソ、やりやがったな・・・・




蔵兵衛「殺されそうになったから斬っただけだ。なにか文句があるか?」


蔵兵衛は悪びれる様子もなかった。




了斎「文句などない。だが、お主を許す気もない」




蔵兵衛「お前に許しを乞うつもりもない!」


蔵兵衛が水を纏わせた刀を振るう。


まずい、首を狙ってきやがった!




俺「了斎!!!」


斬られたと思った瞬間、蔵兵衛の刀が止まった。


何だ?敵の援軍か?




椿「よく持ちこたえたわね! 一旦下がって休んでな!」


おそらく宰川軍のくのいちだ。だが、圧倒的に強い。くないであの大きな刀を止めるとは・・・・




俺「くのいち・・・・まさかあの人が『椿』か!?」




何で俺たちのところに来たんだ・・?」




了斎「そんなことは今はどうでもいい! ひとまず下がれ!」と叫ぶ。




蔵兵衛「くのいちか・・・・他の虫どもに比べたら多少は強いようだな」


蔵兵衛はまだ余裕そうにしている。




椿「ウチの後輩を悪く言うんじゃないよ!」


宰川軍所属『椿』、使用術『腐食』。


宰川軍内で最強のくのいちであり、攻撃速度で右に出る者はいない。


仲間思いで幹部の命令を無視してでも武士を助けるため、判断力や指揮力はあまりないと評価されている。




霧島「なんだあれ・・・・目で追えないぞ」と呟いた。




華城「明らかに異次元だ。女性が故のしなやかさによってあの速度を実現している」




だが、蔵兵衛も応戦している・・・・俺はどうしたらいいんだ!




華城「でもあいつも化け物だ。柔と剛、どちらが勝るか・・・・」


椿さんが必ず勝つ!




蔵兵衛「ちょこまかと逃げやがって・・・・我慢ならんな」


水で人形を生みだしやがった!


椿さんが人形に囲まれた。




霧島「行くしかない!」




華城「待て霧島、お前があそこに飛び込んでも無駄死にするだけだ」


華城が霧島の腕を掴む。




霧島「じゃあどうするんだよ?」




華城「右を見ろ」




霧島「は?」


右を見ると、将英と剛斗が立っていた。後ろに英太が居るのも見える。




将英「だいぶ遅れちまった・・・・怪我人はいるか?」


将英たちに状況を説明した。




剛斗「それより、あそこで戦ってるのは誰だ!! なぜ助けない!!」


剛斗はかなり焦っているようだ。




華城「あいつは幹部の蔵兵衛だ。椿さんが来たから俺らは一旦下がっている」


華城が簡潔に説明した。




将英「なるほど。囲まれているようだが?」




俺「俺たちには何も出来ない・・・・」




剛斗「オレに任せとけ!!!」


そう言い放ち、蔵兵衛のもとへ向かっていった。




将英「オレも行く」


将英が着いていった。


本当に大丈夫なのか・・?ここで死ぬのは勘弁してくれよ・・!




俺「うーん・・・・」




雷煌「将英さんは僕と比べ物にならないほど強いです。きっと倒してくれますよ」と戻ってきながら言った。




俺「雷煌! 大丈夫だったか?」




雷煌「はい! 雪村さんと翔斗さんのおかげで」


雪村が照れくさそうに笑った。


俺たちは一旦、戦闘を見守ることにした。




     *




 蔵兵衛。使用術、水神。あの巨体から繰り出される一撃は術無しでも致命傷となるか・・・・


椿とやらを囲んでいる人形から処理するとしよう。




オレ「剛斗、オレは人形を相手する。お前は椿さんを一旦退かせろ」




剛斗「わかったぜ将英!!!」


宰川軍候補生『剛斗』、使用術無し。


彼の特徴は何よりも彼自身の『力』であり、剛斗は刀を使わず戦闘する。


剛斗の肉体から繰り出される拳は強烈で、人の頭蓋骨程度は簡単に砕けてしまう。


ただし、非常に状況判断能力・指揮能力が低く、脳まで筋肉で出来ていると貶されることが多い。




 大丈夫だ。人形ごときに負ける気はない・・・・


よし、まずは一体。まだまだ残っているな。


一体一体斬っていては時間がかかるな。


風刃で一気に消し去ってやろう。


薙ぎ払うようにして人形を葬り去った。




剛斗「椿さん!!! 一旦休んでろ!!」と言って人形を投げ飛ばした。




椿「いや、ウチはまだ戦える!」


その返答は予測していたので、三人で共闘すると剛斗に伝えた。


剛斗であれば力で蔵兵衛に引けを取ることはない。


それはオレもだがな。




椿「後輩に助けてもらうなんて、情けないことをしてしまったね」


椿さんの目つきが変わった。




椿「いくよ・・・・腐食!」


椿さんが投げたクナイが蔵兵衛の腕に刺さると、蔵兵衛の肌の色がみるみる悪くなっていった。


腐食の術を使うのか!その部分を斬れば倒せる!




オレ「剛斗!腐った腕を一斉に攻撃するぞ!」


オレは風刃、剛斗は拳で一気に攻撃した。




蔵兵衛「畜生! 腐食か・・・・!」


よし、蔵兵衛の片腕を切り落とした。十分に弱らせることは出来たはずだ。




オレ「来いお前たち! 畳み掛けるぞ!」


 


      *




 将英は凄いな・・・・いや、素手で戦っている剛斗の方がおかしいのか?


将英「来いお前たち! 畳み掛けるぞ!」




俺「よし、とどめだな」


全員で蔵兵衛のもとに走っていく。今回は華城もいる。




蔵兵衛「くそ、これを使うしか無い!」


蔵兵衛が水で龍のようなものを生み出した。




俺「椿さん!」


龍は瞬く間に椿さんを噛みちぎった。




雷煌「椿さん・・・・」




椿「ウチのことはいいわ。なんとかそいつを・・・・」


椿さんは倒れている。




俺「駄目だ! 雪村! 回復させられないか!?」




雪村「こんなに大きな傷は治せない・・・・」


クソ、椿さんが居なければこいつには勝てない。腐食が一番の有効打なのに・・・・


万事休すか・・・・?




剛斗「くそ野郎がぁぁぁ!!!」


剛斗が走っていった。




華城「まずい!無茶だ」


華城の声も聞かず、剛斗は蔵兵衛の腹を思いきり殴った。




了斎「何だあれは・・・・」


蔵兵衛が血みどろになっている。


あれは剛斗がやったのか?




俺「あいつ・・・・本気かよ」


剛斗が最後の蹴りを入れ、蔵兵衛の首がこちらに飛んできた。


こんなにあっさり・・・・




 満足げな表情で剛斗が戻ってきた。




華城「おい、蔵兵衛は反抗してこなかったのか?」




剛斗「反撃の隙なんて与えねえ!!」


どうなってんだこいつは・・




椿「ありがとう・・・・」


どんどん椿さんが弱っていく。


雪村と翔斗が必死で手当をするが、回復の兆しは見えない。




将英「・・・・・・呼吸が止まった」




俺「椿さん・・・・」


美人だったんだけどな・・・・・・




華城「一旦、本部へ戻ろう。椿さんと、そいつの首を持って」


いつになっても華城は冷静だ。感情に左右されることがない。




将英「そうだな・・・・」

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