第2話偽父親の鑑定

長五郎は、夕方ハツが持ってきた鯉の洗いと鯉こくを食べならがら、芋焼酎を飲んでいた。この御老体、齢の割には酒を飲む。


ガラッ!


「失礼すいが、長五郎さんまたお知恵を」

「川路さん、もう今夜はオイはしょちゅを飲んだで、協力出来んど」

「今回は、殺しじゃなかとです。醤油問屋の藤吉郎が三月前におらんごなり、きのって(一昨日)戻ってきて、そこでそどごと(問題)があって」

「どげな、そどごとな?」

「三月前におらんごなってから、そんこどんにのシゲルにたなの、跡継ぎをさせたどん、10日前にないモンかに打ったくられて、大怪我をおて、店の跡継ぎでもめて、そうこうすっと、藤吉郎が出てきてな」

長五郎は鯉の洗いに酢味噌をたっぷり付けて口に運んで、

「ならば、そん藤吉郎におげ(会いに)行っがほいっ」


川路はよたよた歩く長五郎を醤油問屋を案内した。

醤油問屋に着くと、番頭の佐吉が現れて、

「おい、邪魔すっでな。藤吉郎におうごたい。(会いたい)」

「へい、わかいもした。こん人は?」

と、佐吉は長五郎を見た。

「こん方は、同心の味方、白浜長屋の永田長五郎様やっど」

「へ、へへい。ウワサは聞いとりモス。では、このそどごとを解決してくださいモス」


佐吉は藤吉郎を呼んだ。

「へい、あたいがこん醤油問屋の藤吉郎でごわす」

「藤吉郎、この三月、何をしていた?」 

と川路が聞く。

「長旅をしておりもした」

「長旅?」

「へい。湯布院の風呂に浸かっとりもした。誰にも知らせずに」

「シゲルさんには、会いもしたか?」

と、長五郎が言う。

「へい。あたいが戻る前ん日にゴロツキに襲われもして」

「シゲルに、次の問屋を継がさんならち、店ん中の人間が決めもしたが、あたいはマダマダ、働く事ができモスで跡継ぎはまだ決めとりません」

「一度、シゲルに会わせてもらえんか?」

「長五郎さん、よかどんからん、意識はなかど」


長五郎と川路は布団に横たわるシゲルを見た。頭は布で巻かれ眠っていた。

そこで、長五郎は全てを理解した。それを川路に耳打ちすると、川路は魂消た。


「藤吉郎どん、シゲルさんと一緒に風呂に入った事は?」

「……ありますよ。何せ1人息子ですからね」

「おはんな、藤吉郎さんじゃなか!」

「長五郎さん、そんな事を言われもしても、あたや、シゲルの父親であり、この醤油問屋の主人でごわすぞ」

「シゲルっち、男じゃなかど。おなごん子やっど」

「御冗談を」

「藤吉郎どん、あたい達の5代目の子はおなごじゃっど!」

佐吉は顔色を変えて偽主人に言う。

「おはんな、だいな?」

「クソ爺が!おはんがおらんかったら、うまか生活ができいとおもたとこれ」

川路は、偽藤吉郎を奉行所へ連れて行った。


「長五郎様、ほんのこてあがとさげもす。じゃっどん、ないごておなごん子ち分かったとですか?」

「あのね。おなごん子は額が丸かとよ。男ん子は真っすぐ。一目で分かったが」

「さすが、長五郎様。しかし、旦那はどこ行ってしもたとか?」

「多分、あん男が知っちょいが」

長五郎が帰り際に、大番頭の佐吉から包を渡された。

戻って、確かめると十五両包まれていた。


その後、偽藤吉郎一味は全員捕えられ、本物の藤吉郎が痩せた姿に変わっていたが、無事に醤油問屋に戻る事が出来た。シゲルも無事に回復した。

これて、永田長五郎の名は薩摩藩で有名人となった。

また、醤油問屋の藤吉郎から、多額のお礼金を貰い、長屋の改築工事をして、白浜長屋は随分立派な建物となった。

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