白浜長屋の知恵袋

羽弦トリス

第1話最初の事件

ここは薩摩藩の南薩にある白浜長屋。

この長屋の長老、永田長五郎は数々の難事件を解決している。

長五郎じいさんは、毎朝、味噌汁は欠かさない。娘のハツが作って持って来てくれる。ハツは3軒隣の火消しの平八と世帯を持ち、子供が5人いる。

「ハツ、まこてすまんのう。うっかた(妻)がけしんでから、世話になって」

「おとう、気にせんでよかよ。毎月、銭をもろているんだから」

長五郎じいさんは、難事件を解決して金子を稼いでいた。

ハツが帰ると、味噌汁、握り飯ひとつ、ししゃもを食べ始めた。 


ガラッ!


戸が開いた。

「長五郎のじっさん、また、解決して貰いたか殺しが」

「まっこてぇ、人が飯を食うとる中に」

「す、すんません。急ぎでね」

長五郎はゆっくり、味噌汁を飲んだ。里芋をクッチャクッチャ音をたてながら食べる姿を見た、岡っ引きの鉄は顔をしかめた。そして、食事が終わるのを待った。

「ふぅ~、食うた食うた。で、鉄、誰がけしんだとね?」

鉄は、あれこれ事の経緯を話した。

「で、けしんだおなごん子の年の頃は?」

「十七でごわす」

長五郎は立ち上がり、センスをおでこに当てて、

「いんや〜、今度ばっかいは難しか」

「そこを何とか。また、うちの川路様に役立たずっち、また言われるが」 

鉄は同心の川路圭吾の下で動いていた。

「で、おはんに聴きたいけど、喉を突かれた刃物はないかわかいや?」

長五郎はセンスをまだ、おでこに当てながら尋ねた。

「下手人は、ノミをつこておりました」

「ノミ?大工じゃないか?よし、この辺りの大工一人一人調べてみんか?」

「へい。ですが、もし全員がノミを持っちょったならまた、この殺しは振り出しじゃ無かろかい?」

「鉄〜。もっとビンタをつこえ!持っちょらんなら、白状したと同じよ。今日、一番新しかノミをつこちょいヤツが下手人よ!」

鉄はピンと来て、

「ありがと下げもした。川路様にそうお調べすいごと、言いてみやす。そんなら、行ってきやす」


翌日、下手人が判明した。

下手人はタツという、若い男であった。一番驚いたのは知らせを鉄から聴いた長五郎じいさん。

「いっちょん、分からんかった。運が良かわい」

と、呟いた。 


ガラッ!


「長五郎様、此度はまっこと、あがと下げもした。こや、少なからどん、今度のお礼でごわす」

長五郎は、目尻を下げて、

「川路どん。何でも、あたいに言ってくいやんせ」

「力強かでごわす。ならっ」

と言って川路は直ぐに、出ていった。

紙包みを開くと、一両出てきた。

長五郎は芋焼酎を飲みながら、春画を見ていた。

結果オーライのこのじいさんは、何故か事件を解決するのであった。

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