3話 鯉




昔、こい・・を釣ったんです。


ええ、魚の。


たしかー……小学4年生頃かなー、夏休みに入って暇で暇で仕方なかった…そんな日の出来事です。


まぁ暇と言いましても、やることはあったんですよ?けど自分は結構ものぐさな人間なもんで、夏休みの宿題なんてものは最終日に慌ててよくやってましてね?

その度に何個か宿題が終わんなくて…よく怒られてたなぁ…


あ、すみませんねぇ。

昔の話をすると思い出してきちゃって、ほら?もうこの歳ぐらいになると懐かしくてね?


…で、どこまで話したっけな?

あ、そうそう小学4年生の夏休みのとこね?


まぁ、夏休みに入って暇だったもんだから、友達の数人かずとを誘って遊びに出掛けたんです。


周りはミーンミーンって蝉が鳴いて、空を見れば綺麗な入道雲があってさ、これぞ「夏」って感じの日で…

外に出たのはいいけど、することが思いつかない。

とりあえず近所にある駄菓子屋に行って20円ぐらいで買えるプラスチックに入ったジュース…って分かるかな?…まぁ、そういうジュースがあったんです。

それをこう…歯で噛みちぎってチューって中のジュースを飲む…


「…なぁ、今日何する?」


そうして飲んでると、もう飲み終わったのか、空になった容器をグシャッと潰してる数人が聞いてきた。


「あー、なにするかー…カブト虫でも捕まえるかー?」


「…昨日も捕まえたじゃないかよ、もう俺の虫カゴ入んないぞ?」


「んー、じゃあ蝉を…」


「虫を捕まえるのは飽きたって!」


「んー、そこまで言うならお前はなんかないのかよ?」


「…んー、考えつかないなぁ」


そう言うと数人が駄菓子屋の中に入っていく、俺も数人について入っていき、店番をしているおばちゃんにゴミを渡す。

その時におばちゃんが話しかけてきた。


「あんたら、することないのかい?」


「んー、いま考え中なの」


数人がそう言うとおばちゃんが何かを差し出してきた。


「…ほれ、これやるよ」


「なにこれ?」


「数年店の奥に置いてあった麩菓子だよ」


「げぇ、もう腐ってんじゃ…」


「バカ言うんじゃないよ、別にあんたらは食べなくたっていいだろうに?ほらすぐ近くに川があるだろ?」


おばちゃんが言ってる川と言うのは僕等の地区にあるそれほど大きくないけど、小さくもない川って印象の…仮にA川とでも言いましょうか。


「…あー、そういうことか!たしかに面白そう!おばちゃんありがとう!」


「あいよー、また来なよー」


数人が何かをひらめいたようで、おばちゃんから麩菓子を貰って店を出た、それに俺もついていき、数人に聞いた。


「なぁ、A川で何すんの?」


「え、お前分かってなかったのかよ」


「おう、A川で麩菓子でなにすんだ?全くわかんねぇ…」


「…A川にさザリガニとかタニシとかいるじゃん?」


「おう、いるなぁよく捕まえる。けどもう捕まえ飽きただろ?」


「おいおい、違うぞ?他にもいるじゃんデカイ・・・のが」


デカイ・・・のー?」


「そう、だよ!」


「あー!あれ捕まえられんの!?」


「鯉ってって言うじゃん?ほらこんなに餌あったら出来るんじゃね?」



その時、僕等はすごくワクワクしてました。

だって虫とか生き物を捕まえると言っても、だいたい手に収まるサイズじゃないですか?

鯉なんて、それらに比べたら馬鹿みたいに大きい。

そんなものを今から捕まえるって言うんですからワクワクしないわけがない。


「じゃあ、準備しないとな!」


「今から1時間後に使えそうな物を持ってあのA川に集合な!」


そう言って僕等は各々家に戻り網とかバケツとかを持ってA川に集まったんです。


「おうおう、なんかいっぱい持ってきたなぁ」


「そう言う数人もリュックなんて背負っちゃって」


「まぁ、いいや行こう」


そして、僕等はA川に掛かってる橋の下にやってきた。そこは丁度日陰にもなってるし、草がそんなに生えてないので足場としては丁度いい。


A川は汚いんだろうけど、透明で川の下が良く見えて川の流れに沿って藻が揺れ動くさまは「川」って感じ。


「よーし、まずは作戦を考えよう」


「作戦かー…網にさ麩菓子たくさん入れてよぅ、川につけといて鯉がエサ欲しさに網の中に入ったら、こう、ガバッと持ち上げるなんて…どうよ?」


「おお、それいいじゃん!そこまで誘導するめに麩菓子を前に落として…よし、やってみるか!」


こうして僕等の鯉捕獲作戦が始まった。


僕が麩菓子を入れた網を川につけ、鯉が来るのを待つ役。

そして数人が上流の方に行き鯉に麩菓子を与えてこっちまで引っ張ってくる役。


「おーい、準備できたかー?」


「バッチリだ!数人、大きいやつ連れて来いよー?」


「任せとけって!ちょっと行ってくるわ!」


そう言うと数人は川の上流に行った。


網に入った麩菓子を見る、川自体流れは早くないため麩菓子がプカプカ少しづつ動いている。


川が近くにあるからか、橋の下の日陰だからだろうか、夏なのに涼しく蝉の鳴き声も心地よく聞こえる。


気づいたらボーッとしていて…



「おーーーい!!そっち行ったぞー!」



少し離れた所にいる数人の声でハッと川を見る。


確かに大きな鯉が左右にユラユラ揺れながら僕の持つ網へと近づいていた。


よーし!鯉よ来い!


網の縁のところを少しつつき、ゆっくりと麩菓子のある奥に入ってくる。



ちょとずつ…ちょっとずつ…


ここだ!!


奥まで入ったところで網を思いっきり上に持ち上げる!


「!?うおおおっ!??」


思ってた以上に重く、なかなか持ち上がらない

それどころか鯉が暴れるため、こっちの方が川に…


ドボン!!!


川に落ちた、最悪川は浅くて溺れることはなかったが、びしょ濡れになり、しかも底にあった泥のせいで泥だらけに…


「おい!?大丈夫かよ!」


数人がやってきた。


「大丈夫だけどよー、泥だらけだよ…あいつら意外と手強いぞ?」


「そんなにか…て、お前網は?」


「あ、俺の虫網・・は!?」


「あ…、折れてら」


当時子供だった僕等は虫網しか持ってなくて、虫網より強度の強い魚網とか持ってなかったんですよね。

まぁ、網は網だし大丈夫だろうって思ってたんですよ。


「網を折るぐらい強いのか…鯉捕まえられるか…これ?」


数人が弱気な事を言い出したんで、僕は言ってやったんですよ。


「こんなに泥だらけにされて、捕まえられませんでしたは許せないぞ!絶対捕まえようぜ!!」


こうして鯉捕獲作戦第2ラウンドが始まりました。


前回と違い今回は数人が網を持ち(数人の虫網)、僕が麩菓子でおびき寄せ、数人が網を持ち上げる!その瞬間に僕が鯉を手で掴みあげる・・・・・・・!もうびしょ濡れの泥だらけですから、気にすることなく川に入ろう…そんな捨て身の捕獲作戦でした。



「じゃあ数人、待ってろよ?めっちゃ大きいの連れてくるわ!」


「おう、任せたぞ!」


そう言って僕は上流の方に走って行き鯉を探しました。

…ですが、先程の鯉より小さめな鯉が多く…これだ!っていう鯉が見つからなかったんです。


もう少し上流に行くか…っと思いつつ川を見てると…

大きいサイズの鯉がフラっと突然現れました。


…けど、その鯉なんだか…なんだろ、嫌な雰囲気と言いますか…。


……例え話なんですけど、コンビニの駐車場で若者が集まってたりするじゃないですか?近寄り難いですよね?…あの感じ……あの雰囲気ですかね?それに近しいものを感じたんですよ。


けど、それ以上に大きな鯉は他に見つからないし、こんなチャンスはもうない!と思ってそいつの近くに麩菓子を投げて、食い付いたら、その少し先に投げてを繰り返して、数人のいる方に誘導して行ったんですよ。


あと少しで数人のいる場所に誘導できると思って鯉の方を見ると…鯉がこっちを見てるんですよ……その時は麩菓子をねだってるのかなとか思ったんですけど…今考えると…魚がそんなことしますかね?……そりゃあ飼われてる魚とかなら分かるんですけど…野生の鯉ですよ?


まぁ、麩菓子を投げて数人の方まで誘導したんです。


「数人!でっけえの連れて来たぞ!」


「おう!待ってた!」


捕まえる準備は万端でいつでも川に飛び込めるように上着を脱いで待ったんです。


鯉が網のフチをつつく、ゆっくりと網の中に入っていく……ゆっくりと……ゆっくりと……


「よいしょお!!!!」


数人が気合いを入れて網を持ち上げる!


ここだ!!


その瞬間に川に飛び込み、網に半分突っ込んで暴れてる鯉を抱きしめるように捕まえ、岸に上げようとするが…うねうね動いてなかなか持ち上げられない!

ヌルヌルもするし、少しでも手の力を緩めたら逃げられそうで、悪戦苦闘していると……


ドボン!!!


「いっせーので持ち上げるぞ!」


数人も川の中に入ってきて一緒に鯉を持ち上げた。


「分かった!よーし!いくぞ!」


「いっせーのー」


「「よいしょお!!」」




ビチッビチッビチ…と岸の上で鯉が跳ねる。


「はぁ!よっしゃぁ!!」


「捕まえたぁ!!」


喜びもつかの間、急いで岸に上がり持ってきたバケツに水を入れて鯉をその中に入れる、想定よりも大きな鯉だったため、バケツが窮屈だろうけど、これで死なないだろう。


「やったな!」


「俺初めてだよこんなに大きな生き物捕まえたの!」


「俺も俺も、いやぁ嬉しいわ誰かに自慢したい」


「…ところでだけどさ、数人も川入って良かったの?びしょ濡れじゃん」


「…俺はこういうことも考えて…持ってきてるんだよ」


「……ん?なにを?」


「着替え!リュックの中に入ってんだよ」


「うわ!ずる!」


「お前が考え無しなだけだろー?ちょっと着替えるから待ってて」


そう言うと数人は橋の下の奥の方に行って服を脱ぎ始めた。


「うわぁ、俺だけびしょ濡れのままかよ…まぁいいや俺は捕った鯉でも見てよ。」


着替えてる数人を横目にバケツの中を見る、鯉が窮屈そうにしているが、動くことなく口をパクパクさせている。


……なんだか、こっちをじっと見てる気がする……。


麩菓子が欲しいのかと中に麩菓子を入れるも食べもしないでパクパク口を動かす。


……なんだか、そのパクパクしてる口が気になって…じっと見ていると…



口から何か出た。



食べてた麩菓子かなって思って見たんです…




…………だったんですよ…人間の。





あまりの事で呆然としちゃって……


そしたらまた何か口から出したんですよ。



……




何が起きてるか分からなくて頭が混乱していると……



鯉が口をパクパクする度に……人間の細切れになった部位みたいなのが沢山出てくるんですよ……



……



もう、何処の部位かも分からないぐらい出てきて…バケツが埋まったんです……もう鯉も見えないぐらい……




あまりの出来事にただただ見てたんですけど…



「おい、どした?」



後ろからかけられた数人の声にビックリして慌てて振り返った。



「いや!この鯉……」


「あっ!!」


今見た現象を数人に言おうとするも……数人が大きな声を上げて指を指す。


「鯉が!!」


「…え?」


慌てて指をさされた方を向くと、ひっくり返えたバケツと川へと飛び跳ねてる鯉……


……数人の声に慌てて振り向いた時にバケツに足が当たったんだろう……そのままひっくり返えって鯉が逃げてしまった。


「おまえせっかく捕まえたのに!なに逃がしてんだよ!」


数人が怒りながら言うが……それより先程の現象の方が頭に残ってて……


「あれ!?肉は!?指は!?」


バケツいっぱいに出てきた人間の細切れは何処を探してもなかった…


「……お前何言ってんだよ?」


数人が呆れたように言ってくるもんだから、先程あった出来事を話した。


「…暑くて頭おかしくなってたんじゃないの?」


数人は信じてくれず、その日は解散した。



まぁ、普通に考えて荒唐無稽な話ですよね?

僕も他人に急にそんな事言われてもたぶん信じませんし……



まぁ、そんな出来事があってから生き物を捕まえるのが怖くなって……捕まえなくなったんです。


けど、数人はあの時の興奮が忘れられないみたいで、すっかり釣りにハマって……もう五十年近く経ってる今も釣りをしてるんですよ。





でね、あの時の出来事をよく思い出して考えるんですよ、あの現象が何だったのか……って。



……1つこれなら納得出来る…辻褄が会うっていう考えがあって…



…鯉ってじゃないですか?



ええ、……


だからね?僕はこう考えたんですよ。






あの鯉でも食べちゃったんじゃないか……って








━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきみたいな何か


いやぁ、難しいですねぇ……。

え?何がって?怖い話書くのがですよ!


今回の話は実際にあった体験を聞いた話なんですけど…。


「昔に鯉を捕まえたことがあってさ、その鯉さ……口から人の細切れみたいなのを出すんだよ、一緒に捕まえた友人には見えなくて…あれは鯉が幽霊を食っちまったんじゃないかって、俺は思うんだよ。」


これよ!!

怖い話は大好きだから、よく人に聞くんですけどね?書くとなると中々難しいもんですね!


けど、これからも楽しいんでやってきます!


ここまで読んでくださりありがとうございました(˶ˊᵕˋ˵)















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