依頼主とお客さまの違い
「お客さま」とは、製品を購入し利用する人々を指す。それ以外にない。お客さまの満足こそが、モノづくりに携わる者たちが目指す最高の到達点である。販売をする者も、開発をする者も、品質管理をする者も、すべての者にとって等しい目的地だ。
しかし、品質管理の立場に身を置くと「お客さま」がぶれる場面がある。仕事の依頼主が「お客さま」と呼ばれるのだ。目指す到達点が変われば、なすべきことも変わる。残念ではあるが、依頼主の中には、製品を手にするお客さまの満足が最高到達点でない人が存在する。開発コストをおさえ、製品を発売し、利益を出すのが最優先。ビジネスこそがもっとも優先されるのだ。そういった依頼主を「お客さま」とするなら、製品を購入する人たちの優先順位は、けっして第一位にはならない。
たとえば、お客さま (=製品を購入する人) に不利益をもたらす重大な不具合があったとしよう。しかしそれは、製品として致命的な欠陥ではない。お客さまが注意して利用していれば生じない不具合だ。もしも不注意なお客さまがいたら、発生した不具合はお客さまの自己責任である。修正する必要はない。こんなふうにお客さま (=依頼主) が考えていた場合、あなたにとって優先すべき「お客さま」は誰になるだろうか。
依頼主を「お客さま」としていれば、『修正する必要はない』の判断に、品質管理は異を唱えない可能性が高くなる。優先順位の第一位が依頼主なのだ。依頼主の言うことは絶対である。意見すれば信頼を失いかねない。次の仕事を失うかもしれない。黙って従うのが賢明だ。
だが、製品を購入する人を「お客さま」と見据えていたのなら、行動と結末は大きく異なる。依頼主が下した判断がお客さまのためにならない、そう感じたとき、あなたはこう言えるだろう。『この不具合は修正しましょう。なぜなら、お客さまの不利益につながるからです。お客さまの不利益は、貴社にとっての不利益にほかなりません』と。
モノづくりの好循環は、お客さまの満足から始まると言っても過言ではない。お客さまの満足が、販売元と開発者を満足させる。製品がよろこんでもらえるのだから当然だ。逆に、販売元と開発者だけが満足しても、お客さまが不満足であれば、好循環は生まれない。製品は思うように売れず、企業へのイメージや信用は下がり、次の製品にかけられるコストが減る。利益を生み出すサイクルになるわけがない。
品質管理をする者は、その循環を左右する場所にいる。「お客さま」とは誰のことを指すのか、どうか見失わないでいてほしい。依頼主をお客さまと呼んだって、一向に構わない。誰の満足を勝ち取るのがゴールであるのか、それだけを覚えていればいいのだ。
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