品質管理をとおして育まれる力
ある日、上長がこう口にしたのを今でも覚えている。『品質管理の仕事はつぶしがきかない』と言ったのだ。ここでのつぶしとは、品質管理で得た知識・技術、キャリアは、まったく別の仕事に就くときあまり役に立たない、を意味する。
確かに、職務経歴に「〇〇業の品質管理経験 5年」とあっても、何ができる人なのかはパッとイメージできないだろう。そういった見かたをするなら、つぶしがきかない、の意見にはうなずける。ポートフォリオ (実力や強みをわかりやすく示すもの) がわりにはならないからだ。
しかし、知識・技術まで役に立たないかと問われれば、わたしはノーと答える。不具合を見つけ、なおすための力が発揮されるのは、有形無形の製品だけにとどまらない。たとえば、買い物客でにぎわうショッピングモールにだって、不具合はある。
食品には消費期限があり、いつまでも同じ商品を置いておけない。商品の売れゆきしだいで入荷量の調整がいる。商品は子どもからお年寄りまで手に取りやすい位置にあるだろうか。値札の数字は読みやすい大きさか。商品名に誤りはないか。混雑してもショッピングカート同士がぶつからずにすれ違えるだろうか。品切れの棚があれば補充しなければならない。陳列棚から店内全域の清掃も必要だ。人のスムーズな流れをシミュレーションし、体の不自由なお客さまも買い物を楽しめるよう最良の店内レイアウトづくりも欠かせない。特別なイベント、キャンペーンを企画する場面もあるだろう。それらに問題があれぱ、すべて不具合である。
いくつか例をあげたが、わたしはショッピングモールでの就業経験はない。ひとりの客として、そして品質管理の知識・経験からの想像である。あながち的をはずしていないと思っているのだが、どうだろうか。
品質管理を仕事にすると、自然に「お客さまを想い、想像する力」が育まれていく。労働によって生み出したものの先にお客さまがいるのなら、品質管理で培った力は、さまざまな場面で必ず役に立つだろう。
職を得るシーンにおいてつぶしがきかないのは、おそらく事実なのだと思う。しかし、望んだ職に就けなかったとき、『やはりつぶしがきかなかった』と、それまで培ってきた品質管理の力を捨ててしまうのは、あまりに惜しい。もしそんな状況に陥ったとき、あなたの中にある「お客さまを想い、想像する力」をどうか思い出してほしい。育まれた力は、誰に向けてもいいのだ。目の前にいる家族、友人、恋人、もしくはまったく知らない他人であってもいい。あなたの行動は、確かな力をもって、目の前にいるたったひとりをしあわせにするだろう。あなたのしてきたことは、けっして無駄にはならない。
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