品質管理の羅針盤

このはりと

はじめに

 品質管理の仕事を長くやってきた。製品から不具合をなくし、お客さまに良質な体験を提供する、そんな仕事だ。製品には、有形無形さまざまなかたちがある。けれど、「不具合」と「改良の余地」は共通している。それらを見つけ出し、製品がよりよい状態でお客さまのもとへ届くようにする、それが品質管理の仕事だ。

 多くの人とかかわり、よろこびもつらさも、本当にたくさんの経験をしてきた。ある日、ふとこんな思いが浮かんできた。「こうして得たものを、ほんの少しでもいい、あとから歩いてくる誰かに手渡せないだろうか」と。わたしを書くに至らせた動機である。

 ここにわたしの経験や思い、そして願いを書き残す。それは、水にたとえるなら、ほんのひと雫。草花を静かにうなずかせるくらいの小さな力だ。それでいいと思った。わずか一滴でも誰かのもとに届いたのなら、それはやがて「流れ」になるかもしれない。

 品質管理の道は平坦ではない。迷い、遠まわりし、くじけ、立ち止まることもたくさんある。だからこそ、本書を書き残そうと思った。本書は困難を切りひらく剣にはなりえない。同じ道を行く人にとって、行く方向を示す「羅針盤」である。そうあってほしいと、心から願う。


 最後にひとつお詫びを伝えたい。本書では、わたしが携わる業務そのものは話せない。品質管理の仕事には、秘密を守る約束事があるためだ。もしコメントをいただいたとしても、返答は差し控えたい。だからといって、不鮮明な解像度で話したつもりはない。内容がぼんやりしていたのでは、羅針盤にはなりえないからだ。それでもよければ、この先を読み進めてほしい。

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