相手は100倍以上の多勢

 製品品質とは、不具合がなければよいというものでもない。不具合がないことは当然として、製品に満足できるか? 製品の使いやすさは? 開発者のこだわりの有無は? と敏感な反応を見せるのがお客さまである。それらをいち早くイメージし、製品が発売する前に一定の水準まで引き上げることが求められる。想像力の勝負だ。

 品質管理チームの人数規模は、10名から多くても100名であることが多い。製品を購入するお客さまの数と比べれば、少ないと感じるだろう。だが、10名が一週間作業をしておしまい、とはならない。ひとつの製品にかける品質管理の期間は、数か月から、ときには年単位になる。仮に、10名が1日8時間365日の作業をしたとしよう。その製品の品質管理にかけた総時間は29,200時間になる。あなどれない数字だ。

 しかし、製品が発売されれば、品質管理チームがかけた数字の受け取られかたは否応なく変わる。たかだか数万時間。製品を購入するお客さまの数は、品質管理チームの少なくとも100倍以上にはなるだろう。この数は、製品が売れれば売れるだけ増えていく。そして、製品発売と同時に、お客さまによる一斉点検が始まるのだ。

 もちろん、お客さまは不具合をさがす必要などない。さがすつもりはなくとも見つかるのが、不具合である。多勢に無勢。品質管理が臨む戦いとは、苦戦必至が常なのだ。かといって、最初から白旗をあげて降参するわけにはいかない。たとえいくつかの不具合が残ろうとも、力を出し切った結果であれば、胸を張って敗戦の事実を受け入れてほしい。誰だって望んで負けたいとは思わない。負ければ当然悔しい。けれど、その悔しい思いこそが、敗北や失敗から得られる最大の成果だ。手を抜いたのなら悔しくはないだろう。敗北は痛くも痒くもないはずだ。あなたが悔しいと感じるのは、ベストを尽くした証拠である。

 いつだって、誰とだって、どんな状況におかれたって、今できることをすべてやりきるのだ。そうしていれば、いつの日か必ず品質管理が勝利する日がやってくる。品質管理の勝利とは、お客さまのよろこびの声にほかならない。称賛の声は、製品や開発者、販売元に向けられたものだろう。不具合がないのは当たり前だ。当たり前のことをほめたたえる声は、おそらくない。だが、それでいいのだ。品質管理とは、そんな当たり前を支えることこそが、本分なのだから。

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