第24話 座る人

「ついちー」


 彼女流の「ついたー」って言葉と共に、俺は湖畔でゆっくり下ろされた。

 前は放り投げられたので、仲間への優しさがあるね。

 しかもとてつもなく速い。


 湖畔は色とりどりの花が咲いていて、小動物がぴょこんと草むらから顔を出している。

 湖には魚影も見える。

 アルメリーが銀髪を靡かせながら風を浴びる。


「とっても気持ちいい。ここなら薬草もたくさんありそう。ほんとは私が治癒魔法使えたら、すぐ治せたんだけど」

「大丈夫ですよ」

「ナギはここで待ってて。私、薬草採ってくるから」

「あっ、アルメリー!」


 すぐにでも飛び出していきそうな彼女の背中に声をかける。


「前に、『倒す専門で薬草なんて見分けつかない』って言ってませんでした?」

「うっ……」

「一緒に行きましょう」

「でも、ナギ、足痛いでしょ?」

「軽く歩くくらいなら大丈夫です。アルメリーができないことは、俺がしますから――」


 さっき言われた言葉をそのまま返す。

 アルメリーが恥ずかしそうに「うん」と頷いた。



 ◆◆◆


 俺たちは湖畔から少し森に入った場所で立ち止まった。


「じゃあ、薬草を探します」

「座って探すの?」

「こっちの方がやりやすいので。あっ、数分経ったと思ったら起こしてください」

「……前にやってたトレーニングと同じ?」

「はい。これやると時間の感覚がイマイチわからなくなってしまって……」

「危険じゃない?」

「大丈夫です。加減できるように色々と練習しましたから」


 心配そうな顔をするアルメリーに、大丈夫、ともう一度告げる。

 そして、俺は目を閉じて瞑想空間に意識を集中する。


 アルメリーを助ける為に、《強感力》は随分鍛えた。

 セレリールの祝福もあり、その力は《共感力》へ派生し、《狂感力》にも広がった。


 ただ、《強感力》は意識を集中しないと範囲を広げられないし、《共感力》や《狂感力》は使うだけで目の奥と頭が強烈に痛む。


「ナギっ、ナギっ!」

「あっ、もう経ちました?」


 アルメリーの揺さぶりと大きな声で我に返る。

 集中すると無防備なので仲間がいないと使えないおまけ付きだ。


「大丈夫? 汗かいてるよ」

「この技、周りが見えなくなるみたいで。ってそんなことより、あっちに質の良さそうな薬草が数本あります」


 アルメリーに引っ張って起こしてもらう。

 二人で少し奥に進む。


「これです」


 目星をつけた場所で、その薬草はすぐに見つけた。

 ナユラさんに渡したものと同じ、金色のオーラを放つ薬草が数本。

 もう少しストックしておきたいので、再びその場所に座り込んで《強感力》の範囲を広げる。


「ナギっ!」

「あっ……ごめん、次はあっちです」


 立ち上がろうとして、膝に力が入らず前のめりになった。

 横からさっと腕が伸びてきて、支えられる。

 剣呑な表情のアルメリー。


「どうかしましたか?」

「ナギの治療のためなのに、ナギがそれでふらふらしてたら意味ない」

「それは……確かに……」

「もうこれで終わりだからね」

「ごめん」

「謝るのもダメ! 仲間なんだから、頼ってよ。苦手だけど……薬草だって探すし」


 アルメリーが頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いた。


 ――反省します。


 俺たちは結局、十数本の薬草を手に入れて湖畔に戻った。


「薬草ってどう使うんですか?」

「こうするの」


 アルメリーは一本の薬草を手に取り、ぎゅうぅっと片手で絞った。

 拳を握り込むんだだけだ。

 しかし、手首に流れてきた緑色の液体を指ですくって俺の足に塗った瞬間――


 とんでもない速度で傷が消えた。


「すごっ!」「すっごーい!!」

 「「え?」」


 同じテンションの声が重なった。

 慌ててアルメリーと顔を見合わせる。

 そして、吹き出すような笑みを零した。


「なんでアルメリーまで驚いてるんですか? 薬草知ってますよね?」

「だって、こんなに早く治ったの初めて見たもん。いつもは血が止まるくらいなのに……一瞬でケガが消えちゃった……すごい」


 しげしげと足先を眺めるアルメリーは本当に驚いている。

 やっぱり金色のオーラは特別製なんだろう。

 しんどいけど探す価値があるな。

 これからのケガの為に、見つけたらたくさんストックしておこう。


「ナギの座る人ポーズのおかげだね」

「座る人ポーズ……あの、ポーズじゃなくて、一応ちゃんとしたスキルを使ってるんですけど……」

「知ってるけど、いつも寝てるみたいに動かないから可愛くって。何しても起きないし」

「……起きない? まさかと思いますけど、変なことしてないですよね?」


 アルメリーがびくっと体を強ばらせた。

 この人狼娘は嘘が下手だ。

 嫌な予感が走り抜ける。

 ジト目を向けると、アルメリーがさっと視線をそらした。


「し、してないよ」

「ほんとに?」

「ほんとだもん! 別に変なことは……してないし」


 ぽしょぽしょ言うアルメリーをじぃっと見つめると、彼女は居心地悪そうに身をよじった。

 けれど、これ以上の追求は無理そうだ。

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