第10話 真理、銀座のホステスになる
オーナー兼ママは真理の履歴書と容姿を見て気に入った。容姿端麗であり東大試験に合格する程の頭脳で、元田園調布のお嬢様とあって一発で採用された。もちろん園子の父の紹介であり保証人も引き受けてくれた。
「真理さん、頼むわね。貴女ならきっと売れる。それで源氏名はどうする」
「源氏名ってなんですか? あの源氏と関係あるのですか」
「ハッハハそんな事も知らないの。ホステスは本名を名乗らないの。ほら歌にもあるでしょう。昔の名前で出ていますって歌、知らない? ♪京都にいるときゃ忍と呼ばれたの、神戸じゃ渚と名乗ったの♪ ホステスは好きなように名前を変える事が出来るのよ」
「はい申し訳ありません。あまり歌謡曲は聴かないのでクラッシック音楽なら」
「本当にお嬢様育ちなのね。まぁいいわ、その方が、新鮮味があって、それと安心して此処は会員制だからお客さんは紳士ばかりで社会的地位の高い人が殆どなの」
翌日から真理は源氏名を(夢・ユメ)と名乗る事にした。自分の夢を実現させる為の夢だ。ママが予想した通り初日から、その新鮮味が客の心を掴んだ。特に話が上手というより品があるのだ。真理は客をもてなしというより人と話ことが、こんなに楽しいと知らなかった。
最初は日給制、二万五千円から始まった。だが真理はお金に興味はなかった。単一日が楽しければ良いのだ。
真理は昔の自分が甦ったような気分になった。これが水を得た魚というのだろうか。綺麗なドレスを着て仕事が出来て、社交的な振る舞いは元々備わっていた。
気が付けば一年が過ぎて居た。給料も今では日給六万と一流のホステスに伸し上がった。月に二十日に働いたとしても月百二十万、これはちょっとした中小企業の社長の給料に匹敵する。銀座とはそういうところだ。
真理が入ってから店の売り上げも飛躍的に伸び、気を良くしたママは、他の店に引き抜かれるのを警戒し二年目から特例として歩合制となった。
それから暫くしてクラブに園子が様子を見に来た。ママが園子を見つけると笑顔で出迎えた。
「ママ真理は迷惑かけて居ないですか」
「迷惑どころか、店のドル箱的存在よ。本当に良い子を紹介してくれたわ」
「へぇーそうなのですか。真理は性に合っているのでしょうか」
「なんでも社交界ではお父様の手伝い代わりにパーティーに出ていたようで、この仕事があっているでしょうね」
「良かったわ。もう辞める心配しなくていいですね」
「ちょっと辞められたら困るわ。まかせて私が立派に育ててみせるわ」
つづく
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