第9話

「じゃあ、話すわね」


俺が椅子に腰掛けたのを見て、鍛冶師は話し始める



────────

私は、ほんの二年前までは...この王国でも一番の鍛冶師だった

自分で言うのもなんだけど、鍛冶師を育てる学校も首席で合格したもの


少し...ほんの少しだけ天狗になっていたのかもしれない

あの日のことだけは、絶対に忘れられないわ


転機になったのは、三年前

主席で卒業し、ほかの卒業生が熟練の鍛冶師の元で修行をしていく中で、私はいきなり自分の店をもつことになった


それから、私のつくった武具はたちまち人気になり、多くの冒険者が私の店を訪れるようになったの


そうして、私の名は王国全体に広まっていき...

ある日、私の店にある人が来て仕事の話を持ってきたの


その人が言うには、「私のもつ鉱山には、多くの鍛冶師が使っている鉄鉱石以外にエタソノミアという素材がとれるんです」


「エタソノミア...それって!」

学校で習った、絶対に壊れることのない石

その素材は、周りにある別の鉱石ごと取ることで、武具づくりに使えるのではないかと言われていた

でも、それを実現した人は今まで一人もいなくて

絶対に無理だと...私なんかには出来やしないと思っていたけど、その人の話を聞けば聞くほど...自分の力ならっ!って


「で、ぜひあなたにエタソノミアを提供したいなと考えておりまして」

「ぜ、ぜひ!」


いつも通りなら、絶対に受けることのなかった依頼を受けることになってしまった

そこから、数日がして...私の仕事場には大量のエタソノミアが届いた


まず、エタソノミアの周りにある別の鉱石を取り除き...そこから、エタソノミアを少しづつ武具として使える形に整えていく


「なんだ、ほかの鉱石とやり方変わらないじゃん」

と、本来鍛冶を生業にしている者であれば絶対にしないような油断をしていたそのとき...


普段なら仕事場に絶対に置いていない本や布が火の近くに落ちていることに気がつく


「っ!?」


だが、時すでに遅し

あっという間に、落ちていたものは燃え...そこからは、あまり記憶がない


気づけば、弟子たちに連れられ仕事場の外へ

もう、自分には仕事場が燃えて...ただの建物の残骸になってしまうのを見ることしか出来なかった


私の不注意で仕事場が燃えたという話は...私の武具の人気ぶりと同じように、あっという間に広がり...

翌日から、私の仕事はゼロに


エタソノミアを提供した人とも、連絡は取れなくなり

私の信頼は地に落ち、周りの人からの目も随分冷たくなった


それから、私の問題についての話が収まるまではずっと、働きもせず...


でも、その間もずっとあのときの...エタソノミアの加工が心残りで仕方がなかったんだ


それを考えるたびに、自分の友人や弟子、他たくさんの人が頭の中に浮かんできて「お前にそれをやる資格はない」とか「もう鍛冶師として、私の前に出てこないで」なんて、言われる想像をして...毎晩泣いていた


そして、火事が起こってから二年が経ち...

もうほとんど私の話が聞こえることはなくなり、私は鍛冶を再開することにしたの


でも、また店を構えて弟子を取りでもしたら問題になるのは目に見えてた

私は、ただエタソノミアを加工する...そのためだけに、この世界に戻ってきた


幻惑魔法で、顔が変わったように見せかけ...偽名を使い働きはじめ、設備を整えるための資金を集め始めた


そして、ようやく資金が集まり...設備を整えた

肝心のエタソノミアは、火事が起こったあの日にたまたま残っていたものを見つけ、大事にとっておいたおかげで作業をし始めることが出来た


────────

「そんな...すぐに信頼がなくなってしまったんですか」

腕は間違いないし、そんな簡単に信頼を失うとは考えられないが

「弟子たちの成長の機会を奪ってしまったもの  全部、自業自得だから」

「それは....」

何も言えなくなってしまった


なんとなく、2人とも黙り込んでしまい、必死に何かないか、話を思い出す


「..ん?」

「どうかした?」


ちょっと待てよ、話を聞いてる限り...


「あの、あなたはエタソノミアで武具をつくるために戻ってきたんですよね」

「あ、あぁ...そうだけど」

「ってことは、この店に置かれてる武具って」

「...全部エタソノミアでつくったものだよ」

「売ったりは?」

「君が始めて」


あ、あれ?

おかしくないか?


「何か気になることでもあったの?」


俺の質問を不思議に思ったのか、グッと近づいて聞いてくる


「俺がここに来ることになったのは、ギルドでたまたまお手伝いをしてた同級生に言われたからなんですけど」

「うん...」

「おかしいと思いません? 誰にも売ってないなら、店を紹介するときに一番有名なお店なんて言うと思いますか?」

「そんな風に!? ちなみに、誰に?」


「えっと、ケメリカ剣術学校一年のジェーンです」

「....なるほどね、全くなんていう縁なのか」


知り合いなのか? 

確かにギルドの手伝いをしているジェーンなら、この人の過去を知っててもおかしくはない...のか?

いや、それよりも血縁関係が...


「たぶん、今君が予想している通りだよ

ジェーンは、私の姪っ子だからね 私の過去は全部知ってる」

「そんなつながりが...」


全く世界は狭いな...本当に


「ひとまず、辛い過去を...俺なんかに話していただいてありがとうございました」

「...そんな、わざわざ頭を下げなくても」

「いえ、おかげで覚悟が出来ました」

「覚悟...?」

「はい、あなたが作ったこの武具とともに戦う覚悟が」


この人が今まで経験してきたものは、俺なんかが簡単に語れる話ではない

それは、この人が作った武具にもいえる

想像も出来ないような、過去...後悔、悲しみ、孤独...

そんな、いろいろな物が組み合わさって生まれた物だから

それを無視して戦うのではなく、ともに戦う

その思いを武具の力に変えて戦う


「...本当にありがとう 君の活躍が聞けたそのときには...もう一度店を開くよ」

鍛冶師は、涙を袖で拭きながら立ち上がり剣と防具を俺に手渡す


「そういえば、名前をお互いに言ってなかったわね 私はルメルシェよ」

「あ、確かに...俺は、レオンハルトです」

ルメルシェさんは、俺の名前を聞いて...笑いながら続ける

「レオンハルトね、覚えたわ 私がもう一度、店を開くことが出来たら...そのときは一番に...その、あなたの武器たちをもっといいものに改良できるようになってみせるわ」

ルメルシェさんは、グッと拳を握ったかと思えば、再び奥の工房に行って何かをもってくる


「これは...?」

何やらブレスレットのようなものを手渡される

「装備した人の魔力を増やすブレスレットよ、あなたへのプレゼント」

「え、そんな...」

悪いと、すぐに返そうとするが


「いいの、あなたのおかげでもう一度鍛冶に...きちんと向き合えるような気がするから」

と、ブレスレットを俺の手から取ったかと思えば、俺の左手首にブレスレットをつける




「じゃあ、本当にありがとうございました」

「いいわ、頑張ってね」


しっかり会計を終え、早速防具を着て剣を携え...お世話になったルメルシェさんに頭を下げ、店の外へ


「...そろそろ、ギルドに戻るか」

頑張るしかない、な

俺は事情を話してはいないが、ここまでしてもらったんだ

勇者だろうがなんだろうが、絶対に負けない

そう決意を固め、ギルドの方へ歩いて行くのだった









少しわかりにくいストーリーになってるかもしれないです

申し訳ない

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