第5話

「ということで、レオンハルト選手が今代の勇者と結婚を───────」


「あああああああ!!!」

完全に忘れてた! 終わった....


──────────


絶望から数分が経ち、控え室にて...


「はぁ...」

俺は思いっきり落ち込んでいた

そして、そんな俺を見て、


「あっはっはっは、まさかとは思ってたけど本当にやるとは!」

笑顔のセドリック


「まぁでも、よかったじゃん。ケメリカ王国の男全員が憧れた勇者の夫だぜ?」


励まそうとして...? と思ったが


「ケラケラ笑いながら言うんじゃねぇよ、そろそろ泣くぞ」

「はっはっは、まぁまぁ」


こういうときにセドリックといると調子が狂う

ゆっくり落ち込むことすら出来ないし...


「ちょっと頭を冷やしてくる」

と、椅子から立ち上がり廊下へ


「表彰式までには戻って来いよーー」

「...あぁ」



────────────


控え室を出て、呆然として歩き続け...気づけば大会の会場の外にいた


「本当にどうすればいいんだ...」


一応、選択肢としては...

受け入れるか、逃げるか


極端だけどこれしかないよなぁ

まぁ、後者は無理か...相手チート勇者だし


俺が魔剣士で特殊とはいえ、別に身体能力とかは普通の人間と変わりないし

身体強化の魔法とかはあるにはあるけど、魔力の消費がとんでもないし、長くは持たないから逃げれないな


「はぁ、手詰まりか...」

打開策も思いつかず、改めて絶望しているところで...



「さっさと動け!!」

「ひっ、すみません!!」


ん...?

どういう状況だ?

遠いからよく見えないし、もう少しだけ近づくか


「あいつだけは絶対に逃がすなよ!!」


って、あれもしかして勇者か?

腰に差してある剣って、勇者しか使えない宝剣だよな


え、でも勇者がそんなこと言って...相当まずい状況に遭遇した...


「魔剣士だ、何をしてくるか予想できない

あいつを逃がせば、私の..勇者の地位ですら危うくなる

テキパキ動け!!!」

「ぐっ!!」


「あいつを生かしておけば...取り返しのつかないことに」


殴ったし、え今なんて言った? 殺そうとしてる?

嘘だろ、勇者にこんな裏があったなんて

えぇ...ちょ、まじ?


婚約がどうとか、そういうのどうでもよくなってきた

ひとまず狙われてるのは、魔剣士って言ってたし俺確定だよな


「よし、逃げるか」

このままだと死ぬ



──────────────


急いで会場の中に戻り...


「それではただいまより、今回のケメリカ剣術大会の表彰式、及び勇者アイリーン様とレオンハルト様の結婚式を行います!!」


「おおおお!!!」

「待ってたぜーー!!」

と、会場全体の熱気が高まっていく


「まずは、第三位の表彰から...」

司会の人、そしてメダルをもったケメリカ王国の王様、確か名前は...アンドリューだったか、セドリックとシャーウッドの前へ


「セドリック選手とシャーウッド選手です!!」

司会がさらに盛り上げ...

「全く今大会は優秀な剣士ばかりだな、よくやったぞ」

そういいながら、アンドリュー国王がメダルを首にかける


『ありがとうございます』

二人そろって感謝を伝えると、司会はすぐに次へ


まぁ、勇者の結婚に時間をつかうためなんだろうが


「つづいて、第二位ミカエル・ヘッグ選手!!」


「まさに手に汗握る熱戦だった、ありがとう」

慣れた手つきで、メダルを首にかける


まぁ、魔術大会とかもやってるぐらいだし...


あ、ちなみにミカエルの戦意等々は元通り

てか、ちょっと魔法の影響で軽く記憶は都合のいいものに差し替わってるが

レオンハルトがなんとか勝利を手にした...みたいに


「ありがとうございます」

普通に返答をする 

もし、ここで記憶が現実に忠実なものだったら今頃混乱してるはずだしな


気づいたら、負けにされててなぜか表彰されてるみたいな


「次は...優勝者 レオンハルト選手です!!!」


「すごかったぞー!!」

歓声と拍手がものすごいことになってる

会場全体が揺れているような、錯覚に陥るほど


「まさに、最強と呼ぶべきだろう

君のおかげで素晴らしい大会になったと思うぞ」


と、俺の首にもメダルがかけられる


「あ、りがとうございます...」


俺が返事した直後、控え室につながる廊下の方から...


勇者の登場

これには、会場の人たちも呆気にとられている


「あれが、勇者なのか...」

「オーラで消し飛びそうなんだが...」


それはちょっとわかる、と思わず表彰台の後ろの方から聞こえた声に賛同してしまう


そのぐらい、とんでもないオーラを放っているのだ

まぁ、あえて言うなら人外だな


でも、セドリックから聞いた話だがこれでも魔王を追い詰める程度までしかいけなかったらしい

真偽不明だが、それだったら魔王は多分誰も倒せないな


まぁ、最近は魔王による被害とかも少なくなってるらしいが


って、それよりも...


「では、つづいて...みなさん、お待ちかねの結婚式を行います!!!」


呆気にとられていたはずの観客、次の瞬間には再び盛り上がりを取り戻していた


あの司会の人..すごいな

いや、違うか

それほどまでに、勇者が影響力を持っているというべきか


ただ、みんなには悪いが...俺も死にたくはないんでな


「あのーー!!すみません、一つ言わせてください!!」


大声で、観客を黙らせる


「えっと、どうかしましたか?」

ちょっと焦りながら司会がこっちを向く


「その拡声器、貸してもらっても?」

「え、別にかまいませんけど...」


半ば、強奪に近い形で司会の...魔力のこもった拡声器を口に近づけ


「えー、俺...レオンハルトはここに」


「なんだ、宣誓みたいな感じか?」

「ずいぶん気合い入ってるじゃねぇか!」


と、もう聞き飽きたような観客の声が聞こえる


「勇者アイリーンとの婚約を...」

まだ、今なら取り返しつくぞ

本当に言っていいのか?

最悪、この国から出て行くことに...いや、死ぬんだぞ


「破棄します」


「は?」 

「え」 

「ちょ、ちょっと待ってください!それってどういう...」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る