第10話 17時40分①
「……」
「………」
宇治治と室内に二人きり。
もし、今じゃなかったら嬉しかったかもしれない。
だけれど、あんなに醜い形相を見せられて、俺の宇治治への淡い想いは消えつつあった。
最初は可愛いと思っていた魔女の姿も、何だか今では奇妙に、そして異様に毒々しさがあって気持ち悪く感じる。
「…私ね」
「…あ、ああ」
ソファに座る宇治治が、突然声を出す。
その声は穏やかで、いつもの彼女と変わらなかった。
俺は窓から宇治治に視線を移す。
「私、蛇九くんのこと好きだったんだ…お金持ちだからとかじゃなくて人柄が好きだったの」
「そう…だったのか」
その気持ちには何となく気づいていた。
俺は、宇治治のことをずっと見ていたから。
だけど、今となっては悔しいとかそういう気持ちは全くわかなかった。
多分、それほどまでに俺は、先程の宇治治の取り乱し方に引いてしまったのだと思う。というか、そこまで強い想いでもなかったのかもしれない。
「だから…蛇九くんと元々仲の良い因崎くんのこと…、正直あんまり好きじゃなかったんだ」
「………」
「私…蛇九くんのあんな姿見て…、おかしくなっちゃったのかな…。因崎くんにあんなひどいこと言ってサイテーだよね」
宇治治は顔を両手で覆う。
肩が震えていて、泣いているようだった。
宇治治は先程よりもずっと冷静になって、自身の因崎への仕打ちに反省しているようだった。
「こんな状況なら…疑心暗鬼になっても仕方ない…よな?とりあえず明日の朝、無事に帰れたら謝れば良いんじゃないか」
俺はとりあえず、宇治治を責めずフォローに徹した。
逆ギレされる可能性を考えたというのもあるが、単純に半べその女の子を怒る気にはなれなかったのである。
それに女子の場合は共感してあげたほうが良いというではないか。
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