第8話
「お母さま、あのですね、これには深い・・・深ぁい、訳がありまして」
いつものように言い訳する私。
目の前には目が銀ギラと輝く女王様。
「・・・訳があってもなくてもあなたは、朝から殿下に取り入ったと?」
「ち、違いますですよ、これは・・・あ、学園に忘れ物したんで取りに行ってきます!」
叫んで逃げた。
「・・・でん、か、なぜそこにいるんですか。都合よく」
「うん?」
学園にダッシュで戻ったら、殿下が机に座っていた。
「はあ、はあ、疲れた・・・」
自分が令嬢だと言うことも忘れてダッシュした挙句、肩で息をする。
その時、廊下から足音が聞こえた。
ひいっ、まさか追ってきたの?!
あ、馬車だな?!
卑怯者!
心の中で叫んで教室に隠れ場所を探す。
「隠れたいのかな?」
なんやらお見通しな感じで言われたが、一刻を争う今。
大きくうなずいた。
「おいで」
え?
殿下は立ち上がり、大きな窓をがらりと開ける。
殿下はひょいと窓からテラスに出た。
私も同じように窓に出る。
殿下は窓を閉めた後にしゃがんだ。
ちょうどしゃがむと、窓側の壁に隠れるようになる。
「・・・奥様、ティアラさんはもう帰ったと思いますが・・・」
先生の不思議そうな声。
「おかしいわね。ここに来たはずなんだけれど」
うう、教室入ってくるのはいいけど、窓の近くで下をのぞいたらアウト。
というか、それ以前に・・・
「なぜ殿下も隠れたんですか?」
殿下は片目をつぶって笑う。
「面白くてね」
はあ・・・面白いのかなこれ。
そのあと、がやがやと先生とお母さまの会話が聞こえたが、すぐ出て行ったらしく、教室は静かになった。
「もう行ったみたいだね」
「はい・・・ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」
殿下がそういうことする人じゃなさそうだけど、殿下のお父さんにでもこのことを愚痴れば・・・私の人生さようなら。
とりあえず謝った。
「じゃあ、出ようか」
殿下は器用に窓を開けて教室へ入る。
私もそれに習った。
「・・・で」
で?
「なぜこんなことに?」
あー。
「・・・わ、私、野菜・・・に、人参が嫌いなんですけど、それを残したら怒られて、逃げてしまっ・・・」
唇にすらりとした殿下の指が当たる。
「嘘禁止」
にこりといわれれば、さすがに嘘をつくことはできない。
って、ちょっと待って下さい。
私、これでも一応女・・・最近乙女になってきている者なんで、そのイケメン顔(元推し)がドアップで、指が唇に当たってるとか、ちょっとギブ・・・
私は頬が熱くなるのを隠すために両手で顔を覆った。
「ティアラ嬢?」
「・・・ごめんなさいです私が悪いですけど顔が近くてかなり心臓に悪い・・・」
すらすらと思ったままのことを言えば殿下は苦笑して一歩後ずさる。
「じゃ、本当のこと言ってくれるまで待とうかな」
「・・・」
私は指の隙間から殿下を見る。
運悪く目があってしまった。
「・・・か弱い令嬢に尋問するなんて」
「か弱い令嬢?俺の前にいるのは思ったことをズバズバと言う令嬢だけど?」
「・・・(何も言えない)」
「それに、尋問じゃなくて、相談、の間違いだよね?」
「・・・(何も言えない)」
「まさかこの国の王子と、いいとこの貴族令嬢が窓からテラスに出た、なんてばらしたらどうなると思う?」
「・・・(何も言えない)」
殿下の言葉は最もだ。
一応優しい人みたいだし、本当のことを言ってしまおうか。
それがいっそ、手っ取り早いかもしれない。
「じゃあ、正直に言います」
手を外して殿下を見る。
「・・・私、殿下に近づくなと言われておりまして」
「・・・へえ?」
「理由はまあ、はい、そうなんですけど、今日の朝とか、殿下と一緒にいたのが伝わってしまったみたいで・・・」
「・・・」
殿下は考え込む。
「ティアラ嬢は、母君が好き?」
突然言われた。
私はしろもどになりながら答える。
「えと・・・顔だけ?」
「顔以外は?性格とか」
「それは分からないですけ・・・」
その時、職員室の方が妙にうるさいことに気づいた。
「何かあったのかな?」
殿下と一緒に向かってみれば、先生が私を見つけて焦って言う。
「ティアラさんここにいたの?!あなたの家が火事になったらしいの!急いで帰りなさい」
え・・・?
茫然とする私の手を殿下が引っ張る。
それにつられて、私は走った。
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