魔女アイドルの事件簿

（二十九）

　　その現場は喫茶店であり、仕事の担当者を探すたびにその場所を訪れるものです。紗希たち四人以外に、小蝶の姉である翠華と奇妙な行進曲がいるだけでした。

　　「そして、貴殿の映像を再視聴した後、奇妙な事実に気付きました。」紗希が解説する際、奇妙な行進曲は一貫して頭を垂れていました。

　　「ええ、各スタッフに尋ねた覚えがあります。なぜミントを好むのか、その理由を。誰かはもともとミントの風貌が好きだからかもしれません。また別の者は、歌がうまくないという遺憾を補うために利用しているのかもしれません。創作意欲を満たそうとする者もいます。要するに、様々な理由がありますが、ほとんどの人はミントの音にはあまり意識を向けていないようです。」

　　「しかし、ただひとり、貴殿は『自らがミントの音に引き寄せられている』と述べられました。これにより、突如として思い浮かんだのです。オンライン上では、貴殿の映像のみが音の電子的な感触を取り除き、できるだけ音を小玉の姉の声に近づけようと努力しています。ミントの葬儀の際もそうでした。そして、この一点から、ミントを愛する人が実際に小玉の姉であることが分かったのです。」

　　「そうです、貴女の言う通りです。私は古倩美の美しさに惹かれています。初めて彼女の声を聞いたのは、ある酒場の中でした。その時、本当に驚きました。たとえ現場の人数が少なくても、彼女は全力で歌おうと努めていました。」

　　「それでは、古倩美の姉さんはどこにいるのですか？」 マリーナが急いで尋ねました。

　　「分かりません。」

　　この答えに、紗希たちが驚きの表情を浮かべました。

　　「分かりません？では、なぜ…」

　　「貴女はそれを不公平だと思いませんか？みんながミント、ミントと話しているのに、その声が誰のものか誰も知らない。みんなが彼女を忘れてしまった。だから私はミントを憎んでいます。そして、その会社も憎んでいます。彼らがいなければ、彼女は今のような状況にはならなかったでしょう。彼女が彼氏を作っただけで、彼女を抹消し、関連するイベントに出演させないどころか、単に仮想の絵で代替させたのです！私はこれをずっと狂わせたかったのです。コンサートは私にとって大いなる機会です。」

　　奇妙な行進曲は立ち上がり、大声で叫びました。これにより、場にいた客人たちが驚いてしまいました。翠華姉と古玉美は急いで彼を制止しました。紗希も手伝おうと思っていましたが、その時に電話がかかってきました。それはパパからのものでした：

　　「紗希、いらっしゃいますか？」

　　「はい、パパ、何かありますか？」

　　「小玉はあなたのそばにいますか？」

　　「います。」 紗希は古玉美に一瞥を送りました。この時、奇妙な行進曲は静まり返っていました。「何かありますか？」

　　「警察が彼女の姉を見つけたようですが、ただし…」

　　「ただし？」

　　「とにかく、今は彼女を港湾病院に連れて行ってください。彼女にはまだ伝えないでください。私も今向かっています。」

　　どのようにして彼女に伝えないようにすればいいのか、紗希は全く思いつきませんでした。半分も進まないうちに、古玉美の尋ねる連続の質問のもとで、つい彼女に話してしまいました。病院だと聞くと、古玉美と奇妙な行進曲は急いで前に駆け出し、紗希たちは後ろから追いかけるしかありませんでした。

　　夜の病院は明るく、周囲の暗さと対比して寂しい雰囲気が漂っていました。病院の前に到着すると、紗希のお父さんが待っていましたが、古玉美と奇妙な行進曲はどこにも見当たりません。紗希は急いで尋ねると、彼らがすでに病院に入っていったことが分かりました。彼らの後を追いながら、何が起こっているのか、なぜ病院にいるのかを尋ねました。

　　「黄警官の情報によれば、一人の少女がおそらく小玉の姉さんである可能性があります。」

　　「彼女はこの病院にいるのですか？」

　　「はい。」 紗希のパパが頷きます。「黄警官はあまり詳しくは言っていませんが、少女が2、3日前に運ばれてきたこと、身分証明書を持っていなかったため、誰か特定できなかったことを伝えてきました。しかし、小玉の描写から判断すると、おそらく彼女の姉妹だろうと考えられます。」

　　「では、彼女は今どうなっていますか？どこにいるのですか？何か大きな問題が起きているのでしょうか？」 紗希は連続して質問を投げかけました。マリーナはこれまで見たことのないような紗希を目にしました。以前は多少おせっかいながらも、のんびりとした笑顔で、自分らしい紗希だったのに。

　　「私もあまり詳しくは分かりませんが、状況はあまり良くないようです。」

　　紗希はそれを聞いて振り返り、通りかかった看護師を引き止めて質問しました。看護師が話を終えると、紗希はパパのもとに戻り、手短に報告しました。そして、パパが口を開きました：

　　「申し訳ありません、娘がお騒がせしてしまい。」

　　「大丈夫です。」 看護師は笑顔で言いました。「もしかして、小さな女の子と大人の方を探されていますか？さっき警官と一緒に上がって行きました。」

　　「どの部屋に行ったかご存知ですか？」

　　「３０４号室です。」

　　「ありがとうございます。」

　　３０４号室の前で、黄警官が向かい側の壁にもたれかかって立ち、医者は彼の隣に立っており、二人は会話を交わしていません。重い雰囲気が漂っています。奇妙な行進曲は３０４号室の前に立ち、中を見つめており、ひとたび動くことなく、紗希たちが通り過ぎても動きません。

　　部屋の中では、古玉美がベッドのそばに立ち、ベッドを見つめています。ベッドにはやせ細った少女が横たわっており、もしこれほどやせていなければ、肩まで髪を切っていれば、古玉美と少し似ているかもしれません。肌は非常に白く、ベッドシーツとほぼ同じ白さで、本来は頭を覆っていたはずの毛布が、現在は首まで引き上げられています。紗希とマリーナは部屋に入り、パパと黄警官が話す様子を見ています。

　　紗希とマリーナは一人左一人右で古玉美のもとに近づきました。マリーナは最初にベッドの上の少女を見つめ、彼女の顔が穏やかで生気を感じないことに気づきました。そして、古玉美を見つめるために頭を向けたとき、紗希も同時に見つめ、二人はまず互いの視線が交わり、その後古玉美を見ました。

　　古玉美は虚ろな目でベッドの上の少女を見つめており、泣いているように見えますが、涙は一滴も流れません。実際に泣くよりも、この状態のほうが辛く感じられました。この時、紗希のパパが入ってきて、古玉美をソファーに移動するのに手伝ってほしいと頼みました。二人は慌てて手伝い、なんとか古玉美をソファーに座らせ、彼女の頭をマリーナの肩に預けました。

　　長い時間が経過したかのように感じました。まるで一世紀も経ったかのような感覚でした。その間、外からハイヒールの音が聞こえてきました。カチカチと続き、ドアの外で止まりました。そして、外で誰かが話している声が聞こえました。それは重厚な女性の声で、男性の返答がありました。これは黄警官や紗希のパパの声ではなく、おそらくは医者の声でした。その後、再び静けさが戻り、ハイヒールの音が再び鳴り響き、スーツを着た中年の女性が部屋に入ってきました。

　　その女性はベッドの前に歩み寄り、一瞥を投げると、驚きで目を見開き、口を手で覆いました。紗希は、力強い吸い込む音と、少し震えたような息を聞きました。女性はさらに一歩前進し、両膝がガクンと折れ、ベッドに倒れ込み、声を失って泣きました。「倩ちゃん、お母さんはごめんなさい。」

　　婦人の泣き声が古玉美を取り戻させました。彼女の目には少し生気が戻り、マリーナの肩から頭を離して立ち上がり、ベッドの傍らに立っていました。

　　「ママ…ママ…」 古玉美が口を開きましたが、声は少ししわがれていました。

　　この言葉で婦人が頭を上げ、ソファの方に向き直り、古玉美を見つめました。「玉ちゃん？ あなたは…」

　　「姉さん、彼女が…」

　　婦人と古玉美は同時にベッドの上の人を見つめ、古玉美は長い間涙を流すことができずにいましたが、とうとう耐えきれなくなり、両手で顔を覆ってソファに座り、大声で泣きました。婦人は古玉美の泣き声を聞いて、顔を被せた毛布の中で再び泣き崩れました。

　　医者が部屋に入ると、二人はもう泣いていませんでした。彼らはソファに座り、赤くなった目でベッドの上の人を見つめていました。紗希とマリーナは彼らに席を譲って、紗希のパパと一緒にドアのそばに立っていました。古玉美の母親は医者を見ると、前に進みました：

　　「先生、いったい何が起きたのですか、なぜこんなことが…」

　　医者は答える代わりに、皆に外に出るように示しました。マリーナが古玉美を支え、一方で紗希と彼女のパパが古玉美の母親を支えて病室を出ました。外では、黄警官がまだ壁に寄りかかって立っており、奇妙な行進曲はベンチに座って頭を下げ、手のひらに顔を埋めていました。翠華姐は彼の隣に座り、小蝶は姉妹の横に立っていました。張螢雪は地味に壁に寄りかかって立っており、奇妙な行進曲の隣に立っていました。紗希たちは古玉美と彼女の母親を連れて向かい側のベンチに座りました。張螢雪の隣に座りました。

　　「先生、いったい何が起きたのですか。」 古玉美の母親が再度尋ねました。

　　「お嬢さんは過剰な薬物摂取で亡くなられたようです。」

　　この言葉を聞いて、古玉美の母親は再び口を手で覆いました。古玉美も立ち上がり、目を丸くしました。おそらく、既に知っていたのかもしれません。奇妙な行進曲は全く反応がありません。

　　「お嬢さんは2日前に発見され、神志不明の状態で運ばれてきました。身分証明書がなかったため、家族に連絡が取れず、本当に申し訳ありませんでした。」

　　「いや……ありえない……、私の姉がそんなことを……」 古玉美は震える声で言いました。

　　「私たちが知っていることは限られていますが、彼女の体に残された痕跡から判断すると、薬物を使用していた期間はかなりあります。でも、それほど長くはないようで、おそらく数ヶ月程度です。腕に残された針の穴も多くなく、太ももにも針の痕跡は見当たりません。」 と、黄警官も壁から離れて言いました。

　　後で黄警官から聞いたところによれば、古倩美は港湾地区の西側で見つかったとのことで、彼女を発見したのは薬局の店主でした。店主は古倩美が毎回注射針を買いに来るたびに謝罪し、また来てしまったことを申し訳なく思っていました。後で店主は古倩美が数日間来なかったことに気付き、彼女が薬物をやめたかもしれないと考えましたが、帰宅途中に彼女を発見したことに驚きました。その場所は貨物港に近く、治安があまり良くない地域でした。彼女は後ろの路地で誰かに発見され、入院時には既に意識が混濁しており、結局今日まで治療が効果を上げずに終わったそうです。

　　小蝶と翠華姐が別れを告げると、古玉美と紗希は微笑みながら頭を少し下げ、彼女たちが去るのを見送りました。彼女たちが遠くになるまで見送り、紗希のパパが彼女たちが誰か尋ねました。紗希とマリーナは今週起きたことをすべて話しました。途中で黄警官も興味津々で話を聞いていました。

　　紗希が奇妙な行進曲が犯人であることを言い出すと、全員の視線が彼に向けられました。彼は相変わらず何も言わず、同じ姿勢を保ちました。

　　黄警官が彼に近づいて軽く肩を揺すると、彼はまるで夢から覚めたかのように少し動き、黄警官を見上げました。黄警官は彼に紗希の言葉を聞いているか尋ね、彼は聞いたと答えました。

　　「それなら、何か言いたいことはありますか？」

　　「私は…逮捕される可能性はありますか？」

　　「それはあなたの会社や状況次第です。実際に殺人を犯したわけではなく、何かシステムを侵害したわけでもないので。」

　　「そうですか。」と奇妙な行進曲は再度顔を手の中に埋めました。

　　その後、医療スタッフが古倩美を部屋から連れ出しました。古倩美が視界から消えるのを見送りながら、古玉美の母親は再び悲しみに暮れました。しばらく泣いた後、彼女は古玉美に気づきました。古玉美はまだ悲しみの表情をしていますが、以前ほどの苦しみや涙はありません。

　　古玉美の母親は涙を拭き、古玉美の前に立ちました。「本当にごめんね、ずっとそばにいてあげなくて。」

　　古玉美はただ母親を見つめ、答えませんでした。

　　「私はあなたたちが私を憎むだろうと分かっています、本当に申し訳ありませんが、私は本当に...」

　　母親の言葉は古玉美によって首を振られ、しばらくして古玉美が言いました。「私たちは憎んでいません。」

　　「それ以降、あなたたちはどのように過ごしてきたのですか？」

　　「あなたが去ってから、パパは普段よりもはるかに多く酒を飲むようになりました。酔っぱらっては泣いたり笑ったり、人を罵ったりしています。私と姉に世話をさせようと言います。姉はパパの世話だけでなく、私の世話もします。後で姉は高校を卒業した後、大都市に来ることを決めました。」

　　「あなたのパパはどうなんですか？」

　　「パパは亡くなりました。姉が去った後、パパは頻繁に家に戻ってこず、去年の冬、酔って路上に倒れ、翌日になって誰かが見つけるまでそのままでした。その後、近所の人が私を引き取ってくれました。姉と連絡が取れなくなってから、ここに来ることを決めました。」

　　古玉美の母親は何も言わず、ただ古玉美をしっかりと抱きしめ、かすかな泣き声が聞こえました。しばらくして母親は古玉美を放し、彼女を見つめながら尋ねました：

　　「ママと一緒に住みたいですか？」

　　古玉美は答えず、視線を下に向け、母親のスカートを見つめました。

　　「小玉？」

　　「ママ、再婚したのですか？」

　　「うん、」古玉美の母親は急いで言いました。「彼は本当にいい人で、とても親切で、そして彼は私を支えてくれました。」

　　「彼はパパよりもいいですか？」古玉美は顔を上げて尋ねました。

　　「いいえ…比較することはできません。彼と結婚するのは、あなたのパパと比べてではなく、彼を愛しているからです...」

　　「それでは、もうパパを愛していないのですか？」

　　「本当にごめんなさい、でもお母さんには事情があります。」母親が問題を避けたのを見て、古玉美の心臓は締め付けられ、歯が震えました。

　　「一緒に住んでください。」古玉美の母親が懇願しましたが、古玉美は答えませんでした。しばらくして、紗希のパパが古玉美の母親の肩に手を置きました：

　　「彼女がしばらくこちらに住むことにしましょう。事態が落ち着いたら再考しましょう。」

　　娘が答えないことを知って、古玉美の母親は涙を拭き、立ち上がって紗希のパパに向かって言いました：

　　「あなたが娘を世話してくれたのですね？本当にありがとうございます。」

　　古玉美の母親はお辞儀をして言いましたが、紗希のパパが彼女を止めました：

　　「彼女は私の娘の親友であり、これは当然のことです。」

　　「しばらくは娘を頼みます。」と言って再びお辞儀をし、古玉美に一瞥を送りながら歩き去りました。数歩進んだ後、再び振り返り、しばらく見送るような視線を向けました。しばらくして、古玉美の母親はやっと向き直り、病院を去りました。全体の間、古玉美はただ黙って唇を噛んで見つめていました。

　　その後、皆が立ち去ろうとした時、奇妙な行進曲はすでにいないことに気付きました。張螢雪が口を開いて、彼はもう去っていたと教えてくれました。

　　病院を出た後、紗希のパパは古玉美を連れて歩きました。シルビアは古玉美の腕の中で、時折鳴きながら、まるで古玉美を慰めているかのようでした。後ろで、マリーナが小さな声で紗希に質問しました。：

　　「私はママの所に行くだろうか？」

　　「うーん、私だったら行くかもしれないわ、」と、紗希は少し考えて答えました。「あなたはどう？」

　　「私もわからないわ、想像するのが難しい。」

　　「それはいけないよ、答えがはっきりしないわ。」

　　「雪ちゃんは？」と、マリーナは張螢雪に舌を出して尋ねました。

　　「はい。」

　　「どうして？」マリーナは尋ねましたが、張螢雪は答えるつもりはないようでした。しばらくして、返事がないことに気づいたマリーナは、代わりに紗希に尋ねました。

　　「では、あなたはなぜそう思うの？」

　　「なぜなら、お母さんが悲しむからです。」

　　「それだけ？」

　　「はい、だから私は微笑みながらついていきます。」

　　「ですが、苦しみがないわけではありませんか？」

　　「苦しさも微笑みに変えられないでしょうか？」

　　「そうなんですね、私はきっと笑うことができないと思います。」

　　「本当ですか？」

　　「なので、私はたぶん行かないでしょう。」マリーナは星空に向かって顔を上げ、言いました。そして、もう一つ付け加えました。「張螢雪ちゃんもそう思って、だから行かないと言ったの？」

　　「違います。」

　　家に帰ったらね、マリーナは古玉美のことをすべて母親に話しました。その間、母親は黙って微笑みながら、彼女の頭を自分の太ももに置き、頭髪を撫でました。