第266話 そりゃカオスだもんげ、謎位あるにゃふ
誰もいないセーフハウスに一人、普段のはしゃぎ様が嘘の様に静かに座っているハトメヒトの姿があった。
腕を組み瞳を閉じて、何かを思案している。
友樹のレベル4の時に現れたソウルギアであり、初の【元は敵側】だったソウルギア。ソウルギアは自身の魂の欠片という前提を根底から覆す存在ではあるものの、それに対して深く突っ込まれたりはしない。
それは彼女が徹頭徹尾友樹の味方であり、同時にひとたび口を開けば疲れてしまうほどのカオス的なマシンガントークや、不思議な踊り、時にはその両方などで終始誰彼笑わせたり疲れさせたりしているせいで、これを真剣に考えるのは逆に疲れると言わんばかりに放置されている。
そしてハトメヒト自身、友樹を裏切るような裏などはない。
但し、流川が彼女を信用していない通り、ハトメヒトには友樹達が知らない何かを知っている。そしてそれを伝えられない状況だと言う事だ。
スキルによって彼女は嘘をつく事が出来ない。つまり彼女の言葉は全て真実であるが、「話さなければ」それが嘘か真実かを知る事もないだろう。
ハトメヒトは思案する。
ハトメヒトは思案する。
ハトメヒトは思案する。
これからの事を。
これから先のミッションを。
そして友樹に起きた不可思議な【合体】スキルの事を。
友樹が見た謎の人物の事を。
ハトメヒトは思案する。
ハトメヒトは思案する。
ハトメヒトは思案する。
それは可能性の一つ。
彼女が知り、彼女が知り合えない、違う何かを、ハトメヒトは知っている。
あらゆる世界、あらゆる事象、あらゆる全ての中に、彼等は存在し、誰もが生きている。その中の邂逅など天文学的な確率と言えるだろう。
【トランスブースト】というスキルを覚え使いこなしていた誰かと、ガチャで何故か手に入れた友樹がそうやって出会う可能性など本来あり得ないものなのだ。
何故ならば彼と友樹は違うのだから、交わる事のない世界で、交わる事無く終わった筈なのに、なぜか友樹はその男と出会った。
友樹という存在には何かがあるのだろうか。ただの一プレイヤーにしか過ぎない。
一線を画すような力がある訳でもなく、この世界の誰よりも幸運という訳でもなければ、その逆に不運という訳でもない。
ただの、どこまでもただの一プレイヤーな男が、何故複数の人型ソウルギアを手に入れ、トランスブーストというスキルを手に入れ、合体等という新しい力を身に着けたのか。
そして、ハトメヒトが一瞬ではあるが感じた気配。
それはプレイヤーにとっては合ってはならない物。
出会う事などある訳がない者。
しかし、友樹には微かにその残滓が残っていた。
「・・・我が主に、興味を持ったかディザスター・・・いや、その上位者よ」
ディザスターは人間を嫌っている。
地球のソウルギアと嘯くそれは、人間という種族を忌み嫌い、寄生虫とまで言い放つ。だが、ディザスターのマスターを【楽しませる】為に、今このようなふざけた遊戯が始まっている。
効率的に人間を間引き、それと同時に自らの主人に楽しんでもらうという事を同時に行っている。
色々手厚いルールなども追加されてはいるが、それも結果的には人間を間引くのに役に立つからだ。プレイヤーになれば一攫千金が出来る。そうすればそれを望む者が増えていく。その利益だけを吸いたいものが増えていく。
雪崩式に今や全世界の裏でソウルギアGAMEが爆発的に広まっている。
沢山の人間がプレイヤーに巻き込まれたり、友樹達は知らないが自らの意志でプレイヤーになったり、ディザスター側についた人間からスカウトされてプレイヤーになる存在もそれなりに居る。
人間を間引くという手段は徐々に進行していると言ってもいいだろう。
「だが、此度の事・・・汝等も寝耳に水であったろう、何せ我等、我ですら予想していなかったからな」
詳しい内容は彼女も分からない。
友樹に聞くにも今は時ではない。
だが、それでもハトメヒトは既に分かっている。
あの時、あの絶望の状況、友樹が生き残れた理由。
実力でどうにかできるものではない、その前から、ダンジョンアタックに向かう前から友樹に何かしらの加護か何かがかかっているのをハトメヒトは知っていた。
友樹は自分にかけられた加護がある事も知らないだろう。
他の誰も、流川や上位者のディーヴァですら見抜くことが出来なかったそれを、僅かな残滓からハトメヒトは見て取れた。
しかしハトメヒトと言えどそれがかの存在であるとは正直思っていなかった。恐らくはトランスブーストの時の彼の加護だったと思っていたのだ。
だが、前回のダンジョンアタック、考えれば考える程おかしい事が多すぎた。
一番は友樹達は知らなかっただろうが、途中【1層貫通】して次の層に行った事。
本来ならばありえない忖度の様なもの、この時点で彼女も察する事が出来た。友樹に僅かに付与されている残滓、小さな加護が【ディザスターがマスター】と呼ぶ存在の可能性が高いと。
そしてあの灼熱のヘルカイト。
絶対的な終わりを、ありえない奇跡の連発でクリアした事。
その後のおかしいレベルの報酬。
「我が主はとんと、色々な存在に気に入られる方なのかもしれぬな・・・」
ハトメヒトは思案する。
ハトメヒトは思案する。
ハトメヒトは思案する。
何れ、真実を話す時が来るかもしれないと。
その時友樹は、他のソウルギアは何と言うだろうか。
今はただ、何かも曖昧な未来を思案する事しか出来なかった。
―266話了
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カオスが・・・ない!??
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