第259話 よーし、歯ぁ食いしばれ。
―視点 山崎(リアリティアクセル)
蘇生薬のトレードはスムーズに終わった。
仲間だからという事でアルティメットレジストとの交換だけで良いとの事らしい。そのまま渡しても良かったとはあいつも言っていたが、それは俺も申し訳なさすぎるので断固遠慮させてもらった。
それでなくてもあのプレイヤーキラーが言うには俺の方がずっとポイント的に足りていないのをアイテム一つだけで交換してくれたのだ。文句など言える筈がない。
今、俺と隼人は地下の空室に居る。
蘇生をするなら俺の部屋よりここがいいだろうと思ったのだ。
「これで恵も蘇生かぁ、結構、普通に早かったな」
「あぁ。俺も何年もかかるかもしれないと思ってた」
プレイヤーになる前から一緒だった俺達3人。そしてもう二度とそれは叶わないと思っていたのに、俺の目の前にはそれを叶えてくれる薬がある。
正確には人間としては蘇る事はない。俺のソウルギアとして蘇る事にはなるが、それでも、もう二度とあんな失い方はしない。
「御堂の兄さんに礼、ちゃんと言ったか?」
「あぁ。ケーキ屋は寧ろあまり気にするなとも言っていたな」
山田や隼人はケーキ屋を年上という事でさん付けしたり、兄さんと呼んだりしている。俺も年齢的に考えればそう言うのが普通なんだが、今更この態度は変えられないし、あいつも俺がそんな態度で接するのはあまりよく思わないだろう。
昔の俺だったら、今の隼人みたいになっていたかもしれないけどな。
本当にあいつには世話になりっぱなしだ。ポイントを返し続けているが正直それだけでは到底足りていない。
あいつ自身別にそこまで恩着せがましい事は考えてないだろう。
困っていたから、丁度それをどうにかできる物を持っていたから助けた。そんなからっとした態度で俺を助けてくれたのだ。
あのジェミニが親友であると大きな声で言う理由がなんとなくわかる。なんだかんだとあいつは周りの人間を引き寄せている。
人間的に出来ているって訳ではない。善人ではあるが、普通にどこにでも居る男だろう。それでも、あいつは後輩に慕われ、同僚だった人間と仲良くやり、この世界に来てなんだかんだと縁を紡いでいる。
まさかのプレイヤーキラーまで関わっているのだから、もしかしたら天性の人たらしなのかもしれんな。
「いざ使うとなるとやはり勇気が居るな・・・」
「お前、俺の時もそうだったのかよ?」
「仕方ないだろう。俺だって人間だ」
「へいへい。ほら、さっさと蘇らせて殴られて来い」
「殴られる前提なのか・・・いや、あぁ。多分確実に殴られるな」
「ご愁傷様♪」
「この野郎・・・」
いつものやり取り。最近でこそ慣れてきたが隼人が蘇って暫くはこんな普通のやり取りだけでも涙が滲む思いだった。
もう会えないと思っていた親友にまた会えて、許してもらって、今ともに戦い続けている。
なぁ、恵。俺は・・・もう間違えない様に生きていきたい。
だから、次俺が馬鹿をやりそうなら、お前が俺を止めてくれ。
そう願いながら俺は、ディザスター経由で埋葬した恵みの遺灰が入った小さなボックスに蘇生薬を使用する。
ボックスに注ぎ込まれた蘇生薬が目を覆う様な光を放ち続ける。
あまりのまぶしさに目を閉じ、前と同じように暫く待つとそこには・・・
「あ・・・あぁ・・・」
「・・・・は? あれ? あたし・・・」
「ほんと、あの時のままだなぁ、おい!」
「え? は、隼人!? だ、だってあんた! って・・・透哉!?」
あぁ、あの時のままだ。
スポーティな服装も、ショートの髪形も、勝気な表情も、驚いた時は必ず左手で口を覆うのも、俺が知っている最愛の人である、恵のまま。
ただ、そう、ただ・・・俺のソウルギアという大きな枷を隼人と一緒に科してしまったとしても、またあいつに・・・
「ちょっ!? 何泣いてるのよ!? てか状況がわかんない! 隼人これちょっと教えなさいよ!?」
「わ、わかったら落ち着け!? ほら、透哉が嗚咽漏らして頽れてるから!!」
「あーもう、わけわかんなーーーい!!」
あの時の俺達の時間が・・・再び動き出した気がした。
※
「よーし、歯ぁ食いしばれっ!!」
頬所か顔面にストレートパンチがめり込んで俺は後ろに吹っ飛んだ。
痛いなんてものじゃあない、下手しなくても鼻の骨が折れたんじゃなかろうかと思えるほどの威力でぶん殴られた。
「あ、相変わらずおっかねぇ・・・」
「ふぅ。すっきりしたぁ。ほんと、あんたは馬鹿なんだから」
そう言うと恵は倒れ込んでいた俺に手を貸してくれる。
「恵・・・俺は」
「あー、はいはい。男がうじうじしないっ! もう過ぎた事でしょ! そして復活したんだからそれで終了! 以上!」
「さ、流石だな恵は・・・」
「先に隼人が復活してたのね。一瞬そっちになったのかと心配したけど大丈夫そうね」
「俺をそっちにもっていかないでくれ」
「そうだそうだ! 俺はノーマルだ!」
やめろ隼人。その言い方だと俺がノーマルじゃなくなるだろうが。
とりあえずは二人が死んでからの今までの事。ケーキ屋と出会い、蘇生薬を手に入れて漸く今日恵を蘇生出来た事、これからも俺はディザスターを滅ぼすために戦うことなどを告げていく。
そして、隼人も恵も俺のソウルギアとして復活してしまった事も。
すると恵は気にした風もなく。
「つまりそれって全員死なない限り無限に復活出来るって事でしょ? 寧ろお得じゃないの?」
「い、いや・・・アイデンティティの問題とか倫理の・・・」
「今更でしょ、今更。隼人はどうなの?」
「別に離れてても制限ねぇし? 人間からソウルギアになって困った事もねぇからなぁ。透哉はその辺繊細だから色々考えちまうんだろうよ」
「あー、わかるわー。ほんと透哉は昔からそうだもんねぇ」
「うぐ・・・」
昔からの俺を知っている二人には、流石に俺も口では敵いそうにない。
いつも大体において俺がやり込められてたからな。
そしてなぜかそれでも俺がリーダーみたいに動いて、二人はそれについてきてくれていた。親友として、恵は恋人として。
「俺達はこれからもミッションを生き延び続けて行かないとならない。恵、力を貸してくれ」
「何言ってんのよ。今更でしょ今更。分かり切った事聞くんじゃないわよ」
勝気な表情で恵は続ける。
「隼人が支援で、透哉が攪乱、私が一発ぶん殴る! 今までもやってきた事、そしてこれからもやっていく事でしょ?」
「・・・そうか、そうだな」
「ほんと、見た目はスポーティで清楚な美少女に見えるのに、俺達の中で一番修羅なんだよなぁ、こいつ」
「あぁ? うっさいわねぇ!」
「ヘルプ透哉!?」
「俺の後ろに回り込むな!?」
ケーキ屋。俺はあんたに返せるか分からない程の恩を受けた。
俺に出来る事は、一生をかけてあんたを守り、仲間として生きていく事しか出来ないが、何かあれば俺を頼ってくれ。
リアリティアクセル・・・最速のソウルギアプレイヤーとして、あんたの眼前の敵を、ディザスターやプレイヤーキラーどもを俺達が全力をもって薙ぎ払ってやる。
それが俺にできる唯一の恩返しだ。
―259話了
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山崎君、完全復活!!
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