第258話 何て礼を言えばいいのか分からない。
―視点 山崎(リアリティアクセル)
俺の目の前にはあれほど望んでいたアイテムが3個も並んでいる。
死んだ人間を蘇生する奇跡のアイテム・・・【蘇生薬】
今回のミッションは結局撤退する事になり、手に入れたアイテムもポイントも少なかった。何とか全員無事で済んだからよかったものの、一歩間違えていれば誰かが死んでいたかもしれん。
撤退を選んだ俺の判断は恐らく間違ってなかっただろう。
聞けばジェミニ達の方もボスを先に倒されての撤退だったそうだ。ランダム性が高いミッションな上に色々制限も付けばあのジェミニといえど普通に出し抜かれてしまうのも仕方ないだろう。
そんな中、ケーキ屋のパーティがボスを撃破して戻ってきた。
全く動く事も出来なくなったケーキ屋を連れてにはなるが、それでもボスを撃破して戻ってきたそうだ。
友人と言うにはまだそこまで長い付き合いがある訳でもないが、恩人でもあり、同時に仲間でもある男がそのような状態になっていれば俺も流石に心配する。
とはいえ極度の疲労で動けなくなっているだけと聞いて一安心していた所だ。
詳しい話も後で聞かせてもらい、あいつらが戦ったのが【灼熱のヘルカイト】とか言うレベル8のパーティでも容赦なく壊滅するモンスターだと聞いて驚愕した。
流石に中レベルのプレイヤーを相手にするという事で移動に制限があったらしいがそんな程度でどうにかなるモンスターでもなく、ケーキ屋とテルクシノエーがいなければ全滅していたと言っていた。
あの気に食わないが俺より強いだろうプレイヤーキラーの見習いもそこまで役に立っていなかったと言うのだから、俺達ではまず勝てなかっただろうな。
倒し方も魅了を浴びせ続けて自我崩壊させたなんて言う絡め手も絡め手だ。寧ろよくそれで勝利出来た物だと喝采を送りたいほどだ。
だが、その分報酬も凄まじかったらしく、道中を含めて2個の蘇生薬を手に入れてきたらしい。そしてあのプレイヤーキラー見習いが持っていた蘇生薬もトレードした事で、今ケーキ屋は3本の蘇生薬を持っている。
正直喉から手が出る程欲しいが、俺自身まだ1個目の蘇生薬の借金を返し切れていない。これ以上対価になるものは、と思っていた所にケーキ屋がトレードを持ちかけて来てくれた。
この前破談になったプレイヤーキラー見習いとのトレードに用いた俺が前のミッションで手に入れた防具。それとの交換をしてほしいと言われたのだ。
この防具自体も恐ろしく強い。
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【アルティメットレジスト:Lv4】 値段:非売品 レア:LR
効果:防具のレベルに応じたプレイヤー、モンスターからのダメージをレベルに
応じて軽減しカットする。この時、相手の状態異常もレベルに応じてカットする。
Lv1:レベル1までの相手の攻撃を99%カット 状態異常無効
Lv2:レベル2までの相手の攻撃を99%カット 状態異常無効
Lv3:レベル3までの相手の攻撃を99%カット 状態異常無効
Lv4:レベル4までの相手の攻撃を90%カット 状態異常無効
Lv5:レベル5までの相手の攻撃を20%カット 状態異常耐性
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レベル1~3までのプレイヤーやモンスターならこれ一つで負ける事は無くなるだろう。何せほとんどのダメージを無効化出来るのだから。俺自身レベル4なので、これを装備している限り同格の相手に対しては無双で戦える。
一応レベル5の相手に対してもそれなりの防御効果を有しているのが更に便利といえるだろう。レベル4の攻撃に対しては99%ではなく90%にまで効果が落ちるが、はっきり言えばほぼ誤差だ。
これが複数持っているプレイヤーパーティが居るならそこは暫くの間安泰だろう。とはいえ最近はちらほらとレベル5だの6だのを聞いたりするからそこまで完全な防具という訳ではないが。
これをあのプレイヤーキラーの女と蘇生薬をトレードする予定だったが、相手がプレイヤーキラーと聞いた事で一切妥協出来ず、俺の我がままのせいで破談になった。
惜しい事をしたとは思っているが、俺自身未だにディザスター側の存在に対する感情は抑制できていない。新しく仲間になったサリエル・・・生き残る為と大切な存在を護る為に致し方なくプレイヤーキラー側にならざるを得なかったという奴もいるには居るが・・・本当に俺は昔から変わらないな。
まぁ、それはいい。問題はケーキ屋が此方の方が足りないという事で破談になったこのアイテム一つでトレードをしてくれると言ってくれたのだ。
俺としてはこれほどの好条件他にはない。
強いて言えばまたケーキ屋に対して恩が重なってしまう所だろうか。この恩いつかどうにかして返していきたいと考えている。
それにしても3個の蘇生薬か・・・ケーキ屋は正直その辺の欲が無欲だからな、こう言うのは無欲な奴がよく手に入れると言うジンクスがあるが、まさにその通りか。
しかしこれで・・・隼人に続いて、恵も蘇生させる事が出来るのか。
蘇生なんて考えた事もなかった。
俺が馬鹿だったせいで失ってしまった親友と恋人。せめて仇を取ろうと今までの軟弱な自分を切り捨てて復讐者になった。何があってもディザスターを滅ぼしてやるとどんな手を使っても、もうこれ以上俺みたいな奴を作るまいと戦い続けてきた。
俺の愚かさの故の結果、大切な人間を失った。
それが今や新島はソウルギアとしてだが蘇り、恵の蘇生も目の前に届いている。
ディザスター憎しで戦っているのに、結局俺はディザスターが用意した力で戦い、用意したアイテムで蘇生を試みようとしている。
あまりにも情けない。
だが、情けない云々で、俺が恥をかくだけで、俺が道化になる事で隼人と恵が戻ってきてくれるのなら。俺は道化になってやる。
それで失ったものが元通りになるのなら、俺の感情なんて二の次、三の次だ。
俺はもう多分変われないし、変わる事はない。ディザスターに対するこの感情はもう二度と変わらずにこのままだろう。
だからケーキ屋・・・お前は俺みたいな意固地なダメ人間にはならないでくれよ?
あんたは笑いながらケーキ作ってたりする姿が一番似合ってるよ。
―258話了
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