第250話 ま、なんだかんだで、どうだこうだ。



 ぽたりぽたりと何かが滴り落ちているのを御堂は感じた。


 ゆっくりと覚醒した意識が、先ほどの事や直前の事を思い出していく。但し意識はあるものの、身体が全くと言っていいほど動かせずにいた。


 恐らくは生きてはいるが、それだけといった状態なのだろう。ゆっくりと目を開くと、予想通りに滝の様な涙を流しているサイレーン達の姿が見えた。


 ディーヴァだけは心配そうな表情で観ていただけで泣いていない様に見えるが、実はこっそり涙を流していたりするがあいにくと誰にも気づかれていない。


 目の開いた御堂を見たサイレーン達はそれぞれ破顔する。


「マスター・・・! マスターぁああ!!」


「よかった・・・まーちゃん、生きてた」


「だ、だから、ん。あーしらが無事だから大丈夫だって、言ってたじゃん」


「そういうクレアも、ボロボロ泣いてたよ」


 サイレーン、ショコラ、クレア、近くには腕を握って泣いている片桐の姿も見える。


「ごめんよぉぉぉ・・・! 私が、私がもう少し早く撤退しようとしてれば・・!」


「・・・気に、すんな。お前さんのお陰で、なんとか、生きてるよ・・・」


 気力を絞りつくさないと満足に言葉も繰り出せない御堂だが、まず何よりも聞かなくてはいけない事があった。


「・・・テルク、シノエー・・・と、ハトメ、ヒトは・・居る、か?」


「ご主人様・・! テルクシノエー、ここに」


「おそよう、であるな我が主殿。何やら楽しそうな夢でも見ていたのだろう。我も是非ご相伴にあずかりたいものだ」


 傷一つないテルクシノエーと、あちこち煤けているがいつも通りに軽口を叩くハトメヒトの姿があった。


 テルクシノエーも見た目は無事だが、疲労は御堂より多少マシなレベルだったりするが、主人である御堂の為に必死で呼びかけ続けていたのだ。


 先ほどまでの轟音と灼熱が嘘の様に静かになり、暑さも引いた階層。


 御堂は見えないが、そこには既に灼熱のヘルカイトの姿は無かった。


「勝った・・・んだな」


「えぇ、ほんとありえないですけど、僕達の勝利みたいですよー。師匠に教えたらなんていうかなぁ」


 ディーヴァはあのタイミングで攻撃から外れたおかげで難を逃れていた為、あの後の一部始終を間近で見る事が出来ていた。


 ヘルカイトが死なば諸共と放った破滅のブレスがタイプ・テルクシノエーに直撃するタイミングでハトメヒトが先にブレスに向かって飛び出したのだ。


 勿論やる事は最初と同じのダメージカウンターを繰り出す、勿論ダメージの反射なだけなので破滅のブレスはハトメヒトを消滅させ、タイプ・テルクシノエーを包み込んだのだ。


 だがそのタイミングでハトメヒトに与えたダメージが反射された為、既に自我が壊れ痛みの耐性すら満足に行えない状態でのそれは、著しくヘルカイトに激痛を与え、その拍子に頭部が急激に仰け反ってしまった事で、破滅のブレスがタイプ・テルクシノエーを真上にズレた事でダメージを最低限にまで抑える事が出来たのだ。


 それでも即死するには十分以上のダメージだったが、なんとか即死回避の効果を対象に出来る程に間に合う威力だった。それがどんな奇跡か。しかしながら今回の事片桐とハトメヒトがMVPな事に間違いはないだろう。


「ヘル・・・カイトは・・・どうな・・・った??」


「うむ、恐らく最後のダメージが致命傷になったのであろう。自我が完全に崩壊し生きた屍になっておる。熱もどんどん下がり、あと少し経てば完全に死亡するであろうな」


 ゲートの近くでは時々ピクリと動くものの、完全に思考や自我が破壊されたヘルカイトが消滅の時を待っていた。


 傀儡や洗脳ではなく、完全なる心の破壊に成功した事で、肉体はまだ生きているがそれ以外がすべて死んだのだ。今も呼吸をするという事すら忘れた竜の覇王は、光が消え失せた瞳をぎょろぎょろと筋肉が暴走して動いているだけだ。


 そこには敗者となった肉の残骸しか残っていない。


「止めを刺したいけど、ダメージ通らないから死ぬの待ってるんだよね・・・」


 困惑した様にサイレーンが言う。タイプ・テルクシノエーを撃墜したヘルカイト、地上に落ちてきた御堂とテルクシノエー、ひょこっと現れたハトメヒトのひとまずの命の安全を確認した彼女達は、怒りのままにヘルカイトにあらゆる攻撃を加えたのだ。


 だが、既に死に体とはいえ、竜の覇者ヘルカイトに彼女達の攻撃が通じる筈もなく、唯一火力として期待できるだろうディーヴァをもってしても鱗の1枚も引き裂けないし、眼球の様な柔らかい部分にすらダメージを与えられず、口内への攻撃云々もやはり同じ結果だった為、結局何もできずに諦めるしかなかったのだった。


「・・・よくも・・まぁ、それで、勝てたもんだ・・・」


「ほんと、凄いですよね。 実力で勝てないから状態異常で倒すとか良くもまぁ思いついたもんですよー」


「・・・はは、そこまで・・・考えてなかった、けどな」


「でも、えぇ。 でも・・・結果論ですが、ケーキ屋さんと組めた今日が僕にとって新たな世界へ導いてくれましたよ」


 全てにおいて負けていた相手に、ありとあらゆる手段を用いて勝利をもぎ取ったのだ。ディーヴァはそんな御堂に尊敬の念を持つ。


 師匠と呼ぶ男以外では初めてといってもいい事だ。基本的にディーヴァは誰かに対して尊敬の念を抱く事などないのだから。


 普通に戦えば自分よりも弱いだろう御堂。それなのに結果はまさかの大どんでん返し。自らの師匠ですら出来なかったジャアントキリングを目の前の男は成し遂げたのだ。先ほどまでは後悔しきりだったが、今はこの劇的な勝利を共にできた事を噛みしめていた。


【ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・】


 絞りつくしたようなヘルカイトの断末魔の叫びが響き、そして最後の生命活動を停止した。




―ダンジョンアタック・・・クリア!


―パーティ:ケーキ屋


―クリアおめでとうございます。 他の生き残りの参加者様を含め近場に転移用ポータルを設置しましたのでご帰還下さい。


 いつもの様に、ソウルギアGAMEからのシンプルなメールと、討伐報酬などが記載されていた。


 そこで再び驚く事になるのだが、今はミッションをクリアし生き延びた喜びを互いに噛みしめていた。



―250話了


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生活環境が目まぐるしく変わりそうです。

更新が不安定になるかもしれませんが、どうかご容赦を。

 

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