第249話 こういう時はケーキたべたい



 いつの間にか気絶してたみたいだ。


 てか、俺さっきまで何やってたんだ??


 なんか前にもこんな事があった気がするんだが・・・


 ふらふらする頭を振るって周囲を見てみると何故か岩場の中にいた。なんと言うかじめじめしてるが寒くもなく暑くもないみたいな場所だな。


 光の刺す場所も見えないのに何故かおぼろげに明るいんだが、もしかして近場に灯りでもあるんだろうか?


 今気づいたが地面も動物の皮みたいなので作られた簡易的な絨毯が敷かれてる。


 明らかに手作りっぽい木の箱には折れた槍やらぼろぼろの盾や、本や中身のない薬の瓶などが乱雑・・・じゃないな。馬鹿丁寧に収納されていた。


 それもこれも廃棄品にしか見えないが、大事な物と言わんばかりだ。こう言うのは誰かにとっては宝物なのかもしれんし、余り触らないでおこう。


 でだ?? 俺は何でこんな場所にいるんでしょう?? まったく何も思い出せん。


 こういう時は頭を働かせるために甘い物、つまりはケーキが必要だと思うんだ。


「悪いけど、流石にそこまでの高級品はないなぁ」


「うぉぉっ!? だ、誰だ!?」


 急に話しかけられて心臓がドキンと跳ね上がりつい動揺してしまう。声のした先には古い襤褸切れの様なものを羽織った、10代後半か20代位に見える男が座っていた。全く気付かなかったんだが・・・


 これまた手作り感満載のテーブルの上にはビーフジャーキーみたいなものが整理されておかれているのが見える。どうやらそれを食べていたっぽいが。


「す、すまん! 人の住んでる場所に勝手に!!」


「いやいや、気にしなくていいよ。僕がここに引き寄せたんだしね」


「は・・・?? そりゃどういう・・・」


「意識の混濁はまぁ、あれだけの攻撃を喰らえば仕方ないさ。何、目が覚めたら思い出すと思うよ」


 襤褸を纏った男が笑いながら言い、同時にテーブルの上にあったジャーキーをこちらに差し出してくる。


「とりあえずどうぞ? 僕の自信作なんだ。やはりジャーキーを作るなら塩が一番大事だと思うんだよね。しょっぱすぎても困るけど、ジャーキーを美味しく味わうのなら塩が大事だと思うんだ。なんて、君のケーキ作りの趣味と似てるかな」


「あ、あんた・・・誰だ?」


 朗らかに笑う男だが、はっきり言って身に覚えがない。見た目はイケメンって訳ではないな、俺と同等位のモブ顔って奴だ。俺がオラオラ系なら目の前の男は優男系。これでメガネかけて長髪で細かったらアニメに出てくるがり勉系オタクに見える、そんな感じだ。


 あと座ってたからわからなかったが、結構背が小さい。下手すりゃ最近の中学生にも負けてるのでは? 


「そうだね・・・僕と君とでは一切の接点はないけど。強いて言うならば、前に一度あったかな。うまく使いこなしてくれているかい? 【トランスブースト】を」


「・・・!?」


 そう言われて僅かに脳裏に走る。


 そうだ、俺は前に――


「僕は結局の所本人でもないし、後悔の果ての残滓程度でしかない。君の歩む世界に残るものもないし、託すものもない。ただ、受け継いだ君と少しだけ話がしたかっただけだよ」


「プレイヤー・・・だったのか?」


「どうだろうね? 記憶は定かじゃあない。ただ覚えているのは、護るものがあった。護り切れた。護り切れなかった。護られて終わった。多種多様に残るそれぞれの記憶。多分それは【トランスブースト】というスキルに染み付いたそれぞれの想いなのかもね」


「訳が、分からん・・・」


「大丈夫だよ。理解する必要もないし、僕から君に託したいなんてものもない。もし前の時に僕が何かを言っていたとしても忘れていいんだ。過ぎた存在の約束を守ることほど生きる上で無意味はないよ」


 そう言うと襤褸の男はジャーキーを齧る。


 ゆっくりと味わいながら、喉が渇いたみたいで指先から水があふれ用意してあった入り口が広げられた薬瓶に注水しそのまま勢いよく飲み込む。


「まさかヘルカイトと戦うとはね・・・あいつは本当に強かったよ。とある世界線の僕ならば、あっさり倒していたり、逆に負けてたりするけど。僕の時は、仲間が無双してたなぁ。誰だったか・・・残滓じゃ名前まで思い出せないや」


「ヘルカイト・・・」


 未だに頭にもやがかかっている様で、何も思い出せない。


 ただ、目の前の男が焦る必要はないと諭してきたので、どうしようもないので俺も座り、貰ったジャーキーをかじってみた。


 牛とも豚とも違う変わった味わいだ。まずい訳でもないし、ほどよく噛み応えがあり、塩気がとても利いていて旨い。酒のアテには最高だなこいつは。


 用意してもらった水を一口。ただの水なのにジャーキーの味と塩気を洗い流していくのがまた堪らない。こりゃ油断してたら全部食っちまいそうだ。


「美味いなこれ」


「だろう? これは僕が生きてきた世界のモンスターで【ハウンド】って言うモンスターの肉から作ったものだよ」


「犬かよ!?」


 一瞬吐き出しそうになったが、直ぐに冷静になる。


 男が言うにはハウンドと言う名前の【犬の様なモンスター】との事で、犬とは生態系からして全く違うらしい。見た目は多種多様でドーベルマンみたいなのが多いとか。


 低レベルで戦う様なモンスターらしいが、どう猛な大型犬が確実にこちらを殺しにやって来るって聞いた時点で、レベル1程度じゃ油断してたら噛み殺されて終わりだなと寒気が走る。


 男もハウンドにはさんざっぱらやられてきてたようで、倒して手に入れた肉を食べた時、これ以上美味い肉はないと叫んでたそうだ。なにやら満足に飯も食えずに森の中を彷徨ってたらしい・・・最悪だなそれ。


 ま、モンスター談義は良い。特にやる事も思い出せないので男の話を聞いて行く。


 トランスブーストってのは使い手によってさまざまに姿形を変える物だって事も教えてもらった。なんでも本来は普段使っている鎧騎士になったりするだけで、バリエーションが増えると、違う姿になったり、なんかTSしたり、さらには巨大化したり、しまいにゃモンスターにもなるそうだ。


 俺もまぁ、合体して巨大ロボットになるんだから自由度が高いスキルだなぁと改めて思う。男が言うには合体してロボットになるのは初めて聞いたらしい。


 多分それが俺が使う【トランスブースト】の特有の能力なのかもって話だ。


 ガチャで手に入れた普通のSSスキルなんだが、色々カスタマイズできる余地があるスキルなんだなと思う。


 その後も俺と男はたわいもない話を続けていた。


 途中ジャーキー談義やケーキ談義になって白熱したが、気にしてはいけない。












「さて、そろそろかな?」


「でだ、やはりホイップにはこだわりた・・・ん? 何がだ?」


「あ、完全に忘れてたんだね。ほら、そろそろ目の覚める時間だよ」


 困った様な表情で言う男の言葉に、いつの間にかリラックスしてた俺は一気に先ほどまで何があったかを思い出した。


「・・・・?! そ、そうだ俺は!? テルクシノエー!? ハトメヒト!?」


 そうだ、何落ち着いてるんだ俺は!?


 先ほどまで俺は全員で協力して階層ボスのドラゴンと戦ってたんだ。そしてあともう少しって所でなりふり構わずにぶっ放してきたヤバイブレスに直撃して、そこから何の記憶もなくなっていた。


 なんで俺はここに居るんだ? まさかここが死後の世界で、目の前の男はお約束の神様か襤褸を纏ってる所から見て死神かなんかなのか?


「大丈夫、ここは所謂現実と虚構の間。走馬灯とかスローモーションになるよね? それに似たようなもの。君は死んでいないし、多分もう少しで目が覚めるよ」


「あんた・・・本気で何者なんだ? 神様なのか??」


「あははは。僕が神様だったらきっとこの世界は神様だらけさ。僕は何者でもない、何でもない、ただの残滓。君が使っている【トランスブースト】を使っていた何者かの記憶を色濃く受け継いだだけの、もうすぐ消える欠片の一つ」


 ゆっくりと立ち上がると男は俺に肩に触れた。よく見れば男の姿が少しずつ薄れ、消えかけている。


「なにを!?」


「同じスキルを受け継いだ君に、残滓である僕が出来る先輩としての贈り物だよ。君は待たせている存在が居るだろう?」


 ヘルカイトがどうなったかまだ分からない。


 俺と合体してたはずのテルクシノエー、隣にいたハトメヒト。防御結界があるが、心配になるサイレーン、クレア、ショコラ、そして俺を俺以上に動かしていた片桐。


 一生懸命に相手の動きを阻害し続けてくれていたディーヴァ。他のミッションに行っている流川や、山崎達。


 そうだ、俺は起きなきゃいけない。こんな場所で死んでられないよな。


「僕も、似たような事で誰かを悲しませたことがある。あれは本当痛いんだ。自分が傷つくよりもずっとね」


「・・・あぁ、わかるよ。俺も似たようなもんだ」


「だから君は生きて、生き延びて、最後まであきらめないで立ち上がれ。挫けずに、理不尽に抗い続け、笑ってやるんだ」


 俺を暖かい光が包んでいく。


 襤褸を纏っていた男がそれと同時にどんどん薄くなり、聞こえてくる声も小さくなっていく。


「これで最後。後は君が諦めないで、君自身で立ち上がれ。トランスブーストを手に入れた君にならきっと出来る筈だ」  


 そして最後に、彼は笑いながら言った。


「楽しい時間だったよ。あぁ、ケーキもいいけどジャーキーとかも作ってみたらいいんじゃないかな?」


「俺はケーキ一筋なんだよ」


「残念だ。それじゃ―――――」


 男が消え、俺の頭を覆っていたもやが消えると同時に意識が覚醒していく。


 あいつが誰だったのかはわからない。何かを託された訳じゃあないし、きっとあいつが言う様に、同じスキルを手に入れた同士の雑談みたいなものだったんだろう。


 だが、きっとあいつは俺以上に誰かのために生きて、護り、終わったんだろう。


 俺もそんな生き方が出来るなんて思わないが、それでも・・・多分目を開いたら泣いてるかもしれんあいつらを慰めてやることはできそうだ。


―スキル譲渡


―御堂は【死からの生還】を獲得、同時に発動しました。


―それにより御堂及びテルクシノエーの死亡を無効化しました


―それに応じたソウルギアの消滅はありません


―御堂は【死からの生還】を失いました。


―再取得するには再び同じスキルを手に入れてください


―レベル上昇による【死からの生還】の獲得はこれ以降永劫ありません 


―システム外からの干渉をディザスターが確認。


―最上位命令によりディザスターの干渉がキャンセルされました




―249話了


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今日も休み時間0、雨は降りませんでしたが、凄まじい寒さでした・・・

明日も休み0ですが、一応それで休み時間0は暫くない筈なので

頑張ってきます。

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