第248話 お詫びとして報酬UPしておきます(ダケ
薄れゆく意識の中、ヘルカイトが藻掻いていた。
自分は圧倒的強者であり、このような制限を受けたとしても負ける訳がないと自負していた。あらゆる全ての障害を食い破り、破滅させ、ブレスで薙ぎ払ってきた。
稀に同族と戦い手傷を負う事はあったとしても、その全てを圧倒し撃破し生き延びてきたのだ。
ヘルカイトを招き入れた謎の存在が操る意思も自我もない木偶人形とは根本からして違う。竜として確かな生命を持つ誇り高き種族。
森羅万象を司る龍とは違い、天変地異を起こす力はないとしても存在するだけであらゆる存在が焼け死に、弱い龍であるならば竜である自身が凌駕する。
これまで負けた事など一度も無かった。
負ける訳がないと考えていた。
事実、これまで呼ばれた戦いは全て勝利してきたのだ。圧倒的な力で、無双の力で全てを殺し続けて来た。
ならばこの状況は何なのだ。
意識が揺蕩い、気を許せば自分が崩壊しそうになる。
我武者羅に暴れなくては自身を意識出来ない程に、全身を、脳内を、恐ろしい何かが入り込んでくる。
目の前のナニカがとても美しい番に見えてくるのだ。
それが違うとわかっている筈なのに、自身の全てを捧げ、命すら捧げ、糧になれと囁いているのだ。他でもない、何よりも自身を最高と信奉する自身がだ。
あってはならない。ありえてはいけない。
たとえ見目麗しい番であったとしても、自分が上位であり、それ以外は須らく下の存在でなくてはならないのだ。その常識が、その傲慢がゆっくりと削られていく、壊され侵されていく。
故に、目の前の何かを殺さなくてはならない。
このままでは、自分が消えていく。
ヘルカイトは焦っていた。
だからこそ、どうしようもないほどの隙が出来ていく。
※
相変わらず激しい攻撃が続いていくが、それでも少しずつではあるが動きが鈍っているのを片桐は感じていた。
御堂とテルクシノエーと思念を繋げ、自分では間に合わないタイミングがあった時も二人が咄嗟に反応してくれるお陰でギリギリ攻撃を無効化出来ている。
問題だったハトメヒトも先ほどの動きが鈍った時に回収に成功していた。
もう一つ問題があるとすれば、彼女の残機問題だが、今のペースで死に続けても3時間は余裕で持たせられるという事を聞いて胸をなでおろしている。
既にヘルカイトの攻撃目標はタイプ・テルクシノエーだけに固定されており、体中に張り付いているディーヴァの放ったクリーチャー達は完全に無視されている。
張り付いたそばから高熱で焼け溶けていくのでほぼ邪魔にもなっていないのもあるだろうが、わずらわしさや動きの阻害は出来ているのだ。だが、今のヘルカイトにはそれらを剥ぎ取っている思考の余裕もないが見て取れる。
悲鳴の様な絶叫をあげ続け、暴走したかのように暴れ続けている。
モニター内部の魅了浸食度は既に【88%】を超えていた。
自我のほぼ9割を浸食されても尚、抗い続けている事に苛立ちを恐怖を感じながらも破滅のブレスに気を付けて攻撃しては回避を続けていく。
『あと少し・・・! あと少しだ!』
【・・・本当に凄いな、片桐は――】
脳内に響いてくる片桐の声を聴きつつ御堂は彼女の土壇場の勇気と頭の回転の良さ、そしてゲームスキルに驚嘆していた。
自身の変身スキルがロボ、機械になったからとあの状態で自身をソウルギアで強化しつつ、更にはコントロールまでするとは夢にも思っていなかった御堂。実の所片桐もただの勢いだけで捜査しているので、ハイテンションが故に行動なのだが。
自分の身体が自分で動かせず、自分ではできないような挙動や攻撃を仕掛けている事。
正直な話、御堂はそこまで片桐を戦力として考えていなかった。出来る限りの戦い方を教えつつ、なんとか一人でも、もしくは仲間と協力して貢献できるようになれば御の字だと考えていた所がある。
個人戦闘力は低く、確かに機械を用いた戦闘は出来る様になったが同レベルのモンスターには確実に押され、プレイヤーが相手となれば余程自分の優位な地点に持ち込まなければ勝てる可能性はない。
あくまで前のサイレーンの様なサポート的な立ち位置。
御堂の中の片桐像はそれだった。
それが今、まさかの御堂すら操作しきるほどの腕、ゲーム世界とソウルギアの力で世界を認識し、荒れ狂う化け物とモニター越しとは言え戦える胆力。
ある意味では最強のパーティメンバーになれるだろうと、改めて片桐未来という女性を認め、深く信頼できる存在だと認識した。
今御堂が出来るのは、彼女ですら見逃してしまう様な些細な動きや、直感的な回避などの指示。テルクシノエーと合体している事で彼女の適格な状況把握と指示が出来る様になっている今、片桐には二人の高性能なサポーターが付いている様な物。
近場では熱気と戦いながらも諦めずにクリーチャーを呼び出し続けヘルカイトの動きを阻害させようとしているディーヴァの姿。
これが御堂が諦めなかったからこその結果だとすれば、立ち上がり格好つけた意味はあったのだと感じていた。
『浸食度93% あと少しだっ・・・てぇ!? まずい! あいつもなりふり構ってねぇ!?』
【ブレスか!?】
見ればヘルカイトが最後の抵抗と言わんばかりに口を大きく開き、白黒にスパークさせていた。既にほぼ浸食され、自我が崩壊しかけているヘルカイトが死なば諸共とばかりに全てのエネルギーを込めて【破滅のブレス】をタイプ・テルクシノエーに向かって放とうとしている。
最早まともな判断も出来ていないのだろう、見れば見る程浸食される姿を眼前に捉え、打ち砕かんとばかりに高速移動している姿を完全に捉えている。
『結界に移動させる! それなら――――――!?』
ここまで浸食させたならば最早回復は不能と判断し緊急避難させようとするが、全てのエネルギーを用いて放とうとしているブレスの発射速度の方が僅かに早かった。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!】
ブレス回避の為に下がったその瞬間を逃すまいと、全てを打ち砕くブレスが完全にタイプ・テルクシノエー飲み込み、その勢いのまま階層の果てまで極光が貫いていった。
―248話了
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ラストアタック賞 ヘルカイトさん
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