第247話 ---------------------------------------------------
―楽しくない。
―楽しくない。
―まったく楽しくない。
―全然楽しくない。
―さっきまで楽しかったのに。
―さっきまで面白かったのに。
―面白くない。
―これはどうしてこうなっている?
―何故今こんな事になっている?
―ランダムだから?
―ランダムにしてもおかしいのではないか?
―面白くない
―楽しくない
―つまらない
―困る
―約束したのに
―これでは約束を守ってもらえない
―なんで?
―どうして?
―お願いしたのに
―なんで?
―なんで?
―なんで?
―なんで?
―なんで?
―なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?
モニターの向こう、決死の戦いをしている竜と機械。
他の場所でも激戦はしているし、何人ものプレイヤーが様々な場所で死んでいるが、それらは関心すら寄せられない。
【それ】はただ、竜と戦い続ける機械を見続けていた。
旗色は悪い。そもそもが実力差が違う相手を、ありとあらゆる手段を用い、一人でありながら複数、複数でありながら一人を体現する事で、相手の制限も相まってぎりぎり戦い続けられている。
このまま戦い続ければ、負ける可能性があるだろう。
そうなればどうなるか。
死ぬ。
これまで見てきた、プレイヤー達と同じく、あっさりと消えていく。
死ぬのだ。
死んでしまうのだ。
今まで、【それ】はその様子を見ていた。プレイヤー達が戦い、喜び、悲しみ、生き続ける様子を楽しんでみていた。
死ぬのは少し寂しかった。 何故ならもうそのプレイヤーは見られる事はないのだから。
それでも、多種多様、ありとあらゆる世界中に存在するプレイヤー達が、それを飽きさせずにいた。
【それ】はただ見ているだけだ。ただ見ているだけで、一切の干渉はしていない。これらをショーとして見せているのは、いつの間にか増えていた自らを下僕と名乗る何かだ。
【あなたを楽しませるために――】
そう言って【それ】の為に、今の様なものを用意し、楽しませるために様々な事を行ってきているらしい。
らしいと言うのは【それ】は何も知らないからだ。
ただ、いつの間にかあり、いつの間にか自我を持ち、いつの間にか下僕という物が増え、いつの間にか今の様になっていた。
ただ、何もせず、何も見ず、何も感じず、生きているだけの【それ】が初めて能動的に喜んだ物。
しかし―
しかしだ―
【これは違う――――】
【それ】がそう思った瞬間、周囲が歪んだ。
世界中のミッションを映している筈のモニターが摂理を無視してねじ曲がり、壊れ、消えていく。
たった一つのモニター以外が壊れていく。それだけではない、【それ】の周りが歪んでいく。撓み、壊れ、捩れていく。
あまりの強大な力。これの前ではヘルカイトですら塵芥だろう。
凄まじい波動と力に気付いた【下僕】が何事かと侵入し、消滅しかけた。
【が・・・・があああああああああああああ!?】
見た目がモザイクなどで歪み見えなくなっているそれが少女の様な甲高い声を上げながら苦しみ藻掻いている。
その正体を知っているものがいれば驚愕しただろう。何よりも恐ろしい存在と言われ、崇拝すらされていた自らを下僕と名乗る存在が、一瞬で死にかけた。
死んでいないのは慈悲か、それとも。
全身が捩れくるい、見えないが無事な部分は一つもない。意識が朦朧とし、少しでも気を抜けば死亡してしまうだろうダメージを受けた下僕はそれでも尚、【それ】の前に跪いて伺いを立てる。
【主よ・・・! わ、我が偉大なる主よ。お許しを、お許しを。何か、何か貴方様を不快にさせてしまったのでありましょうか】
下僕には皆目見当がつかない。
先ほどまでは楽しんでいたのだ。
まさか自分から能動的に、自身の願いを言うなどいつ振りかと感激し全力で答えた筈なのに、目の前の主人から感じる気配は【怒り】だった。
感情を基本的に持っていないと思われる自らの主人が、今明確に怒っていた。
震えが襲い、恐怖が支配し、【それ】を怒らせてしまった自身の至らなさに絶望するが、それでも尚許しを乞い、【それ】が再び笑ってくれる為に全てをかける。
そして下僕は気づいた。
ほぼ総て破壊されたモニターの中、たった一つだけ無事な物がある。
その先には見飽きた戦いが続けられているのが見えた。
か弱きトカゲと塵芥が戦っている。
そしてその塵芥を下僕は知っていた。
頼まれたからだ。
あの塵芥を次の層を無視して進めてやってくれと―
あの塵芥が作った何かを持ってきてほしいと―
いつぶりの【それ】からの願いに喜びを感じると同時に、下僕は危惧したのだ。たかが塵芥が【それ】の興味を強く引いた事に。
故に、【あえて】難易度の高いボスとエンカウントするように確率を上昇させた。無論、全力を振り絞れば勝てる可能性を加味してはいるが、九分九厘死亡するような階層へ。
そして例え死んだとしても、自らの主からすれば塵芥の中の灰の一欠けら。直ぐに忘れ、他の事を楽しんでもらおうと考えていた。
普段から感情のない瞳をしている【それ】の目が下僕を見ていた。
そこには普段以上に、自身に一切の価値を感じていない。それ所か不必要と言わんばかりの瞳だった。人間の様な肉体はしていない下僕ではあるが、まるで血の気が引いた様に全身が冷えていくのを感じている。
答えによれば、目の前の主人は容赦なく自身を滅ぼすだろう。
そこには一切のためらいもない。本来【それ】には他の物など不必要なのだ。ただそこにあり続ける【それ】を不憫に思った下僕が勝手にやっている事なのだ。
下僕であるそれが消滅したとしても、永劫を生きる【それ】は何ら困る事もなければ、変わる事もないのだ。
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【み、こころの・・・ままに】
それだけ言うと再び凄まじい威圧と共に下僕は吹き飛ばされた。
周囲の捩れは収まり、残った一つのモニターは今も無事にその場面を中継している。
決死の戦いを続けている機械。
その中を見れば、彼が居た。
約束をしている。
約束をしているのだ。
約束は守らなくてはならない。
だからこそ、これは必要なのだ。
【それ】は初めて、何かを依怙贔屓した。
また会うために、その為だけに。
―がんばれ
―がんばれ
―おうえん
―おうえんする
―まけるな
―まけるな
モニターの向こう。
機械の神が、輝いていた―――
―247話了
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大雨の中外で仕事は体に辛いですね・・・
GWあけにかなりつらみです。明日は朝早くもなりましたし
風邪に気を付けなければ・・・
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